74 神秘の泉の神殿
祭器の入った箱を手に入れたあたし達は祈祷師さんの所にとんぼ帰り。
箱を祈祷師さんに渡した。
「ありがとう。これで神秘の泉復活の儀式ができる」
頭をすっぽりと覆うローブを被っている祈祷師さんだけど、そのローブの下でちょっと笑ったような気配がした。
あたし達がきちんと儀式の道具をそろえてきたから、使える連中だとでも思ったのかな。
【盗人の足跡】クリア。【神殿の秘密】クエスト受注。
「では、神秘の泉のある神殿へ向かおうか」
祈祷師さんが歩き出した。
え? え?
祈祷師さん自体が移動?
あたしはそっとお姉ちゃんに寄った。
「ィー」(これ、祈祷師さん、歩き出すポーズだけで、神秘の泉についたら祈祷師さんはワープしてきてるとかってパターンじゃないのかな?)
「ィー」(どうだろうな。ワープパターンだと、歩き出した祈祷師はそろそろ消えるはずだが)
祈祷師さんの歩みに合わせてあたし達も進む。
1kmくらい一緒に歩いたと思うんだけどさ、祈祷師さん消えないんだよね。
あたし達の進みに合わせて祈祷師さんが進むスピードも変わるのかなって走ってみたりもしたんだけど、祈祷師さんは歩きのまま。
あたし達PTが祈祷師さんを置いてけぼりにしただけになったよ。
しかも、モンスター、普通に祈祷師さんにも攻撃してるし! 祈祷師さんのHP減ってるし!
火力陣がモンスターを退治している間に姫様が祈祷師さんに回復を飛ばす。
「ィー」(これ、祈祷師を神秘の泉に連れて行くのまでクエストに含まれていそうですわね。クエストガイドには書かれていませんけど)
「ィー」(ぽいなぁ。復活の儀式とやら、こいつしかできないんだろうし)
「ィー」(でもぉ。祈祷師の歩きに合わせたら面倒くさいねぇ)
神殿までってかなり距離があるのに、ずっとこのペースだと、今までのあたし達のペースと違いすぎて調子が狂っちゃう感じで嫌かな~。
「ィー」(ちょっと失礼。モンスターの攻撃が入るのであれば、拙者たちも祈祷師殿にアクションを起こせるのでは?)
タマさんが祈祷師さんをお姫様だっこした。
祈祷師さんから「きゃっ」なんて乙女チックな声があがる。
祈祷師さん、中世的な声だし話し方だから性別不明だったけど、女の人だったんですね。
「ィー?」(ふむ。抱きかかえるのは可能でござるな。では、このまま走るのも可能でござろう。みな、その方向でよろしいか?)
「ィー」(はーい)
さっさと移動できるんであればあたし達に不満はないから、もちろんみんな賛成。
「ィー?」(祈祷師殿はご自分で歩けなくなるけれど、それでよろしいか?)
「は、はい」
祈祷師さんから小声が返ってきた。
「ィー」(では参ろうか。スカイ、先頭頼むでござる)
「ィー」(ほいほいっぺ)
ってわけで、あたし達はいつものペースで爆走に戻る。
NPCの祈祷師さんにまで意思確認するだなんて、タマさん紳士。
しかも抱き方がお姫様だっこだし。
そのせいで両手がふさがって戦闘じゃ役にたたなくなったけど、いいですよいいですよ。
モンスターまだまだ雑魚ばっかりだから、戦闘らしい戦闘にならずに潰していくだけだから。
タマさんの機転のおかげで、祈祷師さんを保護したまま、あたし達は短時間で神殿まで移動できた。
いつまでも抱っこしたままでは悪いだろうからと、タマさんが祈祷師さんを降ろす。
あのあの。
祈祷師さん、今、名残惜しいような仕草しませんでしたか?
「神秘の泉は神殿の地下にある」
元の雰囲気に戻った祈祷師さんが歩きだした。
「ィー」(祈祷師はまだ自動で動くのか。見た感じ、この神殿、上の方にも部屋があるんだけどな。神殿なんていうくらいだから、宝物があっても不思議じゃないが)
お姉ちゃんが不服そうにつぶやく。
「ィー」(かといって、アイテム欲しさに別行動して、祈祷師が死んでクエスト失敗、もしくは、また移動させないとならないとなると困りますわ)
「ィー」(だよなぁ)
「ィー」(ならぁ、組分けしてぇ、祈祷師の護衛班と家捜し班になればいいんじゃないのぉ? まだモンスター弱いからぁ、楽勝だと思うよぉ)
「ィー!」(それだ!)
腐ちゃんの意見にお姉ちゃんが飛び付いた。
それからの動きは早い早い。
「ィー」(祈祷師の護衛にレッドとホワイト頼む。残りのメンバで神殿を家捜しするぞ)
「ィー」(了解でござる)
「ィー」(暇な方の組ですけれど、仕方ありませんわね)
タマさんと姫様は祈祷師さんの横についていく。
あたしとお姉ちゃんと空さんと腐ちゃんはお宝を探しにレッツゴー!
お日様がだいぶ傾いて夕方になってきてるけど、光はまだ建物の中まで入ってきてる。
おかげで家捜ししやすくていいよね。
この神殿も廃棄された建物っぽくてモンスターが徘徊してて、しかもそれがアンデッド系なものだから、夜だったらお化け屋敷ばんざいだったんだけど、それも回避できて良かった感じ。
祈祷師さんを抱っこして移動っていう裏技を思いついたタマさん、ほんとグッジョブ。