11話/ルイナークラフト・バスターウェーブ
ウロレベにおける物の硬さについては大体こんな感じ
柔:普通の鉄<強化者の肉体<狂化異物<強化者の武装:硬
「《搭載狂化異物の状態を測定中です。装着者の生前遺志による因果逆説連想が発動済みであることを確認……確認終了。83秒後に効果は目標値に達成すると予測。命令遂行に支障無し。『プロトコル・献身』を開始します》」
付属スピーカーから再生される音声をかき消すように、ガシャン! という音を連続させ、脚部のみのパワードスーツが走り出す。
その姿は、猛る闘牛にも似ていた。
装着者に気を使う必要がなくなったからか、機械の脚の速度は凄まじい。
ひびの入った消波ブロックと骨が剥き出しになった焼死体を乗せたまま、ミライとミルへ突進してくる異形。力を失った巨漢の骨格は、炎を纏いながら勢いよく揺れている。
見る限り、あのパワードスーツは狂化異物になっているわけではない。だが、あまりの異様さに流石のミライも気圧された。慄いた。
故に、反応が一瞬遅れる。
「しま……っ!?」
敵が向かったのは、自分ではなく、ミルの方だった。
金髪――否、赤髪の少女は慌ててライターを敵へと向け、叫ぶ。
「こ、来ないでっ! 『焔の花弁』!」
ライターから飛び出す、花びらのような一片の火。
案外にゆっくりと飛んでいく小さな赤色は、敵へと触れた瞬間、爆発を起こした。
「うぉっ……!」
すぐ近くで巻き起こった爆風に、ミライの前髪が持ち上がる。
『心燃やす灯火』を解除していたのか、先ほどの『閃撃火』に比べれば威力は低い。
だが、その一撃は機械の脚を揺らがせ、たたらを踏ませることに成功していた。消波ブロックの表面に焦げ跡が残る。
(熱と衝撃が効いてる!? 制御する人間がいなくなったことで、能力の効果が切れたのか?)
このまま攻撃し続ければ、撃破出来る。
ミライはミルに向けて口を開いた。
「宮火! 炎が効いてる! そいつは私が足止めするから、『灯火』で火力を上げて追撃を――」
が、ミルはその言葉に答えない。
くらり、と、まるで貧血を起こしたかのようにふらつく少女の身体。
(――まずい! 想臓器に限界が来やがった!)
思えば、ミライの学生時代にも、宮火ミルは全力を出し切った後には髪が赤くなっていた。
今の爆発は残りの力を振り絞った最後の一撃だったのだろう。
ゆっくりと倒れていくミル。
サークニカが展開していた闇に入らないよう、高台の端に立っていた彼女は、地面に向けて真っ逆さまに落ちていく。
いくら強化者でも、この高さから落ちるのは不味い。そばにある波のプールに落ちるのならまだしも、隣のプールサイドに頭から落ちれば死ぬ可能性もある。
ミライは高台から飛び降りた。
敵を取り逃がすことになるが、今は彼女が優先だ。こんなところで死なれては、何のために銃弾から庇ったのか分からなくなる。
後から落ちた物が先に落ちた物に追いつける道理は無いが、ミライは高台の壁面を蹴って加速する。空中でミルを抱き寄せ、落下。
二人は水飛沫を立てて波のプールへと着水した。
波が打ち付ける中、ミルが頭を抑えながら目を覚ます。
「ぷはっ……。ご、ごめんなさい、おねえさん……」
「大丈夫だ、あんなの誰だって驚く。それより、あれはどこに――」
ミライの言葉を遮るように、ドガァン! と凄まじい落下音が響いた。
高台の階段から跳躍したのだろう。機械の脚は放物線を描き、隣にあった巨大ウォータースライダーのスタート台へと落下する。
着地の衝撃により、脚部のみのパワードスーツはフレームごとへし折れ、内部の部品を撒き散らす。超常の硬度を持つ消波ブロックの狂化異物は無事だが、ただの機械であるパワードスーツの方は完全に壊れていた。
「なんだ……? 何がしたかったんだ?」
不可解な動きに困惑するミライ。
千切れたケーブルが火花を上げ、徐々にモーターの動きが止まっていく中、付属スピーカーは最後の音声を発する。
「《最終命令――遂行完了。『プロトコル・献身』は正常に完了しました。装着者の生前遺志による因果逆説連想の効果が目標値に達成するまで残り――3秒。搭載狂化異物の能力は『波動消去』から『波濤受身』に切り――替え――済み――です――》」
徐々に間延びしていきながら、スピーカーからの音声がぷつりと切れる。
異変が起きたのは、その直後だった。
「――おねえさん! 後ろっ!」
「後ろ……?」
ミライは振り返り、目を見開いた。
――まるで壁のような大波濤が、後ろから迫ってきている。
「な……ッ!?」
どう考えても、プールの造波装置で作れる規模の波ではない。
ミルを抱えたまま、ミライは慌てて水面を蹴り、プールから脱出する。
間一髪のところで、二人は波を避けることに成功した。
プールの水を全て使ったような怒涛の波が、周囲の物を全て飲みこみながら消波ブロックの狂化異物の方へと向かっていく。
この波も狂化振動波を帯びているのだろう。波に壊された物のいくつかが狂化異物になるが、波はその狂化異物ごと内側に飲み込んで進んでいく。
(あの狂信者……死に際に狂化異物の能力を切り替えたのか!? 恐らくは、消波ブロックを『波を消すもの』じゃなく、『波を引き受けるもの』と定義した、波の発生・誘引能力……!)
因果関係が逆転した連想による能力効果。
強化者の中にもこれと同じ技法を使う者はいるが、その存在は極めて稀だ。特殊な精神構造をしていなければ滅多に使えるものではない。
狂信者の最後の抵抗に驚くミライだが、そんな彼女の耳に悲鳴が届く。
「だ、誰か! 誰か助けてくれっ、このままじゃっ、誰かぁああっ!」
波が進む先で、武装集団に脚を撃たれたまま置き去りにされた男子――二車クドウが、這いずりながら助けを求めていた。
「! 助けないと……!」
「いや、あれはもう……」
飛び出そうとするミルを抑える。
二人がいる場所からでは間に合わない。助けに行ったところでまとめて波に呑まれるだけだ。
ミルが能力を使えるならまだどうにかなったかもしれないが、今のミルはもう完全に消耗しきってしまっている。
(すまん……)
本来、二車クドウは死ぬ人間ではなかった。こうなってしまったのはミライが下手に干渉した結果だろう。
もはや、歴史の修正力で奇跡的に助かることに賭けるしかない。
ミライが思わず目を瞑ろうとした、その時だった。
――竜胆トウジが、凄まじい勢いでクドウの元へと飛び込んだ。
「なっ……少年!?」
「竜胆!?」
「掴まれ、早く!」
トウジは脚が動かないクドウの身体を抱えあげる。
だが、トウジの片足もまた、ズタズタに潰れていた。
一本足でクドウの身体を支えながら、トウジは無事な方の脚で地面を踏み――その皮下に生成した筋繊維の束を、極限以上に引き絞った。
「間に合えッ!」
脚で発動された『壊拳』によって、吹き飛ぶように跳躍する。
(だが、これは……)
しかし迫りくる水の壁。
どうあがいても、安全域に届かない。
呑まれる。
再生を持つトウジならば生き残れるだろうが、二車クドウは、やはり……。
ミライがそう思った、次の瞬間。
「……『心火瞬灯』!」
トウジの右腕が膨れ上がり、皮膚が破ける。
皮下に収まりきらないほどの筋繊維の束が、彼の腕から飛び出した。
今のトウジの力量を超えた出力での肉体生成。
それは、本来ならあり得ないほどに高まった集中力によるもの。
(馬鹿な、それはまだ教えて――いやそうか、宮火の技を見て自力で!)
原理はミルの『心燃やす灯火』と同じだった。
彼は自らの神経系へ肉体操作を行い、己の精神を瞬時に最大の覚醒状態へと至らせたのだ。
トウジは抱えたクドウから手を離し、波へと向き直る。
そしてそのまま右腕を振りかぶり――生成した莫大量の筋繊維を、極限以上に引き絞った。
「待て、まさか、少年――!」
しかし、これだけでは波を打ち破るのにまだ足りない。
トウジは、力を込めるのに邪魔な痛覚を切断する。筋肉が破断し、骨が軋む音。
それまでの壊拳とは比べ物にならない威力が充填されていく。
「やめろ! その技だけは撃つな!」
だが、痛覚とは人体のリミッターだ。
ただでさえ反動で自らを砕く力を持つ人間が、それを取り払った時。
どのような代償を受けるかは、明白である。
「死ぬぞ!」
「『全壊拳』!」
トウジはミライの警告など、一切聞かなかった。
打撃とは思えないそれは、まるで閃光のようだった――いいや、閃光だった。
あまりの速度に大気が白熱し、拳が輝きを放っていた。
爆音。
超威力が、大波濤の半分を吹き飛ばす。
そしてトウジの体もまた、その反動で破裂した。
※
残った波が消波ブロック型狂化異物の方へと向かっていく。
が、そんなことはもはやどうでもよかった。
「り、りり、竜胆……」
手を離され、プールに落下したクドウが、顔を蒼白にしてそばに浮いたトウジへと呼びかける。
しかし、それにトウジは答えない。
いいや、答えられない。
彼の首から下は、もう無い。
「この、馬鹿っ! ふざけるな、なんで、なんでお前が……!」
ミライは全力でトウジに向かって走る。手を伸ばす。
「お、おねえさん、でも、あれは……!」
「まだだ! まだ間に合う! 頭さえ無事なら、再生出来る!」
トウジは意識を失い、その《ウロボロス》の効果も停止しつつある。
だが、この距離ならば、ミライの《ウロボロス》が届く。
「やれる! 絶対にやれるはずだ! あいつも強化の対象なことには間違いない!」
ミライとトウジは同一の存在だ。
すなわち、ミライの《ウロボロス000》は、トウジの体を強化の対象にし、操れる。
ミライによる肉体操作が、消耗しきったトウジの想臓器へと干渉する。外部から無理矢理に活性化された想臓器が、少年の肉体を徐々に再生していく。
トウジが普段扱うものより遥かに精密な肉体再生が、首から下を戻していく。
重心が変わったことでトウジが水を飲みそうになったものの、そばにいたクドウが慌ててプールから引き上げた。
「あ、ぐっ……」
上半身が元に戻ったところで、トウジは自分から体を再生し始めた。ミライはトウジの顔を覗き込む。
「大丈夫か少年!? 私のことが分かるか!?」
「み、ミライ、さ……」
「よし! もう大丈夫だぞ。これで、もう、大丈夫だ……!」
ぎゅっとトウジを抱きしめるミライ。
そんな二人を見ながら、ミルがおどおどとした表情で言う。
「あの、だけど待って! まださっきの波が!」
「知るか! もう放っとけ!」
「で、でも、おねえさん!」
顔をしかめながら、ミライは波の方を見る。
残った大波濤は、まるで逆流するように巨大ウォータースライダーを駆け上っていた。
上へ上へと進んでいくその姿は、例えるなら滝を登る無数の鯉だ。
大量の水がスライダーを上ると同時にへし折りながら、勢いを破滅的なほどに増して消波ブロック型狂化異物のあるスタート台へと向かう。
「これ、まさか……」
「……。飛ぶ気だな」
消波ブロックを飲み込んだ水流は勢い止まらず――まるで龍のように、放物線状に空を舞った。
空で半弧の軌道を描く鉄砲水。
交差するように描かれる七色の虹。
状況にそぐわぬ幻想的な光景。
しかし、その本質は破壊である。
それが進む先にあるのは、この火右京リゾートワールドにおいて最も大きなアトラクション。
世界的に見ても最大級――百メートルクラスの、巨大観覧車。
その場にいた誰も、今までの人生で一度も聞いたことの無い轟音が響く。破滅の水流は巨大観覧車の中心部分へと勢いよく衝突し、全体の形を歪ませた。
「…………」
しばらく静寂があった。
誰も、何も言わない。
そして、十数秒の後。
「《ご来場のお客様。火右京リゾートワールドにお越しいただきありがとうございました。当園及びその周辺は――本日にて尽く廃園とさせていただきます》」
――百メートルクラスの超巨大狂化異物が誕生した。
点検中だったはずの巨大観覧車は、いや巨大観覧車型狂化異物は恐るべき速度で回り始める。
破滅的なほどの回転数。強い風に波立つプール。回転によって巻き起こる暴風は、数百メートル離れた場所にいるミライ達の下まで届いていた。
「……そういう、ことか……」
「最初からそのつもりで……」
再生を終えたトウジと、彼を抱えるミライは、同時に狂教会の目的に気がついた。
「な、何? どういうこと?!」
「……宮火さん。あの観覧車の向こうに、何があるか分かるか?」
「え?」
一時間ほど前。ミライとトウジは、二人でウォータースライダーを滑っていた時のことを思い出す。
「強化学院だよ。あの観覧車――」
「――このまま回転して、車輪みたいに学院を轢き潰すつもりだ」
「は――、はぁ!?」
叫ぶミル。だが、二人の声音は真剣そのものだ。
「おかしいとは思っていた。確かに、プールにいる強化者は大抵武装を持っていない。だけど、そんなメリットだけでテロを起こすなんて割に合わない。本当に重要なのは、強化者に巨大狂化異物を生み出すための『工程』を邪魔されないことだった」
「ただ大きな狂化異物を作るならもっと良い場所があったはずだ。ビル街とか、工場だとか……だけど、あいつらが使える爆薬の量にはきっと限りがあった。まずは小さな狂化異物を作るところから始めなきゃいけなかったんだ」
「だが、元が小さな狂化異物じゃ生み出せる被害もたかが知れてる。限られた威力の爆弾を使って、最短で最大規模の狂化異物を生み出す方法が、これだ」
「本当なら、こんな波じゃなくて、起流ポンプの狂化異物を使うつもりだったはずだ。狂化異物は人間を襲うから、あの狂信者が衝撃無効を発動した状態でウォータースライダーの上に立ってれば、それだけで安全に誘導出来た……」
代わる代わる二人は言う。ミルはあたふたと手を動かしながら、トウジとミライに問いかける。
「じゃ、じゃあどうするのよ!? どうやったらあれを止められるの!?」
「……止められない。あいつらは目的を達成した。本当なら、こうなるより前に止めなきゃいけなかった」
「そんな……!」
ミライの言葉に、ミルは絶望の声を漏らす。
先ほどの起流ポンプと違い、あの観覧車はその巨体の全てが『本体』だ。どこか核となる一点を撃ち抜けば止まるというものではない。無力化するには、ただ、圧倒的なまでの火力が必要となる。
そして、それほどの力を持つ強化者はここにはいない。
今はもう電波も通じているだろうが、高ランクの強化者による応援が間に合うとも思えない。
ミライに抱えられるトウジもまた、同じ結論だった。体力の尽きた体で、悔しげに歯を食いしばりながら、回転する観覧車を見つめている。
ミライはわずかに俯きながら、ぐったりとしたトウジを背負ってその場を立ち去る。
「ちょっ、ちょっと、おねえさん!」
「その内、この街は観覧車が生み出した狂化異物で溢れかえるはずだ。そうなる前に逃げる」
「嘘でしょ……? ねえ、待って、待ってよ! このままじゃ学院が! あ、そうだっ、おねえさんの武装は!? 武装があれば、まだ、何か……」
「……君が気づいてないだけで、武装なら最初から使ってる。私じゃどうにもならない」
言葉を失うミル。
ミライは光の無い目で出口に歩いていく。
最後に振り返る。
少し離れた場所では、長く伸びた日本刀が観覧車を斬りつけていたが、あの巨体には何の意味も無かった。接触と同時にへし折られている。
今更事態をどうにかしようとするハヤトを力無く笑いながら、ミライはため息をついた。
(何を、間違えたんだろうな……)
一体、どこで歴史が分岐してしまったのか。
ミライとて、最善の選択肢を選んだつもりはない。だが、落ち度らしい落ち度も無かったはずだ。
もし間違えたというのなら、最初の時点だろう。
ただ少し、親しくなった弟分と遊ぼうと、外に出かけたこと。
……それだけで、歴史はこんなにも歪むのか。
ミライがそう思うのも、無理は無かった。
巨大観覧車型狂化異物は更に回転数を上げ、ついに地面へと接触する。
遊園地を真っ二つに割るような殲滅疾走。
死のバーチカルメリーゴーラウンドが、進路上の全てを轢き潰し、一直線に強化学院へと進んでいく。
もう、止められない。
強化学院は滅ぶ。
このスピードでは、人型決戦学院への変形すらも間に合わないだろう。
他ならぬ自分の手によって、自分の青春は粉々になる。
そんな風にミライが思った直後。
「『ゼロメモリ』」
女の声が響いた。
――そして、観覧車が止まった。
「……。……は?」
いいや、止まっているのではない。進んでいない。
観覧車は確かに地面を噛み、回転しているのに、それ以上前に進めていない。
わずか一センチさえも移動出来ない。
まるで、その一センチが、無限の隔たりであるかのように。
何者かが、観覧車を止めた。
そう直感したミライは、慌てて背負っていたトウジを下ろし、先ほどの高台へと駆け上る。
かの世界最強の強化者にして犯罪者、『凍結犯』リリー=ケーラーさえも上回る圧力が、強化学院の方角から放たれている。
(何だ!? 知らないぞ、こんな気配、俺は知らない!)
五年後の世界にも、これほどの威圧感を持つ存在はいなかった。
息を荒げながら、ミライは階段を登り切る。
遠く離れた先、強化学院の校舎屋上に、その人影は立っていた。
純白の美女だった。
一本結びにした白の長髪に、銀の煌めきを宿す双眸。色素を失ったような青白い肌。
銀世界から降りてきたような雪色のダッフルコートが、夏の風に揺れている。
年はミライより三つほど上だろうか。数キロ近く離れているのに、何故かその姿はよく見える。
純白の女は、ちらりとミライの方に視線をやる。
そして、首を傾げながら口を開いた。
「――君、どこかで私と会ったことない?」
「なっ……!?」
距離を無視して、すぐ近くで話しているかのように、その女の声が届く。
「ああ、ごめんね。お姉さんの勘違いだったかな、うん。よく考えてみたら、こんな可愛い子に会ったら絶対忘れないもの」
「待て! 誰なんだアンタ! Sランクなのか?!」
ミライの声はもう聞こえていないようだった。
純白の女は居合のような姿勢になって、観覧車へと向き直る。
「御剣対神流、奥義『嵐断』」
女の右腕が一瞬消える。
ヒゥン、と風を切る音が響いた。
百メートル級の巨大観覧車は、直後バラバラに切断された。
「――――」
絶句する。
まるでおもちゃのごとき扱いだった。何の武装を用いればこんなことが出来るのか、ミライの緋眼を以てしても見当がつかない。
遠くから響いてくる、観覧車の崩れ落ちる音。
女は、何事も無かったかのように懐へ右手を収めていた。
「じゃ」
左手を上げて、純白は消えた。
影も残さず掻き消えた。
※
「……結局、どうなったんだ? ミライさん」
「分からん。……とりあえず、今日のところは帰ろう。色々と疲れた。宮火さんも疲れ切ってるし、私たちがいても出来ることはないだろ」
「そうね――じゃなくて、そうですわね……。丁度強化者と、警察の応援も来たみたいですし」
「というか少年がさっきから全裸なのが困る。このままじゃ逮捕されるぞ」
「っ、それはそうだけど……って、ミライさんが隠さなくていいだろ! やめろ、自分で何とかするから!」
「君はもう全然身体動かせないだろ。君が裸だと私まで恥ずかし――あ、ビキニ千切れ――まあいいか」
「いえ良くないですわよ! ちゃんと隠しなさいよ!」
「うわっ、こら……! 女の子に胸触れられるのは流石にちょっと……分かった隠す、隠すから!」
そんな風に騒ぎながら、三人は遊園地を後にする。
なお、遊園地は後日廃園になった。
・まとめ
竜胆ミライ
同級生を「すまん」の一言で見捨てたTSお姉さん。自分のせいで歴史が変わったと思っている。
竜胆トウジ
了解、トランザム!な男子高校生。一応本人的には加減して撃ったつもりだった。首だけになるとしばらく身体が動かなくなる。
宮火ミル
もう完全にお嬢様口調が剥がれているお嬢様。焼死体が燃えながら消波ブロックと一緒に突っ込んできたのには流石にビビった。今回はほとんど驚き役。
純白の女
突如現れた白髪銀眼の女。真夏なのに白いダッフルコートを着ている。巨大観覧車を止め、遠く離れたミライと会話し、物を切断し、どこかへと消える力を持っていた。御剣対神流という流派の技を扱う。
心火瞬灯
肉体操作で頭を直接弄ることで、ミルの心燃やす灯火と同じ効果を瞬時に発揮する技。今のトウジには使えない技も強引に扱えるようになる。
全壊拳
痛覚などのリミッターを全てカットすることで、さらに限界を超えた力を引き出し、殴る技。反動で全身が吹き飛ぶほどの威力が出るため、ミライは肉体操作で痛覚などを解除することを禁じていた。