67 ンジャメナEX
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「明日からのイベントなんだが。うちのギルメンは、全員怪人姿での参加を提案する」
空さんが言った。
あたし達ジャスティスゼロの面々は、今、ギルドハウスのリビングに集合して作戦会議中。
明日からイベントがあるんだけどさ。
そのイベントで好成績をあげたギルドには賞品が出るんだって。
うちのギルド、勝負事には全力投球な人だらけだっていうのに、その上賞品貰えるかもってなったら……。
全力出すしかないよね。
6人しかいない小ギルドだからこそ小回りがきくっていう利点もあると思うんだ。
「なんだってそんな恰好で参加しようって言いだしたわけ? 目立ちたいだけ?」
会議の議長をしてくれているサン=ジェルマンさんはあきれ顔。
メイドさんは、みんなから出た意見をホワイトボードに書きこんでいってくれている。
「いや~。ほらさ~。俺らってなにかと僻まれてるじゃん? 狼獣人はこはるちゃんがとっちゃったし、ジャンヌちゃんを討伐するワールドクエでも一番目立ってたし。今回は、一目で俺達だってバレないように動く方がいいんじゃね? と思ってだな」
「僻まれてるのはわかるが……僻まれて困るようなことあるか?」
「ナンパした女の子から辛い言葉を吐かれることが最近多いの」
「それぇ、空がアホなことやりすぎてぇ、みんな我慢の限界なだけのような気がするぅ」
「そんなわけで、これ以上女の子から冷たくされると、俺のガラスのハートが砕けそうなのだ!」
「自分に都合の悪い意見が出た時は、よく難聴になるよね空さん」
「それが空の良いところであり悪いところでござるな」
「むしろ、ほぼ悪い所だと思いますわよ」
周囲で空さんのことをコソコソ言ってるんだけど、空さん聞こえてないみたい。
まぁ、それで改善されてくるようなら、空さんの性格矯正をみんな諦めたりしないよね。
「んまぁいいんじゃね? せっかくの祭りだし、いつもと違うことした方が楽しいだろうし」
お姉ちゃんから賛成票が1票入りました。
他のみんなも反対はしない。
だから、怪人姿でのイベント参加案は可決。
「で、私からの通達だが」
お姉ちゃんが立ちあがった。
そうして、ギルメン1人1人の前に、福袋みたいな、大きめでパンパンの袋を置いていく。
「他のギルドと戦闘になろうと、強いモンスターが配置されていようと、ごり押しでどうにかできてくれるように、それぞれが有効活用してくれそうなアイテムを袋に分けておいた。当日は状況に合わせて使ってくれ」
お姉ちゃんがくれたアイテム袋の中身をみんなそれぞれ確認してインベントリに収納。
このアイテム作りね、あたしも手伝ったの!
イベントするよって告知が出てから、お姉ちゃんとあたしで、ほぼフル稼働でアイテム作りだったよ。
材料集めは他のみんなが頑張ってくれました。はい。
「あと。イベントはイベント専用フィールドで行われるらしい。そこでしか手に入らないアイテムもあるだろうから、それを回収できるよう、インベントリの空きはある程度確保して参加で頼むわ」
「はぁ~い」
「わたくしからの話に移ってよろしいですかしら?」
姫様が訊ねるとお姉ちゃんがうなずく。姫様はみんなの前にそれぞれ箱を置きだした。
「イベントの期間中、常にステータスドーピング状態でいられるだけの料理を作りましたわ。今配ったのはイベントに各自持っていってもらう分。明日、イベントに出発する直前にドーピング料理を出しますから、そのことも覚えておいてくださいませ」
「了解したでござる」
各々料理箱をインベントリに収納。
この料理を作るために、ギルド倉庫に保存されてた貴重な食材がごっそり使われてたんだよね。
ギルドハウスの庭で空さんが家庭菜園しててさ、入手が面倒な植物はここで育ててたりもするんだけど。
料理に使う分が足りないっていうんで、お姉ちゃんが促成栽培液を撒いて収穫サイクルを早めたり、タマさんは日々獣肉を取りに行ったり、腐ちゃんはお魚を釣ったり。
こっちはこっちで材料収集がてんやわんやしてたよ。
「で、他に何かある人いるのかしら?」
サン=ジェルマンさんがあたし達を見回す。
誰も何も言わないから、連絡事項は終了なのかな?
「ところで。アナタたち、怪人戦隊するのにチーム名は決めてあるわけ?」
なんとなく、って感じでサン=ジェルマンさんが言った。
「そういや、スーパー戦隊シリーズでは、常になんとかレンジャーって名前がついてるな」
「私たち怪人の集まりだからぁ、どっちかっていうと悪者の方だけどねぇ」
「けども、名前なんてすぐには思いつけないでござるよ」
だよねぇ、と一同で頭を悩ます。
そうしていたら、タブレット片手にお姉ちゃんが立ちあがった。
「困った時の”サークル名ジェネレータ”頼り! 出た名前で1発決定な!」
「おかし過ぎる名前が出ませんように」
「卑猥すぎる名前が出たら困りますわ」
「マッチョな名前が出てくれると俺は嬉しい」
みんなが祈りのポーズになっていく中、お姉ちゃんの指がポチっと動く。
「生成された名前は! ”ンジャメナEX”だ!!」
「ンジャメナEXだってーー!?」
一同驚く。
いやだって、ンジャメナって何? そもそも何語?
「ンジャメナ。N'Djamena。チャド共和国の首都。同国の南西端部に位置する。岩塩・ナツメヤシの集散が盛ん。だそうだ。知るかっ!」
調べていたお姉ちゃんがタブレットを床に投げつけた。
正しい反応だと思います。
まぁ、そんなこんなで戦隊名が決まったわけで。
あたし達、怪人戦隊ンジャメナEXとして、明日は頑張ろうと思います。