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60 ここ掘るなわんわん

「とりあえずお茶を入れようか。用意するから、そこに座っていておくれでないかい?」


 魔女さんがパンパンと手を打ち鳴らすと、部屋の真ん中に置かれている机の椅子が2脚、ススっと引かれる。

 ここに座れってことだよね。


 魔女さんは薬缶を火にかけて、茶葉をどれにするか選んでいる感じ。

 その途中で「あ」っていう表情をした。


「そういえば、わたしとしたことが、さっき森に出かけた時に、お茶受けに良さそうなアイテムを置いてきてしまったよ。湯が沸くまで時間があるし、悪いけど取ってきてもらえないかね?」


 魔女さんがすまなさそうな仕草をする。


「いいですよ」


 もちろんあたしは快諾。食べ物のために頑張らないだなんて、そんなことありえませんよ。


「それで、森のどこら辺に何を忘れたんですか?」

「置き忘れた場所は忘れちまったねぇ。物はね、〈犬系まっしぐら〉っていう肉なんだけど」

「〈犬系まっしぐら〉?」


 どこかで聞いた名前に何かがひっかかったような。


 ……。

 あ!

 思い出したあれだ!

 怪人化してた空さんが、あたしをケージに引っ張りこむために使った餌罠!

 あたしの記憶が確かならば、あれを食べると寝ちゃうんですけど。それを茶菓子に出すと仰いますのか魔女様。


 ガクブルしているあたしを放置して、ログウィンドウにはクエスト受注の通知が来るし。



【Lv5】探し物は茶菓子

 森の魔女は、お茶受けを近くの森のどこかに忘れてきてしまったらしい。

 茶を淹れるための湯が沸くのを待つ間に探しにいこう。


 探し物:〈犬系まっしぐら(無毒)〉 0/1



 んんん?

 探し物、〈犬系まっしぐら(無毒)〉なの? 無毒ってことは、昔みたいに眠くならないのかな。


 ていうかさ。

 このクエストを受けてから、弱いけど良いにおいがしてるんだよね。


 くんくんくんくん。

 くんかくんかくんかくんか。

 匂いの出所はココだー!


 あたしは戸棚に裏返して置かれていたザルをどけた。

 ザルをどけたことで溢れる芳醇な肉の香り。

 そこに鎮座していらしたのは〈犬系まっしぐら(無毒)〉。


 この出会いはきっと運命。

 このお肉は、あたしに食べられるためにここに用意されていたのだ。

 では、いっただきまぁ~す!


「ちょ、ちょっと待つでござるよこはる殿!」


 銀さんに〈犬系まっしぐら(無毒)〉を奪われて、あたしの大口は空気しか食べられなかった。

 おのれ珍宝銀銀丸。あたしから肉を奪うとは反逆の印か! がるるるる。


「落ち着くでござるよ! 人さまの家のものを、家人の前で無許可で勝手に食べてはいけないでござるよ! それにこれ、クエストで入手しろと提示されているアイテムではござらぬか!?」

「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! あたしは肉を食う!!」

「この袋に入れると匂いがほとんどなくなるはずじゃよ」

「おぉ、これはどうも魔女殿」


 魔女さんが袋を広げて、その中に銀さんが〈犬系まっしぐら(無毒)〉を放り込む。きっちりと口を閉じた。

 そうしたら魅力的な匂いがしなくなって、あたしの肉への執着が一気にしぼんだ。


 あれぇ?

 あたし今まで何してたんだっけ?

 あたしの前で、銀さんと魔女さんがくたびれてるんだけど。

 銀さんからお肉の入った袋を受け取りつつ、魔女さんがため息をついた。


「おんしらが〈犬系まっしぐら(無毒)〉を探しに出ていった後で、この小屋の近くに置いておこうと思っておったブツだったんじゃがの。おんし、想定より鼻が良いのな」


 ログウィンドウに流れるクエストクリアの通知。


「質問があるのですが魔女殿。肉はここにあるのに、拙者達に肉を探してこいと仰ったのは何故に?」

「理由かえ?」


 あ、それあたしも気になる。


「わたしは狼の因子を持つ人間を探しているんだが、因子を持っていれば誰でもいいというわけではない。特定の人物を探しているんじゃよ。申し訳ないが、おんしらが探し人かどうか試させてもらっている」

「もらっている?」


 もらった、じゃないんだ? ってことは、試験はまだ続くのかな?


「嗅覚は合格じゃ。次は聴覚を試させてもらおうか」


 魔女さんが首にかけているペンダントを手に取った。

 紐の先についているのは、小さな……笛、かな?


「この森のどこかでわたしは犬笛を吹く。音を聞きつけてそこに来てほしい。そこで次の試験を行いたいと思う」


 魔女さんがぱんぱんと手を打ち鳴らす。彼女の姿は一瞬で消えた。カマドの火も消えたし、お茶道具も消えた。

 後にはあたしと銀さんがぽかんと残されているだけ。


「なんかさ。プレイヤーは絶対にクエストの依頼を断らないっていう前提で組まれてるお話って凄いよね。強引さが」

「経験値やアイテムやスキルを獲得するにはクエストを受けるのが効率良いし、やるしかないことも多いでござるからな。まぁ、このクエはまだ不条理じゃない方」


 何かを思い出したのか、銀さんが天井を見て乾いた笑いを浮かべた。

 辛いクエストでもあったのかな?


 って、それ、共通クエストだったら、そのうちあたしもやる可能性あるわけで?

 うわ~。

 不条理系クエストやるの嫌だなぁ。

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i396991
― 新着の感想 ―
[一言] 『60 ここ掘るなわんわん』 RPGありがちな「はい」しか選択できないみたいなw しかしこはるさん、肉への執着が凄まじいwww
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