69 敵をだますには味方から
イベント用ギルドハウスのリビングには見なれない台座が設置されているんだけどね。
その台座の上には中身が見えない箱が置かれている。
これなんだろね? って箱をどかしてみたら、ソフトボール大の赤い珠が鎮座していた。
イベントの点数に関係する珠ってこれかな?
「思ったのですけれど。珠、他のギルドの物を強奪できるのでしたら、自分のギルドの物も安置場所から動かせるのではなくて?」
珠を姫様が手に取った。
「動かせますわね」
「台座から離してもぉ、ギルドにあるっていう扱いは同じなんだねぇ」
タブレットを覗き込みながら腐ちゃん。
タブレットに送信されてきてるイベント情報でね、参加ギルドと参加メンバーと、各ギルドハウスの場所と、ギルドが所持してる珠の情報は見れるようになってるんだ。
安置場所にあるものをカウントしてるのかと思ったけど、違うみたい。
「ちょっと実験~」
姫様の手から珠を取った腐ちゃんがハウスの外に行く。
「珠の表示どうぅ?」
「変わりませんわ」
「外の地面に落としてみたんだけどぉ」
「それも変わりませんわね」
「ギルドハウスの安置場所に置かれてるぅ、もしくはギルメンの誰かが持っていればギルド所持ぃ。落としても所有権は変わらないぃ。他ギルドの誰かに奪われた時からぁ、所有権が相手に移るのかもねぇ」
珠システムの詳細仮定をつぶやきながら腐ちゃんが戻ってきた。
「あー。ちょっと待ってくれ。こう、何か思いつきそうなんだ」
右手を顔の高さで掲げて、お姉ちゃんが考え込むような仕草をする。
「安置場所に置いてなくてもいいならさ、最悪ギルドハウスが落ちそうになったら、誰かが持って逃げてもいいよね」
あたしは思ったことを言った。
「それだ!」
そうしたら、お姉ちゃんが大声をあげる。
「最初から珠は持ってでかけよう。ククク。うちのギルド、防御がアホみたいに固いからな。まさか外にあるとは誰も思うまい。他ギルドのみなさんには、無駄なギルドハウス攻略に手を焼いてもらおう」
「その間に、手薄になった他ギルドの珠をいただくつもりでござろう?」
「そゆこと」
お姉ちゃんが黒い笑顔を振りまいた。
「幸い、ここにはジャンヌもサン=ジェルマンもいませんわね。彼らは珠がギルドハウス内に無いことを知りませんから、全力で防衛にあたってくれるでしょう。もしもハウス内に戻ることがあっても、箱を開けて確認しない限り、珠の有無は気付かないでしょうし」
うは、姫様にも黒い笑顔が。
うふふ。くくく。黒い笑いをする人がどんどん増えていく。あたしも加わっとこ。くふふ。
「で。珠、誰が持つわけ? 俺的には、ギルマスでタフガイな俺が適任だと思うんだけど?」
「却下だ。お前はすぐ死ぬし、うっかり落とす可能性も高い」
空さんの立候補はお姉ちゃんの一刀でバッサリ切られる。
空さん撃沈。泣く。
「はいはぁ~いぃ。私ぃ」
「腐殿は紙過ぎであろうに。狙われたら即蒸発でござるよ」
腐ちゃんの立候補はタマさんが一刀両断。
腐ちゃん撃沈。泣く。
「わたくしも紙ですし、どちらかというと狙われやすいですから遠慮しますわ」
「私も持ちたくないかな~。重責は嫌い~」
姫様とあたしは辞退。
残るはお姉ちゃんとタマさんの戦いっ。
「もしも敵に狙われた場合、アイテムが豊富なナナオ殿の方が生き残れる可能性が高かろう。よろしく頼む」
おぉ。的確に状況分析して役を下りたよ。タマさん大人だよ。
ってわけで、珠の守護者はお姉ちゃんになりました。
インベントリに収納できないアイテムみたいで、ネットに入れて腰ベルトから吊るす方式で安定したみたい。
お姉ちゃん、他にもいくつかのアイテムを腰ベルトから提げてるから、それに混じって違和感ないね。
「提案だ」
お姉ちゃんが挙手した。
「なんだ?」
「ギルド戦のことはひとまず忘れて、ミッションクリア1位を取ることを優先させたい」
「妥当でござるな。ミッションクリアだけに全力投球してくるギルドもあるであろうから、拙者たちも全力でクリアしていかねば遅れをとりそうでござる」
「確かにそうですわね。どうせならミッションクリア1位も欲しいですわ」
「クリア1位100点貰えるしね」
「どうせなら狙っちゃえぇ、両イベント獲得ポイント1位の座ぁあ」
さすがにそれはきついっしょ、と苦笑いが起こる。
「けどまぁ、ギルド戦でも頑張りたい所ではある。ま、私達みたいに珠を持ちだすギルドも出てくるだろうから、ミッション途中で見つけたプレイヤーは抹殺。ミッションクリアしてから全力でギルド戦でよくないか?」
「異議なしでござる」
「異議なーし」
誰からもお姉ちゃんの作戦に異論は出ない。
満場一致で行動指針は決まった。
「準備はこんなもんかね? んじゃ変身しますか。とぅ!」
空さんが早々に変身。
「イベント時間は限りがあるでござるしね。さっさと動くに限る。とぅ!」
タマさんも変身して、他のメンバも次々変身していく。
「ィー」(全員変身したっぺね? コードネーム、間違えないように注意だっぺ)
「ィー」
えとー。
リーダーのタマさんがレッドでしょう? 空さんがスカイ、お姉ちゃんがゴールド、姫様がホワイト、腐ちゃんがドドメ、あたしがピンク。
うん大丈夫。覚えてる。
「ィー」(準備はあらかた終わりましたわね。では、料理を食べてドーピングしましょう)
姫様が出発前の料理を出してくれる。
ステータスの大幅アップが主な効果なんだけど、それぞれの得意とする攻撃や回復、防御がより尖るような凶悪な効果でスゴイ。
「ィー!」(では行くでござるか。怪人戦隊ンジャメナEX、出動っ!)
あたし達はイベントフィールドへと踏み出した。