7 課金アイテムは他人の財布で買うもの
「つまるところどういうコト?」
イマイチよくわからなくてあたしは首をかしげた。
「ギルメン全員、ストーキングされる確率が跳ね上がったってことだな。まぁ、怪しい奴を見つけたらとっ捕まえて、金品巻き上げてやれば諦めるだろ」
「俺やナナはいいけど、こはるちゃんは始めたばっかりだろ? それ無理じゃね?」
「大丈夫だと思うんだがな〜」
お姉ちゃんがあたしに顔を向けて、眼鏡をくいっと動かす。そうしてニコッと笑った。
「ストーカーを見つけたら笑顔で言ってやれ。見物するなら金をくれって」
「え? それでいいの?」
「大丈夫だ。それで馬鹿は金を貢ぐ。ちょっと空で練習してみよっか」
お姉ちゃんが空さんをあたしの方に押す。
「ぉわっ! っと、っとっと」
バランスを崩した空さんは片足飛びでこちらにやってきて、ソファに座るあたしに半分覆い被さるような姿勢で止まった。
「ぇーと」
見つめ合う2人。言葉が見つからなかったからか同じ言葉が出た。
「あの、空さん」
練習って言われたし。
覚悟を決めたあたしは空さんを上目遣いに見る。
「あたしのこと見るならお金くれる?」
首を少し傾けて言ってみた。
空さんに反応は無い。
反応は無い。
反応は――
「おうけぇええい! いいよいいよ、お兄さん何でも買ってあげちゃう!」
凄い反応があった! なんだこの人チョロ過ぎる!
「空。こはるもインベントリの容量を最大まで拡張したいそうだ。あ、もちろん倉庫もな」
目をハートにしている空さんの耳元でお姉ちゃんが囁く。
「うん? 拡張鞄ね。OKOK。すぐにプレゼントするから待ってて」
いそいそと空さんがタブレットを操作する。
そしたらなんかメールが届いた。拡張鞄が添付されてるし。
「えとー。これって課金アイテムだよね? 貰っちゃっていいの?」
確かに金をくれとは言ったけどさ。ゲーム内マネーを貰うものだと思うじゃん? まさか課金アイテムが来るとは思わないじゃん?
「いーのいーの。空のリアルって超金持ちらしくて、それくらいの出費屁でもないらしいから」
「そうそ。だから、こはるちゃんも何か欲しい物があれば言ってくれればいいよ。プレゼントするからさ」
「はぁ」
返事してみたものの、いーのかな、これ。
でも、ずっと前から搾取する側とされる側のハズのお姉ちゃんと空さん楽しそうに一緒に遊んでるし。
気にしなくていいのかな?
せっかく貰ったからインベントリ拡張鞄を使う。これで、持ち運びできるアイテムの量が最大になるんだよね?
個人倉庫にも拡張鞄使って〜と。
えとね、普段持ち歩かない物なんかを収納しておけるのが個人倉庫。
始まりの街の広場に設置されてる物なんだけど、ギルドハウスからでもアクセス出来るんだって。
で、大きくしたばかりの倉庫に、インベントリからいらない物を移していく。
インベントリに空きを作っておかないと、冒険に行った時にアイテム拾えない! なんて事態を起こしちゃうもんね。お片付けは大切。
そんな作業をしていたら玄関がノックされた。
ギルメンなら黙って入ってくるから、他所の人なのかな。
「これからこはるちゃんと愛を育もうと思ってたのに。誰だよ」
ぼやきながら、玄関に一番近い場所にいた空さんが対応に行く。
なんかおかしな言葉が聞こえたような気がするけど気のせいだよね。
気のせい気のせい。
……。
後で、空さんをまきつつ財布にする方法をお姉ちゃんに教えてもらっとこう。
ドンドンドンドン。
玄関は叩かれ続けている。
「はいはいどなたですか」
空さんが扉をちょっとだけ開ける。
その隙間から、伸ばした爪に紫のマニキュアを塗った指が差し込まれてきた。爪、綺麗に手入れされてるけど、骨ばった指してるから男の人かな?
「開けたわね」
声も聞こえてくる。
いやなんか裏声なんですけど。話し方もオネエっぽいんですけど。
「不審者だな。空、閉じろ」
奥からお姉ちゃんが言ってくる。
実は、言われる前から、空さん扉を閉めようと体重かけてたんだよね。
でも、扉はまだ閉じていないし、空さんは扉に体重をかけているっぽい姿勢のまんまでフリーズしてる。
「そーしたいところなんだが、こいつ力強すぎ……どわーっ!!」
おぉ、空さんが吹っ飛んだ!
途端に玄関がばーんと開いて、長い紫の髪のオネエが口元に小指を立てて高笑いする。
うわぁ、化粧濃いし服派手〜。
「おーっほっほっほっほ。強制クエストの開始フラグを踏んだ時点で、アナタ達に抗える余地なんてないのよ」
オネエがこちらをビシィと指さすと、
【特殊クエスト(ギルド)】背徳の薔薇が絡みしは栄光の十字
クエストが表示された。
ほえー。クエストって沢山用意されてるんだね。
「なんか出たな」
「だな〜」
「特殊クエってことはあれか? 狼獣人クエの続きになるのかね?」
「みたいだな。開始条件が、「狼獣人がギルドに入り、ギルドハウスに狼獣人含むギルメン3人以上が集まること」ってなってるし」
虚空で指を動かしながらお姉ちゃん。クエストの条件とか色々調べてるんだろうね。
「アタシはサン=ジェルマン。このクエストへとアナタ達を案内する華麗なる使者」
オネエの周囲に毒々しい薔薇が咲いて、どこからかスポットライトが当たる。
「しかし、このクエなんなんだ? クエ名だけだと中身が欠片も分からんな」
「クリア条件もまだ表示解放されてないのか。てか、ギルクエってことは、ギルド恩寵が増えるタイプかね?」
けど、お姉ちゃんと空さんは、そんなの見ずに2人の会話に夢中。
サン=ジェルマンさんとかいうオネエさんがペラペラ喋ってるのも完全無視。
「人の話を聞かんかクソガキども! てか、いっぺん地獄見てこい!!」
突然オスを見せたサン=ジェルマンさんが怒鳴ると、ギルドハウスの中にもわもわしたワープポイントが生まれる。
どういう原理か、あたしとお姉ちゃんと空さんで強制的にPTが組まされたし!
その3人ともサン=ジェルマンさんに追い立てられて、最後にはお尻を蹴られて、ワープポイントに放り込まれた。
あ〜れ〜。