序章1
変わらぬものなどない。
人も物も地球も、宇宙ですらも。常に変化していく。
その変化の速度は違えど、目に映る事象は全て変化する。
ならば、目に映らないと『されている』ものは?
人の目に『映る』ことがなくても
人が誕生した時から、長く、長く、人の世と関わってきた、『世界』。
彼らもまた変わっていく。
否、変わっていかねばならないだろう。
彼らが『住む』のは、人の世と表裏一体の『世界』なのだから。
とある町のとある場所にある、建物。
その中の一画で、朝から聞こえる怒鳴り声。
「セイーーー!!!なんやこれはーーー!!!!」
ソファでくつろぎながら朝の珈琲を堪能していた青年の鼻先に、スマホ画面を突きつけながら
怒鳴る大柄な男性。
セイ、と呼ばれ怒鳴られた青年は、鼻先のスマホにも、大柄な男性の迫力にも何ら怯むことなく、
美味しそうな湯気を立てている珈琲をのんびりと啜る。
「何って求人広告。人出不足やろ?ウチ。求人してるなら求人広告出すの、当然やん?」
しれっと答える青年に、怒りが増していくのか、男性はわなわなと震え出した。
「お前な~・・・っ!!ふざけんのも大概にせえよ・・・!!」
「ふざけてへんわ。俺は俺なりにウチのことを思ってやってるねん。真面目やで。」
「こんな場所にこんな風にこんな内容のモンを載せとることのどこが!真面目やねん!」
「今の時代、ネット使うのなんて常識やんか~。」
「それがふざけとるっていうんじゃ!!お前はウチの家業を何やと思ってるんや!!」
「何でネットで求人がおふざけになるん?ひーちゃん、その古臭い考え方いい加減何とかせなどんどん
ジジ臭くなっていくで~?」
ひーちゃん、と呼ばれた男性の言葉を、のらりくらりと交わす、青年のからかうような態度と口調に、
さらに怒りがヒートアップする。
彼にとって青年のこの、人を食ったような物言いと態度はいつだってイライラの種だった。
「セ「まあまあ、その辺で一旦落ち着こうか?ヒロさん。」
男性が青年を怒鳴りつけようと口を開いたと同時に、まさに見計らったようなタイミングで、
物腰の柔らかな細身の青年が現れた。
「シロ。」
シロ、と呼ばれた青年は、淹れたての珈琲を男性に手渡す。
「セイはセイなりにウチのことを考えてるんやって。からかってるわけじゃないんやから。」
「・・・・・・。」
「そうそう。ひーちゃんの古臭いかた~い頭じゃ出来ないことを俺がやってるの。」
「セイ。そういう言い方せんでも済むやろ?わかってやってるのはお前の悪い所や。」
またイライラを煽るような物言いをする青年を、静かにたしなめる。
柔らかで優しい語気なのだが、有無を言わせない何かを含んでいて、青年は大人しく残りの珈琲を啜った。
「ヒロさん、いくら今がネット中心の世の中や言うても、こんな求人誰も見てへんよ。
見たって怪しんで寄りつかんやろうし、そもそもこんな職種を探している人間なんておらんて。」
「そ、そりゃそうだな・・・。」
シロ、と呼ばれた青年の言葉に、男性もようやく落ち着いたのか、怒らせていた肩の力が抜けた。
そしてさあ、手にした珈琲を頂こうかとした矢先。
セイ、と呼ばれた青年の爆弾発言が投下された。
「実は一人、連絡あったんだな~。」
「「はぁ??」」
青年の言葉に、二人シンクロして叫んでしまった。
「実は、今日の午後面接で~す。」
「「はぁぁぁぁぁ????」
この日の朝、優雅に珈琲を飲み干せたのは
セイ、と呼ばれた青年だけだった。