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ご相談はお気軽に   作者: りんこ
7/15

トカゲが火を吹き龍が泳ぎ埴輪が泣く5


事務所から徒歩数分。


蓮子(れんこ)たちは駅前にいた。


「ああ、こっち側はまだ少し『活きてる』やん。」


駅前の広場から神宮へ続く道を『視て』、青人(せいと)は言った。それにうなずく蓮子のリュックからひょっこりと

顔を出している埴輪。


「はい。こちらは今も神宮への『道』が残っていますので。でも、ここで切れてしまうのです」


そう言って埴輪が示したのは、線路。


「なるほどな~。線路が結界になって『気』を遮断しとるわけやな。で、こっち側は、逆にその線路の結界のおかげで弱いながらも残ってるからなんとかやっていけとる・・・と。」


「はい!でも年々『気』は薄くなっていきますから、私どもは主を頼ってどんどん神域の方へと移り住む次第でございます・・・。」


青人の推測に埴輪がぶんぶんと首を縦に振る。蓮子はそんな埴輪を、首を後ろに精一杯捻りながら見つめる。


「埴輪さん、苦労してるのですねぇ・・・。」


「蓮子さま・・・っ。お優しいお言葉ありがとうございます・・!」


どうしても蓮子と埴輪のやり取りは、気の抜けた炭酸のような、いまいちオチが決まらないコントや漫才のような脱力感を感じさせるので、首に青筋を立てて後ろを振り返り埴輪に声をかける蓮子と、それに

リュックから顔を出して応えている埴輪の絵面に、青人は思わず顔を背ける。


「青人さん、何か方法はありますか?」


蓮子の問いに、周囲の様子とポケットから出した皺だらけの地図とを見比べながら、青人は仮説を

たてる。


「昔は、向こうからこっちまで、ズドーンと気脈が通ってた。それが線路でちょん切られてるやろ?

でも、こっち。ここに踏み切りがある。線路と違って踏切の場所では人や車が通るために線路が埋もれて

道路みたいになってる。だから結界の力も、弱まる。はず。」


道の端っこで青人が地図を使って説明してくれるのを、ふんふんと聞き入っている蓮子と埴輪。

ちなみに、やはり首が疲れるからだろう、蓮子は埴輪をリュックから出していつものように両掌に乗せている。


「昔の『道』よりズレるけど、この踏切からは最近できた道路が真っ直ぐに突き通ってる。

このライン上は今んとこ『気』を遮るようなものは無いから、使えると思うで」


青人は説明しながら、蓮子たちは説明を聞きながら、その踏切まで移動した。


「本当ですね。真っ直ぐで見晴らしも良いですね。」


車の往来はあるものの、踏切から開けた視界は遠くの山並みまで綺麗に見える。

ここに『気』が通れば踏切を越えて神宮の神域までなかなか大きな『道』が完成するのではないか。


「ここにしましょう!ここにドーンと『気』を・・・」


言いかけてふと、蓮子は気づいた。


「どこから持ってくるんですか・・・?『気』って」


「そこが面倒なんやなー・・・」


そう答えた青人の表情は盛大に眉間に皺の寄ったもので、ああ、本気で面倒くさがっているなぁ。


そう蓮子は理解した。






「『気』を新たに人の手により『道』とするには、『道』の端から端四点、東西南北に四神を据え

結界を設け、『気』を誘導する。そのための事前に為すべき準備は、術師の潔斎、四神の依り代となる

場、物、の浄化。また日取りは術師及びその儀に関わる者各々の凶日を避けること」


「・・・・・・・。」


事務所に戻り、昼食を取りながら(今日も弁当屋で買ってきた)真白(ましろ)から『道』の作り方を

口頭で説明してもらった蓮子だが。


「・・・・・え?」


教科書か何かの文章を諳んじるかのように滑らかに真白の口から出てくる言葉に、予想していなかった

堅苦しさを感じ取って、食べかけていたカツ丼のカツを口の手前でストップさせてしまった。


「え?四神の結界・・?と、け、潔斎?依り代?浄化・・?凶日?」


ぐるぐると様々な単語が脳内を巡る。巡ったところで堂々巡りなだけで、一向に自分の中に落とし込めない。


そうして固まっている蓮子の姿に、埴輪のようだと秘かに笑いながら、真白はにこりとうなずいた。


「そして今回の場合なら、『道』の端の片方は神宮でいいと思うけど、もう片方はあの山になるやろうから、そこまで行ってあの地の氏神さまに挨拶もせなあかんね。あなたの土地に四神の結界の一部を

張らせてもらいます。ってね。」


「ご挨拶まで・・・」


「な?面倒くさいやろ~?」


食事の手を止めたままの蓮子に、青人が話しかける。

確かに、ひどく手間がかかる。そりゃあ『気』の流れを意図的に作ろうと言うのだから、容易な作業ではないとは思う。思うのだが、何もそこまで畏まらなくても。とも思ってしまう。


「ウチの昔からのやり方やねんけどさ~。ほんまいちいち作法とか順序とか決まってて覚えるのに

一苦労やっちゅーの。ちょっとくらい手順を省略しても大丈夫やと思うねんけどな~」


「セイ、ヒロさんが聞いたらまた怒るで」


「わかってるって~。半端なことして神様怒らすのも如何なもんやしね。でも、何かもうちょっと

やり方があるって思うねんな~」


兄弟のやり取りを聞きながら、口の手前で止まっていたカツを齧る。

そして彼らの会話で出た、ある一言に疑問を抱いた。


「あの。神様って怒りますか・・・?」


蓮子のその一声に、お茶を淹れようと立ち上がりかけていた真白はその動きを止め、弁当の最後の一口を

口内に放り込んだ青人はもごもごと咀嚼しながら、どちらも蓮子の方を見た。


「えっと、勿論、神様に対して失礼なことをしたら駄目だろうなっていうのはわかります。

遊び半分とか、からかうとか、そういう気持ちでお願いしたりするのは駄目だってわかります。

でも、今回のことや今まで賀茂さんが家業でしてきたことって、とっても真剣な気持ちや動機でやって来たことでしょう?それに対して、手順が減ったとか簡単になったとかで、神様って怒るものなのでしょうか?」


「「・・・・・・・・。」」



兄弟は黙って顔を見合わせた。(青人はまだ口をもごもごさせている)


「そ、れは・・・」


「どうなんやろ・・・」


そんなこと考えてもみたことがなかった。というのが二人の意見である。

そして今初めて、どうしてそんなことを考えたことなかったのだろう。と思った。


神や仏のような存在は神聖で敬うべきもの。

彼らと接する時は決して無礼な態度を取ってはいけない。我々人間よりも遥かに清らかで尊い存在である

彼らを、我々が怒らせるような真似は絶対にしてはならない。


彼らには常に畏れと尊敬と感謝の気持ちを持つように。


そう言われてきた。教えられてきた。物心ついた時から。

だから、何の疑問も湧かなかった。そういうものだと思っていた。


彼らを怒らせたこともないし怒ったところを見たこともないのに、畏まって仰々しく接しなければならないと思っていた。


蓮子の問いかけは、『みえない世界』について英才教育を受けてきた兄弟にとって盲点だった。


黙って顔を見合わせたまま返事をくれない二人に待ちきれなくなって、蓮子は口を開いた。


「あの、神様たちって表面だけを見てるわけではないですよね?神社や自分たちの所へ何か用があって

お参りに来る人の、心をちゃんとわかってくれてるって言いますか・・・。

ちゃんとした作法を知らなくても、真剣に祈ったりお願いしたりしている人なら、受け入れてくれるでしょう?神様は、その人の行動がどういう思いから出ているのか、ちゃんとわかってくれてます。だから・・・」


蓮子は言葉を切って、真白と青人を見てから、また口を開いた。


「だから、そんな儀式のようなことをしなくても、大丈夫だと思うんです。」


「「・・・・・・・。」」


蓮子の意見に、今度は兄弟が埴輪のような顔になった。

完全に戸惑って 無 になっている二人に、蓮子は滅茶苦茶なことを言ってしまったのかと不安になりかけた。その時。


「蓮子さま、真白さま、青人さま。」


蓮子のカツ丼に隣に座っていた埴輪が、口を開いた。

すっかり存在を忘れていた埴輪の声に、三人は驚いて埴輪に視線をやった。


「よければこの後、行っていただきたい場所がございます」


埴輪はそう言って三人を見渡した。

(ここでようやく、青人は弁当の最後のひと口を嚥下したのだった。)











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