55 砕かれた最後の結晶
空さんと腐ちゃんが言い合いを始めた。
「空ってばぁ、いつものことながらツメが甘いのぉ。たまには最後まで自分で解決して欲しいのぉ」
「ふはははは! 俺の足りない所はいつも誰かがカバーしてくれるから、俺は言いだしっぺでいればよいのだ!!」
「偉そうにすんな!」
高笑いしていた空さんの側頭部にお姉ちゃんの銃弾がさく裂。
空さんの手がロープから離れたせいで、ガブリエルさんが勢いよく空に舞い上がった。
「うひゃぁあああ! 早い、高い、怖いぃいい!!」
あたしにはもちろん叫ぶしかできません。
そんな上昇はすぐに止まったんだけどさ。
理由は、お姉ちゃんが攻撃を止めてロープの維持に回ってくれたから。
あ。地上にいるオネーサマ陣の空気が「クソ空仕事しろ」みたいな感じになってる。
空気を感じたのか、がばりと空さんが跳ね起きた。
「いやー、すまんすまん。んでナナ、なんかアイデアない?」
「そこに、ほどよくデカイ木があるだろ。それにきっちりロープを縛りつけろ」
「おぉ、こんなんあったのか。全く見えてなかったわ」
気楽に言って、空さんはロープを引っ張る仕事に復帰。ガブリエルさんが再び下降しだした。
「オーエス! オーエス!」
掛け声をかけ合いながらみんなで共同作業。てか、オーエスって何気なく言ってるけど、なんて意味なんだろう?
まぁ、それはおいといて。
そんなこんなで、あたしや空さんでも攻撃が届く高さまでガブリエルさんを引きずり降ろせた。
また上昇されないように、キッチリ木に固定。
あとはまぁ、ガブリエルさんから魔法攻撃があってもさ、あたし達からの一方的な攻撃ターンにチェンジでさ。
魔法には強いガブリエルさんだったけど、物理にはラファエルさんより弱い感じ。
地上での戦いになったらあっという間に決着がついた。もちろんあたし達の勝利。
で。
召喚した天使さんを倒されると、サン=ジェルマンさんが新しい結晶を砕くわけなんだよね。
今度砕かれたのは赤色の結晶。
でも、これで、彼の周囲に飛んでいる結晶は無くなったから、最後の天使さんのハズ!
こいや!
ガブリエルさん戦の消耗をあたし達が回復している横で、砕かれた結晶からあふれた赤い光が人型になる。
赤いお肌に黒い髪、金の鎧をまとった偉そうな天使さんが誕生した。
「私はミカエル。神のごとき者と名付けられし者。我らが神を崇める者たちを守ることこそ使命。我らが平穏に影を落とす異教徒よ、死に絶えよ」
ついに神様みたいな天使さんなんて出てきたよ!
てか、偉い天使さんって、きちんと自己紹介をするのが礼儀なんですか?
なんて気楽なことを考えられたのも一瞬だけ。
ミカエルさんの周囲に、どこかで見たような剣が大量に現れたから。
それが、これまたどこかで体験したように周囲で舞う。
「このさー、剣が飛びまわって攻撃する技って、他の天使さんだけの技じゃなかったのかな!?」
ひぃひぃ言いながらなるべく剣を避けつつ、攻撃しようと奮闘するあたし達。
そこに、今度はめっちゃ冷たい空気が流れ込んできた。
「これってひょっとして氷魔法もくるのですかしら? それも特大威力で」
あわてた様子で姫様が全体持続回復に即時全体回復を重ねがけする。
間をおかず、氷柱が出現してあたし達のHPをゴッソリ削った。
姫様が回復入れてくれてたおかげでセーフ。
って、安心するのもつかの間。
氷魔法で微妙に濡れぎみのあたし達の上に広がる黒い雲。
あー。なんか雷がピカピカしてるね。
濡れてるとさ、雷の威力あがるよね。
またしても走る姫様の全体回復。
すぐさま落ちてくる特大の雷。
なんかビリビリするー。
そんなあたし達に降り注ぐ、姫様の全体回復の柔らかい光。
それで回復したHPをごっそり持っていってくれる、核熱の爆発。
「強いねぇ。さすがぁ、神様みたいって名前してるだけあるねぇ」
「これさ、ヒーラー2人いないとキツイ系の敵じゃね?」
「そう思うのでしたら、ナナオ、回復補助に回ってくださると助かるのですけれど!?」
半分キレ気味に姫様が叫んだ。
うん。
確かに回復いっぱいいっぱいになるよね。これだけ猛攻撃されたら。
「つーわけで、私、補助に回るから。あいつの討伐頼むわ」
「りょーかい」
空さんが軽く片手をあげる。
「よーし。今回は俺、なるべく火力の出るスキルを回すように頑張るわ」
いつもは盾を前面に構えて防御姿勢の空さんが盾を背負った。
剣を両手で持って腰を落とす。
「防御捨てるの?」
「ガードできなくなっても俺ってば防御力高いから、全体回復の恩恵だけで十分賄えるし」
なら、防御力落ちるけど、攻撃力上がる両手持ちにする方が効率的だろ? と空さんが笑った。
1つの職業の中にも、攻撃型だったり防御型だったりいろいろあるんだね~。
って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
でも考えちゃうよね。
あたしにも攻撃特化になれるスキルとかあるのかなぁ。