88 トカゲだって魔族です
柵の修復のための材料は十分に集まったから、あたし達は水源の村に戻ったよ。
そこからは2人1組になって作業。
空さんとタマさん組は柵の支柱を地面に打ち込んでいく。
姫様と腐ちゃん組、あたしとお姉ちゃん組は、支柱の間に横棒を渡して、それを縄で固定。
簡単な単純作業なんだけど、村の周囲を覆うくらいとなるとそれなりに時間がかかるもので。
村を柵で囲い終わる頃にはお昼になってたよ。
料理でのバフ更新とかのために、水辺にピクニックシートを敷いて休憩。
姫様が用意してくれていた料理を取り出してのんびり食べる。
早食いで即消費もできるんだけど、人間、ゆとりの時間は必要だよね。
このフィールド、砂漠化が進んでるから砂は舞ってるし、荒野だらけで景勝地とかないんだけど。
快晴だし運動後の風は気持ちいいしで、今の休憩は快適です。
ご飯食べてお腹が満たされたら眠くなってきたよ~。
ゴロンと転がって休憩を満喫。
って。あれ?
あっちから人が走ってきてる。
なんか慌ててる感じ?
あ、近くの人とお喋りしてる。
少し遠いから声が聞き取りにくいな~。
でもあたし、狼の獣人だし。普通の人よりちょっと耳いいんですよ! ギリギリだけど、声、拾えてます。
「……で毒オオトカゲの群を見たんだ」
「あー、いるよねあいつら」
「それが、こっちに向かってきてる感じなんだよ!」
「ひぇええ。あいつらに水場を使われたら、この水場が毒に侵されて駄目になっちまう」
ひええええ!
話してる人達も大慌てだけど、会話が聞こえちゃったあたしも大慌てだよ。
「ィー」(どうした?)
「ィー!」(毒オオトカゲの群がこっちに向かってるんだって。で、そのトカゲに水源を使われたら、毒で水源が駄目になるとかって)
「ィー」(それって結構なおおごとですわね)
なんて喋ってたら、勝手にクエスト受注してきた。
【水源を守れ!(2)】
水源の村の近くで毒を持つオオトカゲの群が目撃されたという。
水を毒で汚染されたらこの地で生きていけなくなる。
毒オオトカゲを300匹倒せ!
毒オオトカゲ (0/300)
だそうです。
「ィー」(村人から依頼されたわけではないし、影のヒーローになれってことっぺかねぇ)
「ィー」(悪の組織が堂々と人助けなどするものではないでござるからな。拙者たち向けのシチュエーションともいえる)
ねぇねぇ。あたし達って悪の組織なの? 戦隊って、どっちかっていうと正義ポジションな気がするんだけど。
「ィー」(休憩時間は十分取れた。困っている人もいる。ならば、素早く事態解決に向かうのが人の情というものであろうな)
タマさんが立ち上がった。
一言前では悪の組織って言ってたのに、今度は人の情って、悪い人側なのか善人側なのか、どっちのスタンスでいくのかはっきりさせてよもう~。
いやまぁ、その時その時で美味しいとこ取りしていけばいいんだけど。
まぁいいや。
でね。
くだんの毒オオトカゲの群がどこにいるかまでは聞いていないあたし達なんだけど、あたし達にはクエストガイドがあるわけです。
フィールドマップを開いてみれば、毒オオトカゲの居場所にしっかりマークがついているのです。
ささっとそこに行って、毒持ちのオオトカゲを倒して。
って、300匹って結構多いよね!?
腐ちゃんが範囲魔法放ちまくって、お姉ちゃんとあたしが爆弾で広範囲爆撃しまくったから比較的早く片付いたけど。
単体攻撃しかできない職だらけのPTだと手を焼きそう。
このイベント、効率よく進めるには、地味に色んな能力を要求してきてる気がする。
「ィー」(クエスト、さっくり終わったね~)
「ィー」(ミッションの2つ目の項目にもチェックがついたみたいですわよ。この項目は難易度低かったですわね)
【特設ミッション】枯れ行く大地に命の息吹を
☑砂漠化を止めるために神秘の泉を生き返らせろ。
☑邪魔する魔族を退治しろ。
・ゴア侵入を準備している魔族がいるらしい。陰謀を感知して止めろ。
「ィー」(魔族なんていうから人型の強いモンスターを想像してたんだけど、ただの魔物討伐だったね。項目の書き方、モンスターを倒せでもよかったと思わない?)
「ィー」(言ってやるな。大人の都合ってのがあったのかもしれないし)
「ィー」(最初は強い敵を置くつもりだったんだけど、難易度調整で敵が変わったって案はありそうっぺね~)
「ィー」(クエスト作るのも大変なんだね)
「ィー」(まぁ、細かいことは良かろう。水源の村に柵を作ったこと、周囲のモンスターも退治しておいたことを隊長殿に報告に参ろうではないか。クエストガイドにも、隊長殿がクエストを持っていると出ているし)
お喋りをタマさんが遮った。
言葉に従ってあたし達は辺境要塞に向かって移動。
委員長タイプの人がいてくれると行動をきちんと誘導してもらえるから、グダグダ時間を浪費しなくていいよね。