84 ただいまギルドハウス
「ィー」(ねぇねレッドさん。祈祷師さんに貰った加護ってどんな効果があるの?)
「ィー」(そういえば拙者もまだ確認してなかったでござる。どれ……)
タマさんの視線が中空に向く。
「ィー」(イベント中のみ有効な加護のようでござるよ。死亡するほどのダメージを食らった場合、1度だけそのダメージを無効化してくれるようでござる。死んだら退場のこのイベントでは、保険としてかなり有用でござるな)
1回しかダメージ無効にしてくれないっていうのはちょっとケチな気もするけど、かなり規格外な効果だから妥当なのかな。
「ィー」(いいねそれぇ。むしろ後衛に欲しいよねぇ)
「ィー」(わたくし達の場合は、大きすぎるダメージの攻撃が直撃すると、普通に全快からの一発死がありますものね)
ぉおおお、そうなんだ。
魔法職系後衛職、ほんとに紙なんだね。
あたしも前衛職としては防御力低い方だけど、そこまでじゃないから良かった。
「ィー」(ありがたい加護をいただけて感謝でござるな。それでゴールド殿。もらったこのアイテム、お主に渡しておこう。一番有効活用してくれるであろうからな)
コブシ大の宝石みたいな石をタマさんがお姉ちゃんに渡す。
「ィー」(拙者事に時間を取らせてすまなかったでござるな。では参ろうか)
タマさんが指示を出す。ウダウダと文句を言っている空さんをお姉ちゃんが蹴飛ばして走りださせていた。
タマさん。
見た目は雑魚ショッ○ーが赤いマントつけてるだけでしょぼいのに、中身は紳士でリーダーで、デキルござるなんだね。
祈祷師さんの居場所からゴア辺境要塞はすぐそこ。
まだ真っ暗な時間にあたしたちは辺境要塞に着いた。
生身だったら夜は眠くなるんだけど、ゲームの中では何時になっても眠くならないんだよね。
お陰で、ゲーム内で夜のイベントも昼のイベントも楽しめて美味しいです。
んまぁ。
リアルとゲームの中って時間の流れ違うし。
今回のイベントも、ゲーム内時間をリアルに換算すると、ゲーム内時間1日=リアル時間1時間って感じだし。
でも、時間関係無しっていうのはプレイヤーだけのお話なので……。
深夜の要塞には隊長さんがいない!
朝になって隊長さんが起きてくるの待つしかないのかな~。
ってあたしは思っていたんだけど。
お姉ちゃんが要塞の中にズカズカ入っていった。
しばらくしたら、【神秘の泉の復活】クエストクリアの通知がきた。
ミッション情報にも変化があったみたいで、目の前にウィンドウがポップアップしてくる。
【特設ミッション】枯れ行く大地に命の息吹を
☑砂漠化を止めるために神秘の泉を生き返らせろ。
・邪魔する魔族を退治しろ。
・ゴア侵入を準備している魔族がいるらしい。陰謀を感知して止めろ。
項目の1つにチェックがついてる!
ふぁ~。1日かけてミッション関連のクエスト群ひとつクリアか~。
期間中楽しめるように設計されてるんだろうからか、長いね~。
「ィー」(ところで、クエ、なんでクリアになったんだろう?)
「ィー」(大方、寝ている隊長をゴールドが叩き起こしたのでしょう。少し手荒ですけど仕方ありませんわよね。わたくし達、競走中なわけですし)
ああ、なるほど。
睡眠妨害くらいなら小さな被害だし、隊長さんには心の中で謝っておくぐらいでいいかな。
そうこう喋っている間に新しいクエストを受注。
【水源を守れ!(1)】だって。
なになに?
【水源を守れ!(1)】
ゴアで現在も生きている水源のある村のモンスター避けの柵が壊れかけているらしい。
その村に行き、柵の修復を手伝え。
だって。
新しいクエスト群に入ったからか、簡単そうな依頼から始まったね。
今度は柵作り。
材料集めと肉体労働があるのかな?
あ、お姉ちゃんが要塞から出てきた。
「ィー」(新しいクエストを受注したんだが、お前たちもクエスト受注してる?)
「ィー」(してるよ~。【水源を守れ!(1)】ってやつでしょ?)
「ィー」(そうそれ)
「ィー」(次の目的地、そこそこ遠いですのね。せっかくギルドハウスの近くまで戻ってきたのですし、今ならキリがいいですから、ハウスに戻って休憩しませんこと?)
「ィー」(それいいかもねぇ。ギルドハウスが襲われてないかの状況確認もできるしぃ)
「ィー」(賛成でござる)
「ィー」(んじゃ戻るっぺねぇ)
そういうわけで、あたし達は一度ギルドハウスに戻ることにしたよ。
1日ぶりのギルドハウスに特に変化は見られない。
イベントスタート時にハウスの外に出てたジャンヌさんとサン=ジェルマンさんの姿が見えないくらいかな。
「ィー」(あの2人、もしかしてやられちゃった?)
「ィー」(さぁ、どうっぺかね? やられてても大して困りはしないっぺけど)
なんてことを言いながら空さんがギルドハウスのドアを開ける。
中からフライパンが飛んできて空さんの頭に当たった。
「ちょっと色ボケ、今失礼なこと言ったでしょ。アタシ達が負けてたら困るでしょ!!」
「お帰り、主人たち。メイドを起こしてこよう。休みに戻ってきたんだろう?」
おかんむりなサン=ジェルマンさんの後ろでジャンヌさんが笑う。
あたし達はギルドハウスのリビングのソファになだれ込んだ。
フィールドを走っている間は興奮してて気付かなかったけど、地味に疲れてたみたい。