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ご相談はお気軽に   作者: りんこ
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トカゲが火を吹き龍が泳ぎ埴輪が泣く3

自分達の家業が始まってから、今が一体何百年なのか、もっと古いのか。

書物や口伝で残されているものが諸説あるので、はっきり言って賀茂家当人達ももう正確には誰も知らない。

しかし、ここ数十年。自分達が知る間では前例のない、人外からの依頼人。


埴輪。


妖怪なのか?神の遣いなのか?もしくは地球外生命体なのか?

それもわからぬ『存在』からの、依頼。そう、なんで埴輪なのだ。なんでお前は埴輪なんだ。



「人間達が土産物屋で販売しているでしょう?そのオリジナルが私共です!」


「うん、いや、だから、なんでそれが埴輪?・・・ってもうええわ。」


感じた疑問をぶつけてみたが、返答になっているのかないのか、微妙に噛み合わないことを

早々に察知して、青人(せいと)は胸を張って威張っている埴輪との会話に終止符を打った。


「埴輪さん、もう一度『道』を教えてくれませんか?」


青人と脱線していた埴輪に、蓮子(れんこ)が尋ねる。それに埴輪はうなずき、机に広げられた地図に向き直った。


埴輪が語るに、街の発展と共に『彼ら』の世界の『道』が塞がれてしまい、この辺りの『彼ら』の世界は

寂れてしまった。どうかもう一度、かつてのような賑わいを取り戻したい。


ということなので、先ずは『道』がどのように通っていたのかを詳しく聞いてみようということになり、

PCからプリントアウトした地図を広げて、3人と1体?が額を突き合わせているのが今の状況であった。


「は~、今の神宮の敷地内を突っ切っていたんですねぇ。」


「そうなんです。でも、ここに建物などが建ったことで大きく分断されてしまい・・・!」


埴輪の説明に感想を述べた蓮子に応えている内に、グスっと鼻をすすり出した埴輪に、慌てて

ハンカチを差し出す蓮子。


「な、泣かないでください・・・っ。きっと何とかなりますから・・・!」


「うぅ・・っ。ありがとうございますぅ・・・!」


目と位置づけられている穴から涙なんて出てないが、ハンカチで目の辺りを拭う蓮子と、それに応えて

ぺこぺこお辞儀をしている埴輪。


見ていると感動よりも脱力感を呼び起こす光景で、青人は話を聞こうと言った先ほどの自分を早くも

後悔していた。


「それで、君たちの店や住居はどこに並んでたん?当時と今で、どれだけ違うの?」


本人たちにそのつもりはないが、寸劇にしか見えない蓮子と埴輪の中に、真白(ましろ)が切り込んでいった。

その勇気もだが、切り込んでいった真白の声が意外にも真面目なものだったので、青人は一人驚いて

真白の方へと視線をやる。


しーちゃん・・・、マジやん・・・。


声色と同様、その表情も真剣で、青人はそんな兄の真意を測りかねる。

この埴輪の依頼に何か重大な案件の匂いがするのだろうか。

普段は自分と緋郎のケンカの仲裁役がほとんどで、柔らかな物腰が基本の兄だが、

その身に隠した霊能力の高さと観察眼の鋭さをよく知る末っ子としては、この真白の対応に

少しざわつくものを感じ、黙って埴輪の返答を聞いた。










気づけば時刻は午後12時を回っていた。

昼食を取るべく話の中断を呼びかけたのは、真白だった。


「山田さん、悪いけど弁当買ってきてくれる?すぐそこに弁当屋あるの知ってる?」


「はい!みなさん何のお弁当がいいですか?」


「俺、唐揚げ~」


「俺は日替わりで。飲み物はウチにあるから、買ってこなくて大丈夫やから」


「はい、わかりました!」


「領収書もらってきてくれたら、お金後で払うから」


「はい!では行ってきます!」


真白の指示に元気よく返事して、財布を握りしめた蓮子が事務所から出て行った。

休憩に入り気の緩んだ青人が盛大に伸びをする。


「しーちゃん、俺冷たい緑茶がええな~」


そう言って真白の方へと視線を移した青人は、両手を頭上で伸ばしたままの姿勢で口と身体の動きを止めた。


青人の視線の先。そこには、事務机の椅子に座り、机の上に佇んでいる埴輪に真正面から向き合って、

にっこりと笑う真白の姿があった。


この笑い方をする時の真白には、見た目柔らかだが有無を言わさぬ圧を感じる。

真白は何をするつもりなのか、青人は無意識にごくり、と唾を飲んだ。


「さて、埴輪さん。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」


「はい、何でしょうか?」


昼食を買いに出て行った蓮子を見送っていた埴輪が、目線(?)を真白へ向けて返事する。

真白は変わらず顔面に柔らかな笑みを貼り付けたまま、その口を開いた。


「先程教えていただいた、君たちの店や住居の位置。今ではほぼ神宮の敷地内だけになってますね。ほんの少しだけ敷地外に残っていますが、それも全部神宮に近接した場所ばかり。」


青人は横から、机に広げたままの地図を確認する。埴輪が教えてくれた場所に丸印や線を引いていて、

確かにそれは神宮敷地内とその周りだけである。

そこの何に、真白が引っかかり今埴輪を柔らかく問い詰めているのか。まだ青人にはわからなかった。


「それは何故ですか?」


「恥ずかしながら、『道』が塞がり寂れていく中で私たちの『力』も衰えていきました・・・。

今となっては、神域となったこの神宮内か、そのほんとわずかな周辺でしか姿を保てなくなってしまったのでございます・・・。」


なるほど。埴輪の説明に、青人は一人、うなずいた。

『道』とは『気』の流れる筋のことである。気脈、地脈、レイライン。色々な言い方がある。

それが問題なく通っていれば、その地に住む『彼ら』にも『気』が巡り、人間でいう健康体を維持できる。

しかし、その『気』が流れなくなれば、当然健康体を維持できなくなってくる。

神やそれに近い『存在』であれば、まだ自分の『気』で力を保てるが、それができない『存在』、

力の弱い精霊や妖怪といわれる『存在』たちならば、どうするか。

移動ができる『存在』なら、他の地へと移るだろう、それができぬ『存在』、例えばその地固有のエネルギーで産まれたようなものたちなら、その地を守る『存在』の眷属となり『気』をもらって生きていくか、

そのまま消滅してしまうか、なのである。


じゃあこの埴輪はこの神宮の神さんの眷属になってるんか・・・。


もともとそうなのか、『道』が塞がれてからの眷属なのか知らないが、埴輪やその仲間が今現在生息する

場所を見れば、そういう答えが出てくる。



「・・・・・ん??」


思わず、青人は声を出していた。眷属?なら、この埴輪に(あるじ)がいて、それは恐らく・・・。



「この依頼、本当は『誰』からのものなんかな?」


真白の口調がさっきまでと少し、変わる。

埴輪が僅かに顔色を変えた。ように青人には認識できた。


「君は今、眷属になってるんやろ?教えてもらった君たちの生息場所がそれを語ってる。

眷属が勝手にこういう類の依頼を人間にすることは稀なことや。・・・違う?」


「は、はい・・・。確かに眷属となっている今の私が、主命もなくこのような行為をすることは

本来、許されることではないのです。・・・ですが、それだけ『我々』の世界では、この地が危機に

瀕しているということなのです・・・!どうかわかってください・・・!」


埴輪が必死にぺこぺこお辞儀をしている。

それを見る真白の表情は、柔らかい笑みのままだが、目が笑ってなかった。


「埴輪、とは王や豪族の墓に共に眠る埋葬品やね。人型のものは埋葬者の家来、主を守る者なんかな。

今もその特性を守って主を守ろうとするのは立派なんやけどね・・・?」


段々と真白の目が鋭くなる。顔は笑ったままなのがかえって凄みを与える。

あの睨みの目の対象者にはそうそうなりたくない。

今まで何度も経験済みの青人には、今の埴輪の心境が手に取るようにわかる。


埴輪・・・っ!何か知らんけど正直に言うなら今のうちや!


知らず、青人は埴輪を応援していた。


埴輪はすでに硬直している。目と口の役割であろう穴が大きくなった気もする。

埴輪はもう、俎上の鯉状態であった。


硬直している埴輪を前に、真白は続ける。


「こういう世界での仕事に、嘘は感心でけへんなぁ?嘘吐いてるということは、やましいことがある。

俺らを騙そうとしてるかもしれへん。俺らこれでも『こっち方面』では有名やからね?命狙われることも

しょっちゅうあるねんなぁ。せやから、嘘吐いて近づいてくる輩には・・・、どうなってもしらんよ?ってことやわ」


にっこり。と氷点下の笑みを埴輪に向けた。


埴輪は勿論、青人も生きた心地がしない。

青人は完全に、埴輪に同情してしまった。怯えて声も出ない埴輪に、慌てて駆けよる。


「し、しーちゃん?その辺でいいんちゃうかな・・・?埴輪()()こんなにビビってもうてるやん・・・?」


埴輪の様子をじっと観察して、真白は少し、眼光を和らげた。


「まあ、本当のことを言ってないって自白したようなもんやね。君の主は神宮内の神様やろ?

そしてこの依頼も主である神様が君にお遣いさせたわけや。でないと、神域出てるこの場所でそんなにも

リアルに実体を保てるわけない。神様の『力』が働いてる。・・・そうやろ?」


真白の推理に、埴輪は弱弱しく、こくん、とうなずいた。

それを確認した真白は、やっといつもの柔らかい笑みを浮かべた。


「君の主が何で名を明かさず君をウチに寄越したのか、何故今なのか、まだ聞きたいことはあるけど

あまりぺらぺら喋ってもうたら君が怒られるかもしれんしね?今のところはこれで止めとこうな?

おいおい分かってくることもあるやろうし。」


そう言った真白は、埴輪の前を離れて事務所の奥へと歩いて行く。


「セイは冷たい緑茶やったっけ?」


事務所の奥には簡易キッチンがある。そこからお茶の用意をする音が聞こえ出した。


埴輪はまだ硬直している。そしてただ側で話を聞いていただけの青人も、硬直していた。


賀茂真白。時には長兄である緋郎でさえもその眼光と笑みで黙らせる男である。



「ただいま戻りましたー!!お弁当屋さん混んでまして時間かかっちゃいました・・・・って青人さん?

どうされたんですか?何だか顔色が悪くないですか?埴輪さんも」



弁当を両手に提げて戻ってきた蓮子の声に応えることもできない1人と1体(?)であった。



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