92 ブーメラン
守護騎士さん2体目が出てきたことで、あたし達と〈histoire〉さん達の関係に変化があったよ。
あたしが呼びだした守護騎士さんを奪おうとまでした〈histoire〉さんだったのに、2体目の守護騎士さんのタゲを自分達のものにできた時点でおとなしくなった。
というか、内にこもったっていうか。
まぁさ、あたしとしても、互いに守護騎士さんを確保できてる状態なのに、自分のトコの守護騎士さんの相手しながらギルド戦もしないといけない状態は嫌。
だから、今の状態は万々歳なんだけど。
『なー。これってさ、相手の守護騎士をこっちが倒したらどうなるんだっぺ? こっちが守護騎士倒したってカウントされるんだっぺか? 向こうの守護騎士が倒されたってカウントされるんだっぺか?』
『わからん。倒してみないことには確認のしようがないし。可能性としてはどっちも有りだと思う』
ん~。
潰さないといけないものの本丸、歪みがこの空間に1つしかないあたり、歪みの破壊は早いもの順になりそうな気配が濃厚だし。
うっかり敵の守護騎士さんを倒す手伝いなんてしちゃった日には、ミッションクリア1位を目指す上では痛手だよね。
『よそ見しないで自分達の守護騎士をさっさと倒すのが正解?』
『だろうな~。あっちもその結論に至ったから、私らに手を出すのをやめて自分達の守護騎士倒すのに集中してるんだろうし』
確かに、2体目の守護騎士を譲ってから、〈histoire〉さんから攻撃されてない気がする。
『でもさぁ、それって結構うちに不利だよねぇ。あっちぃ、それなりのレベルの人数が多いんだよねぇ』
腐ちゃんの指摘、それあたしも思った。
〈histoire〉さんのレベルは平均して135くらい。カンストも1人いる。
この場にいる人数は12人。
PT構成も盾職回復職火力、バランス良く組まれてるように見える。
対するうちはカンスト5人+140代後半のあたし。
PTバランスは普通かな。
強敵相手だと回復がちょっと薄いくらい。
この、レベル差が10くらいしかない状態での人数差は地味に痛い、気がする。
だってほら、守護騎士さんのHP、あっちのギルドの方が削れ方が早いもん。
スタートはこっちの方が早かったけど、その程度の差、そのうちひっくり返されると思う。
『このままだと良くないでござるな。守護騎士の討伐、あちらの方が確実に早いでござるぞ』
タマさんもそう思うんだ?
お姉ちゃんもそう思うのか、「んぎぎぎぎ」みたいなうめき声を漏らしている。
お姉ちゃんはとても困っている。
困っている。
『ふっ』
今の今まで困っていた人が、憑きものが落ちたかのような晴れやかな空気を醸し出した。
覆面のせいでよくわからないけど、これ、ヤバイ笑顔してるんじゃないかな。
『よし、あちらの妨害しよう』
悩んだあげくに達した結論がそれですか。
『でもさ~、そんなことに手ぇ割いたら、あたし達が守護騎士倒すのもっと遅くなるよ?』
『問題無い。あちらをそれ以上に遅らせればいいだけだ』
確かにそうだけどさぁ、現実的にそれって無理くさくない?
『スカイ、立ち位置を変えろ。〈histoire〉の方にもうちょっと寄って、あちらに背を向けろ。こちらの守護騎士の範囲攻撃が〈histoire〉も巻き込むように位置取り頼むぞ』
『いいっぺけど。それ、俺も〈histoire〉の攻撃に巻き込まれそうっぺね~』
『あとは、範囲攻撃持ちの奴は、〈histoire〉も攻撃範囲に巻き込むように攻撃角度と範囲調整忘れずにな』
『あからさますぎて、わざと攻撃に巻き込んでるのがバレバレになりそうでござるな』
『でもさぁ、その嫌がらせぇ、相手のヒーラーのストレスが上がるだけでぇ、あっちの攻撃力落ちなくないぃ?』
『そこは裏技があるんだな』
裏技? 限りなく黒に近い何かを出してくる気しかしないんだけど。
『サン=ジェルマンのクエで手に入れたアイテムを弄ってたら、エフェクトやアイコン表示を出さずに敵のHPを回復し続けるっていう糞アイテムができてしまってな。嫌がらせであちらの冷静さが落ちてれば、あちらの守護騎士にこれを仕込む隙が出るんじゃないかな~、って』
『それをこのイベントに持ってきてたって、ゴールド、どんな使い方を想定してたっぺよ』
『細かいことは気にするな。上手くいけば私たちが奴らを出しぬくチャンス。ついでに、新アイテムの性能確認もできる。一石二鳥だな!』
『うちにとってだけでござるな』
お姉ちゃんの裏技にみんな突っ込みを入れながらも、意見は採用。
じわじわと戦闘位置や立ち位置をずらしていく。
汚い?
いやいや、汚くないよ。
だってほら、1話前であちらのギルドさんも言ってたじゃん。「全ては競争だ」って。
うちのモンスターを奪おうとしてたのが許されるんだったら、相手の討伐対象モンスターを倒せなくしてやるのも許されるよね☆