89 絶叫系アトラクションのひゅんはいつ感じても嫌いです
イベントフィールドを爆走して、途中ですれ違ったプレイヤーの皆さんをひき殺しながらあたし達は辺境要塞に戻ったよ。
そうしたら、要塞の周囲で兵士さん達がオロオロしている。
日中だからか隊長さんが要塞の外に立っていて、彼と、彼の周囲の兵士さんも難しい顔をしっぱなし。
「ィー」(騒がしいでござるな。何かあったでござるか?)
「ああ、お前たちか。見ての通り取り込み中だ。魔族の侵攻が近いという情報が入ってきててな。で、何か用なのか? 急ぎでなければ後にしてくれ」
「ィー」(報告だけなのですぐに終わるでござる。頼まれていた水源の村の柵の修復、してきたでござるよ。近くにいた毒オオトカゲの群も退治しておいたでござる)
「それか。ご苦労だった。住民たちも安心して暮らせるようになるだろう」
「隊長~~!!」
兵士さんが駆けこんできた。
「報告です! 遺跡跡で魔族侵攻の形跡が発見されました!!」
「なんと!!」
隊長さんだけでなく、彼の周囲にいた兵士さんたちも驚く。
ああ、なんてことだ。我々はどうしたら。そんな言葉が続く。
「ィー」(魔族の侵攻がどんなのか知らないけど、魔族さんが来てるなら、倒しちゃえばいいんじゃない?)
ゲームの定番と言えば敵はぶっ潰すだしさ。
そんな軽い気持ちで言ってみたあたしに、NPCのみなさんの視線が集中しているんですけど。
「そうだな。お前の言うとおり、ここで気をもんでいるより、侵攻してきている魔族を倒すために動くのが我々の仕事だ」
「だが、まともに魔族の相手をするには手勢に不安がある。本部に応援を呼ぼう」
「応援が来るまでの手伝いをお前たちに頼みたい。遺跡跡に行って先発隊の手助けをしてくれないか? 魔族がいるようなら協力して討伐、もしくは周囲に溢れださないように食い止めておいて欲しい」
あ。新しいクエスト受注した。
とりあえず遺跡跡に行って、先発隊さんに話しかけるだけでいいみたい。
目的地の遺跡跡は、神秘の泉の祭器を探しに行った遺跡跡と同じ場所だね。
魔族の侵攻を潰すためにレッツゴー。
ドドドドド
あたし達は荒野を駆ける。
このイベント、フィールドの中心部に近付いたかと思ったらスタート地点近くに帰らされたりで、動線がかなり行ったり来たりしてる。
お陰で、中心部に向かってるあたし達と、辺境部に戻る途中の人とで鉢合わせがあるわけですよ。
もちろん殺し合いが発生するんですけどね。
この動線さー。
ミッションクリアしかしたくない人も強引にギルド戦に引きずり込むように考えられてるんだろうね~。
あたし達からしてみれば楽しいけど、戦い好きじゃない人から見れば鬼かも。
さぁて、1日ぶりくらいに戻ってきたよ、遺跡跡。
祭器を探す時にはいなかった兵士さんが建物の外でウロウロしてる。
「ィー」(魔族の侵攻を調査している先発隊というのはお主でござるか?)
「いかにも、自分は魔族の侵攻を調査しているが。そちらは?」
「ィー」(辺境隊長に応援を頼まれたでござる。手が足りていないことがあるのならやるでござるよ)
「おぉ、ありがたい! 見たところ手練れのようだ。ならば、魔族の討伐に手を貸してもらえないか?」
「ィー」(承知つかまつった。して、何を討伐すれば?)
「実は、遺跡跡の最深部に魔界と繋がると思われる歪みができかけているのだ。それを潰したいのだが、守護騎士がいて手を出せないでいる。こいつが強くてな。助けてくれないか」
おぉお。
前のクエストの魔族はトカゲだったけど、今度は守護騎士だって。なんか強そうで偉そうなのが出てきた予感。
ミッション関連のクエストもそろそろお終いだろうから、運営側も本気出してきたー?
まぁいいや。
どんな敵がいるのか楽しみにしながら、遺跡跡の最奥目指して突撃ー。
奥の方で新しいイベントが起きてるっていっても、ここ自体は低レベルダンジョンだからね。
敵と遭遇して攻撃されても被ダメ0だし。
むしろ、あたし達が爆走する途中でひき殺してゴメンな感じ?
そんな、ご機嫌にマラソン大会してたあたし達なんだけど。
急に、絶叫系アトラクションで下方向に急降下させられた時みたいなひゅんって感じに襲われたんだ。
おかしな感じに襲われたものだから、みんなの足もストップ。
「ィー」(何か、トラップに掛かったような感じがあったでござるな)
「ィー」(お前も感じたっぺか?)
「ィー」(全員の足が止まったあたり、全員違和感を覚えたのではなくて?)
「ィー」(ひゅんって感じがしたよねぇ)
「ィー」(トラップ踏んだ感じがしたどころか、しっかり踏んでるぞ私達。マップ確認して見ろ)
お姉ちゃんに言われてみんなマップの確認を始める。
って。
これどこですか?
さっきまでいた遺跡跡のマップとぜんぜん違う、狭いマップにいるよって表示されてるんだけど。
「ィー」(マップ名、歪みの空間になってますわね)