83 フードの下には夢がいっぱい
どうも、あたしです!
前回は〈お前何SUMMER〉ギルドと〈ヌレテニアワー〉ギルド、合計4人さんと対決だよって所で終わったよね。
えとー。
その戦闘、もう終わってます。
あ、紙が降ってきた。なになに?
相手が弱くていつものルーチン戦闘で面白みも何もないので省略します。
だって。
なんのことだかよくわからないけど、大人の都合っていうやつなのかな?
「ィー」(で、これからどうするっぺ? さっきのギルドの他の連中叩きにいくっぺか?)
「ィー」(今の段階で叩きに行く必要はないかな。途中で遭遇する奴だけ潰して、とりあえずミッションクリア優先でいいと思う)
お姉ちゃんの意見にみんな賛成。
なので、あたし達はこれで神秘の泉の神殿を撤収することにしたよ。
今持ってるクエストはゴア辺境要塞隊長に神秘の泉の復活を報告に行けだから、来た道を戻る感じになるね。
さぁ出発。
って動き出したんだけど、すぐにタマさんが立ち止まった。
「ィー?」(どうしたの?)
「ィー」(祈祷師殿をここに残しておいてもよいものなのかと思って。彼女、儀式をするためにここに来たのであって、本来の住処は元いた場所あたりであろう?)
「ィー?」(NPCだからぁ、勝手に帰るんじゃないのぉ?)
「ィー」(普通のNPCであれば、クエストが終わればふっと消えて、元いた場所に戻ってることが多いと思うのでござるが。彼女、拙者たちにクエストを渡してもいるまま故にな。少し気になったでござるよ)
「ィー」(レッドはわけのわからない所で紳士ですわよね)
うん。NPCの挙動にまで意識を配るだなんて、紳士であるべき場所が違うような。
でもでも。
あたしも、処刑されそうなジャンヌさん可哀そうって、牢から連れだしちゃったりしたからな~。
NPCって言われても見た目リアルだから、なんか情が移っちゃうんだよね。
そういうところ、あたしとタマさんは同類なのかな。
「ィー」(祈祷師殿、まだここに用がおありでござるか? 元いた場所に戻られるのであれば、拙者が連れ戻ってもよいでござるが)
って、さっそく行動してるし! 有言実行だね!
空さんも、タマさんを見習って女子に真摯に向き合えば、もう少しモテルかもしれないのに!
「ここに用はもう無い。そなたらを見送ったら帰ろうと思っていた。だが……私も連れ帰ってくれるだと?」
祈祷師さんから困惑したような答えが返ってきた。
「そなたらは急いでいるのではないのか? 私など連れていては邪魔だろう」
「ィー」(あなた一人増えても特に問題はござらぬよ。ふむ。まぁ、ここで遠慮しあっていても時間の無駄でござる。帰るつもりであったのであれば、何も問題はない)
タマさんが祈祷師さんをお姫様だっこした。
彼女をここまで連れてきた時の状態再び。
困惑している祈祷師さんから乙女チックな空気が漏れているような。
「ィー」(待たせたでござるな。さぁ、とりあえずは彼女が元いた場所に戻るでござる)
「ィー」(その祈祷師、女子なんだっぺよね? 帰りは俺がだっこでもいいんだっぺよ?)
「ィー」(お主に任せたら、モンスターに遭遇した時が危険でござるよ)
そんなことを言い合いながら男性キャラ2人が走りだす。
その後ろにあたし達女子陣も続いた。
「ィー」(レッドさんてさ、あれだけ紳士だからモテル人なの?)
「ィー」(モテないよぉ。だってレッドだもん~)
「ィー」(紳士ではありますけれど、強引さの方向が女子の好む方向と微妙にズレてますのよ。最初は紳士と思っても、次第にうざくなって終了ですわ)
「ィー」(それ以前に名前がアレだしな)
あらら。女子陣(約1名ネカマ含む)の評価はボロボロだね。
空さんはいろんな意味で問題外だし。
お姉ちゃんはプロネカマだし。
このギルドにまともな男がいない不幸。
うん?
まともな女もいないだろって声が聞こえた気がするけど、きっと気のせい。
そうこう無駄話しながら走っていたら、祈祷師さんが元いた場所に帰りついたよ。
タマさんが祈祷師さんを静かに下ろす。
祈祷師さんはローブを叩いて乱れを直していた。
「ありがとう珍宝銀銀丸殿。おかげで安全にこの地に戻ってこれた」
祈祷師さんがフードを取る。
おぉ、この人かなりの美人だぞ!
はたから見ても空さんのテンションが上がったのが丸わかりなんだけど!
その美人さんがタマさんに寄る。
「礼をやろう。といっても、大したものは与えられないのだが」
そうして、タマさんの頬にキスした。
空さんが大騒ぎ。モテナイ男がうるさいよ!
「私の加護だ。イベント中はそなたに力を与えてくれるだろう。あとこれを」
祈祷師さんがローブの中から透き通ったコブシ大の石を出した。
ぱっと見は宝石みたいにも見えるけど、なんか違うよーな。
「神秘の泉の復活の儀式で使ったオオトカゲの心臓だ。ギルドハウスのしかるべき場所に置けば無限に水を湧きださせてくれる。うまく活用されることを祈る」
両手でタマさんの手を包み込むように元心臓をタマさんに渡す祈祷師さん。
名残惜しそうに彼の顔を見て、そうして手を離した。
あとは、何事もなかったかのように近くにあった小屋に入っていく。あそこがおうちなのかもね。
「ィー」(レッドだけずるいだっぺ。つぎ女性キャラが出てきたら、俺に交渉権をよこすだっぺ)
空さんってばタマさんに絡んでるし。
空さんが女の人と話しても、空さんは空さんだから、こんな展開にはならないと思うんだけどなぁ~。