86 趣味はDIY
さぁて。
ギルドハウスでダラダラしたから休憩は十分。
外も明るくなってきたから、あたし達は怪人に変身して、ミッションの続きをやるために出かけたよ。
朱石オープン5周年イベント2日目。
ミッションの進行具合でいくと、あたし達は2つ目の項目に着手したくらいの段階になるのかな?
進みの早いギルドはどれくらいまで進んでいるんだろ?
攻略の早いグループにいるつもりなんだけど、ガチの1位ギルドは休みなしで走り続けてたりして。
そうなると、もう追い付くの不可能?
いやいや、あたし達は〈はやぶさの靴〉で移動速度ドーピングしてるし。
途中休憩したり寄り道した分は、移動速度貯金でペイできているといいなぁ。
あとはあれだよね。
イベントのもう一つの柱。ギルド戦。
珠の所有権がいくつか移動してるのはタブレットで確認できるんだけど、それぞれのギルメンが何人残ってるとかいう情報は出てこないんだよね。
まぁ、あたし達がギルド戦に本格参戦するのはミッション終わらせてからのつもりだから、今は無視でいっか。
【水源を守れ!(1)】ってクエストをやるために、あたし達はフィールドを中心部に向けて爆走中。
辺境要塞を抜けて祈祷師さんの小屋も通過して、神殿を過ぎてしばらく行った所に目的地の村があったよ。
荒野の小さな水場の周囲に何軒かの家が建ってるだけって感じ。それでも村なんだって。
村にはついたけど、これからどうしたらいいんだろう?
壊れた柵の近くから村の中をうかがう。そうしたら、一軒の掘立小屋の中からお爺さんが出てきた。
「見ない顔じゃな。水なら、1人1日バケツ5杯までじゃぞ」
「ィー」(違うでござる。辺境要塞の隊長殿から、この村の柵の修理を頼まれたのでござるが)
「ああ。修理人を寄こしてくれたんじゃな。この村に残っているのは女子供と年寄りだけだったので助かるよ」
「ィー」(直す柵というのはこれでござるか?)
近くにあったボロボロの柵にタマさんが手を置いた。
そうしたら、柵は乾いた音を立てて倒れる。壊れる。
カッサカサの木片が周囲に散った。
「それじゃ。見ての通り、もはや柵の役割をしておらんのでな。集めた材料で村の周囲に柵を作りなおして欲しい」
フィールドマップに×印が2カ所ついた。
クエストガイドにも文章が足されてる。
【水源を守れ!(1)】
ゴアで現在も生きている水源のある村のモンスター避けの柵が壊れかけているらしい。
村に行き、柵の修復を手伝え。
柵の材料
角材・太めの枝 (0/150)
粗縄 (0/150)
「ィー」(材料集めからなんだね)
「ィー」(材料くらい集めておいて欲しいよねぇ)
「ィー」(まぁ、クエストですからね。さくっと集めに参りましょう)
「ィー」(これさ、集める材料2つじゃん? 二手に分かれる感じ?)
「ィー」(いや。全員で行ってガーっと集めればいいと思う。固まってる方が他のギルドと遭遇しても危険が少ないし)
「ィー」(俺もそれがいいと思うっぺよ。そんじゃ行くっぺかね)
空さんが走りだした。
あたし達も続く。
進んでる方向的に、村に近い林っぽい所に行くのかな?
リアルだったら木材から調達とかありえないけど、幸いあたし達はゲームの中の存在。
どんなに重いアイテムだって、インベントリに入りさえすれば重さも大きさも量も関係ない。
4次元ポケット、早くリアルでも開発されればいいのに。
なーんて考えていたら林らしき場所についたよ。
周囲は砂漠とか荒野なんだけど、ここいら辺一帯だけ木が生えてる。
土はガチガチに硬くてやや乾燥ぎみだから、下草は生えてない。
「ィー?」(この木を回収すればいいの?)
「ィー」(であろうな)
「ィー?」(でも、アクションボタンみたいなの出ないね)
あたしは木をペタペタした。
他のクエストだと、回収対象のアイテムにはアクションボタンが出て、そのボタンに触れれば対象アイテムが入手できたんだけど。
「ィー」(伐採可能マークが出ているから、伐採して入手しろということであろうな。戦闘だけでなく採取の要素も織り込んであるとは、幅広い層に楽しめるように考えてイベント設計したのであろう)
タマさんが斧を取り出した。
他のみんなも続々斧やノコギリを取り出す。
え? え?
みんな採取アイテム所持なわけ?
茫然としているあたしを放置して、みんな各々近くの木に斧を入れ始めた。
「ィー」(あの~)
「ィー」(ぼさっとするなピンク。お前も切れ。というか、お前のことだから自前で採取道具を用意なんてしてないだろうと思って、予備を持ってきてる)
お姉ちゃんが斧とノコギリを投げてよこした。
「ィー」(太めの枝は柵の材料にカウントされるようでござるな。小さい枝はここでは用なしと――)
「ィー」(小さい枝も捨てないで回収しといてくれ。この、荒野の雑木って他で見たことないアイテムだから、できるだけ集めておきたい)
「ィー」(見た目と違っていい匂いがしますのね。料理で燻製材に使うと面白いかもしれませんわ)
「ィー」(枝を落とし終わった木ができたら呼んでくれ。拙者が角材に加工していこう)
「ィー」(レッド、こっち1本いいっぺよ~)
「ィー」(承知!)
タマさんが空さんの所にジャンプした。
ノコギリを構えて深呼吸。
次の瞬間には猛烈な勢いで木を切り始めた。
凄い凄い。
凄いスピードで綺麗な角材が切りだされていってるよ!
「ィー」(さすがぁ、伐採と木工をカンストさせてる人はぁ、手さばきが違うねぇ)
タマさん、そんな能力上げてたんだ。てか、そんな能力あったんだ。