96 因果応報
うちの守護騎士さんのHPを0にしたら、何ゆえか〈histoire〉さんの守護騎士さんが光になった。
この2体って独立してるんじゃないの?
まさか連動してる?
手出ししようがなくて見ているしかないあたし達の前で、〈histoire〉さんの守護騎士さんだった光はうちの守護騎士さんに吸い込まれていく。
ふわふわしている光の量が減るごとにうちの守護騎士さんのHPが回復して、かかってるバフが増えていってるんだけど。
「ィー」(よろしくない感じですわよ。攻撃力UPバフのスタック数がほぼ倍になりましたわ。スカイの回復に集中しても、持たないかもしれませんわ)
そんなヤバイ強化がついたんだ?
ていうか、姫様は敵の状態をよく見てるね~。
あたしなんて、ただ殴って攻撃避けてくらいしかしてないから、敵さんのバフアイコンとかぜんぜん意識してなかったや。
それぞれのバフの効果? もちろん知らないよ。
「なぁ。これ、あの、ガンガン強化されてってるあいつって、どっちのギルドの討伐対象扱いなわけ?」
「……」
流れる沈黙。
合体守護騎士さん、体はうちのギルドの人だけど、中身はほぼ〈histoire〉さんのとこ由来っていうか。
「ィー」(〈histoire〉のギルメンが歪みに近付いた時に2体目が出たからぁ、歪みに近付くことでそれぞれのギルドの守護騎士が出現するって解釈したよねぇ? けどぉ、1体目のHPをある程度減らしたから2体目が出てきただけだったりしてねぇ)
「ィー」(それだとあれっぺか? あいつらは1人のボスの扱いで、最後にトドメさしたギルドに討伐権付与みたいな?)
「ィー」(可能性のひとつとして思いついただけぇ)
そんなふうにも考えられるんだね。
あたしなんて、何にも考えずに、うちの守護騎士さんに変化が起こっただけだと思ってたけど。
変化の終わった守護騎士さんが動き出しそう。
HP、1/3より少し少ないくらいまで戻ったんだね――って、なんか、勢いよく回復していってるんですけどあれ!
「ィー!?」(HPごりごり回復していってるんだけど!? この形態、超回復力完備なわけ!?)
「ィー」(まさか、アイテムの効果まで引き継いでるんじゃないだろうな。というか、なぜか効果が上がってるな)
「アイテム?」
〈histoire〉さんの方から冷たい声がした。
お姉ちゃんがしまったとばかりに固まる。
「ィー」(アイテム? 何の話だ? I tameとは言ったが)
あ、ごまかした! かなり無理があるような気もするけど。
「貴様ら、やっぱりうちの守護騎士に変なアイテム使ってたんだろ!」
「ィー!」(過ぎたことをごちゃごちゃ言うな! ケツの穴が小さいと言われるぞ!)
「言うわボケ!」
「むしろ今言わないでいつ言うんだよ!?」
〈histoire〉さんから飛んでくる批難の大合唱。
そんな彼らがかたまっているあたりにお姉ちゃんが爆弾を投げた。
「ィー!」(うるさいぞケツの穴が極小連中ども! 今はとりあえず手を貸せ。上手くやらんと盾が持たずに前線崩壊して、私らどっちもここでイベントからおさらばだ)
「調子のいいこと言うな!」
「ィー」(じゃあお前ら単独であいつの相手するか? 攻撃力UPバフのスタック数、それぞれ戦ってた時の倍になってるけど。そっちのナイトがあいつを倒し切れるまで耐えられるんなら、私達は手出ししないと約束してもいい)
「言ったな! 余裕に決まってるだろ!」
「いや、無理」
「無理ねぇ」
「うぐっ。……わたしらは紳士だからな。苦戦している貴様らを助けてやるのはやぶさかではない。が、トドメは貰うがな」
本当の紳士は自分のことを紳士って言わないと思うの。
「で、どうするんだ? 手を貸せって言うくらいだから作戦があるんだろう?」
「ィー」(私が見た感じだと、どちらのギルドのナイトも、攻撃を一身に受けるのは1分が限界だ。だから、限界ギリギリで盾をスイッチしよう)
「なるほど。スイッチしてる間にHPを全快させて、またスイッチというわけだな」
「ィー」(その方法で盾組に頑張ってもらっている間に、HPの超回復は私がどうにかする。その他の連中は適当でいいと思う)
「どちらがラストアタックを取っても文句はないな?」
「ィー」(背に腹は代えられないからな)
「ィー」(話し合いは終わったみたいっぺな。そんじゃ、俺から盾始めるっぺよ~)
空さんが守護騎士さんの方に走っていった。
新生守護騎士さん、一定の距離を保っている間はこちらに攻撃しかけてこなかったから、本当に助かったよ。
でもHPは回復し続けてて、もうほぼ全快状態なんだけどさ。
『って、あのHPの超回復どうにかするって、どうやるの?』
『さっき使ったアイテムの中和剤がある』
『それもまた注射ですの?』
『そうだけど? HP回復促進剤と見た目が似てるから、間違えそうなのが怖いな』
フラグ! その発言ぜったいフラグだからー!