序章2
私にとって『視えない』世界の方が、楽しく親しみやすく
呼吸のしやすい場所だ。
『視えない』世界の『彼ら』の方が、楽しく親しみやすく
心許せる相手だ。
人間の方が残酷だ。
何食わぬ顔で平気で嘘をつき、傷つけ、嘲笑い、
笑顔で悪意をぶつけてくる。
そんな人間の『念』に誘われて害を及ぼす『存在』も確かにいるけれど、元は人間の『念』が原因。
人間が『念』を生み出さなければ、『彼ら』も害ある『存在』に
などならないのに。
だから私は、『人間』が苦手。
だから私は、『人間』よりも『彼ら』と関わることのできる、
『彼ら』を助けることのできる方法を探していた。
そんな時
ネットで発見したのが
この事務所の求人だった。
「山田蓮子さん、、あ、住所めっちゃ近所
やん。」
「はい。余裕で徒歩圏内です!」
「前職は、、販売員?」
「はい。アパレルメーカーのショップ店員でした。2年前に
退職してからは、フリーターで工場作業してました。」
「へー・・・。」
履歴書を見て経歴を確認する声に相槌を打ちながら、目の前の青年を観察する。
恐らく自分より年若いと思われる、ひょろり、とした今時な若者の体型。しかし面接にジャージってどうなんだろう。。。
とは思ったけれど、こういう分野の仕事の普通の服装とか知らないから、気にしないでおこう。
私もかっちりスーツの面接官とかは苦手だし。
それに・・・・。
「週何日くらい来れそう?」
「希望は週4日です。曜日は何曜日でも構いません。」
こっそり『観察』していたら、面接お決まりの質問が始まったので、『観察』を止めて返答する。
「いつから来れそう?」
「いつでも!」
「じゃあ明日からね~?」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
「いやいやいやいや待て待て待て待て!!」
あっさりと採用が決まったと思った瞬間、横からそれを中断する大きな声が。
声の主は自分が座っていた奥のデスクから、つかつかとこちらへとやって来た。
声の大きさと体の大きさは比例するのか、面接をしていた青年より遥かに長身で体格もよかった。
「セイ!!ふざけんな!!」
「ふざけてへんし。俺はいつだって真面目です~。」
「セイ、さすがにちょっと・・・。あかんわ。」
「ひーちゃんだけやなく、しーちゃんまで?」
大きな声の主とは別に、今度は細身の青年も奥から現れた。
このソファに通されてすぐにお茶を持って来てくれた人だと、蓮子は気づいた。
3人で何やら軽く言い合いをしているのを、蓮子はまた『観察』する。
この3人は兄弟だろう。3人全く雰囲気は違うけど面差しに似ているところがある。
タイプが全然違うけど、でも・・・。
「山田、さん?」
「は、はい!」
また『観察』中にいきなり話しかけられて、どもってしまった。
いきなり話しかけてきたのは、一番大柄な大きな声の、男性。ちなみに彼だけかっちりとスーツを身に着けている。
「すまないが、この求人と面接はウチの愚弟がふざけてやったことなんでね。
申し訳ないがこの話は全て無かったことにしてもらいたい。」
「え・・・?」
採用決定か?からの不採用。蓮子の口から驚きの声が上がるのも無理はない。
これを聞いて黙っていないのは、勿論、愚弟呼ばわりされた青年だった。
「ちょ、ひーちゃん!?勝手に何言うてんねん!」
「うるさい!どう考えてもおかしい話やろが!山田さんもまさか本気でこんな仕事の求人があるなんて
思ってるはずないやろ。ちょっと変わった求人やから、話だけ聞きに来はったんや。ほんまに採用とかされたって困るわ!」
「ひーちゃん、それ、山田さんにも失礼ちゃうん「お前は黙っとれ!!」
またも大声で青年の抗議の声をかき消した男性は、ものすごくわかりやすい営業スマイルを蓮子に向けて、
穏やかに言った。
「そんなわけやから。君にも迷惑かけて本当に申し訳ない。ここまでの交通費はもちろん支払うから、
もうこのまま「え、でも」
男性の言葉を中断させたのは、蓮子だった。蓮子は3人に視線を合わせたまま、言葉を続けた。
「でも、みなさん本当に『視えてる』方達ですよね?」
「「「・・・・・・っっっっ!!!!」」」
蓮子の口から出た言葉に、その言葉を放った口調に、3人は目を瞠った。
彼女の言った言葉と、それを言った時の彼女のとても自然な様子が、彼らを驚かせた。
「みなさん子供のころから訓練されてたんですか?その気のバランスの良さは、意識して
自分で調整しないとできないものじゃないですか?」
「「「・・・・・・・・。」」」
すごいですね~。と感嘆している蓮子を、何か物凄く珍しい生き物を見るように眺める3人。
「そういえば・・・。面接なんて初めてやったから、すごく当たり前なこと忘れてたけど」
シロ、しーちゃん、と呼ばれている青年が呟いた。
「本来、ウチに辿り着けること自体、珍しいよね・・・?」
「「・・・・・・!!」」
そういえばそうだった。と言わんばかりのリアクションを見せる二人。
そう、ここは『普通』の人間には見つかりにくいように『細工』をしてある。また、『妙な』輩が入って来れないようにもしてあるのだ。
唯一、スーツをかっちりと着込んだ男性が、蓮子に声をかける。
「山田、さん?」
「はい。」
「君、ここへは迷わずに来れた?」
「はい。でも、今日まで知らなかったんですよ、この建物のこと。徒歩圏内でしょっちゅう前の通りも
歩いたりしてるのに。」
蓮子の返答に、3人顔を見合わせた。
今日までは知らなかった。否、気づかなかったのだ。ウチの存在を知らなかったから。
でも、求人を見て面接に来るとなって、ウチの存在を知った。だから迷うことなく来れたのだ。
「いや、それにしても『知った』だけで見つかるほどちゃちなことしてないやん・・・。」
ジャージの青年が呟く。そして目だけで3人意思疎通をし、3人揃って蓮子に視線を向ける。
「山田さんってさぁ?もしかして・・・。」
「はい。『視えます』!」
やっぱりね~!3人の胸中は同じだった。
オンオフの切り換えは大事。なので、仕事以外では『そっち』のスイッチは切っている。(切ってはいても
妙だ、と感じたらいつでも対応はできる。)
だからすっかりオフにしていた。求人を載せた当人までもが、思っていた。
『視える』人間が来るはずない
と。
スイッチの切り換えを失念していた3人が、今、やっとオンの状態で蓮子を、『視た』。
「ヒロさん・・・。」
「ああ。これは・・・。」
「めっちゃ『光ってる』やん・・・。」
蓮子は『光って』いた。
身体を取り巻く気が強い人間は、『光って』『視える』ことがある。
そういう人間は大抵、霊感といわれる能力が高い。
蓮子もまさに、そうだった。
「しかもここまでって。」
「なかなかおらんな~。」
「・・・・・・・。」
3人がそう言って黙り込むほどに、蓮子は『光って』いる。
もしや、とんでもない人材がやって来たのでは?そう思わせるほど。
「あの・・・、私、採用でいいんでしょうか?」
蓮子の声に、追い返そうとしていたことを思い出した3人。
心配そうにこちらの返事を待っている蓮子の視線を感じながら、大急ぎで3人は話し合う。
「来てもらおうや・・・!これも何かの縁やって。」
「まあ、ここまでの気の人を見て見ぬふりするのは勿体無いよなぁ。」
「・・・・好きにしろっ!」
採用決定。
ジャージの青年がにこやかに答えた。
「もちろん!大歓迎やで~!」
こうして、無事面接は終了し、蓮子は希望通り働けることになった。
採用が決まったので、間もなく求人広告はネットから消えるだろう。
そうなる前にお見せしておこう。蓮子が見た求人広告の文面を。
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