54 vsガブリエルさん
ガブリエルさんってば、お空の高いところから氷と雷の魔法攻撃ばっかりしてくる。
そんな所に攻撃が届くのはお姉ちゃんと腐ちゃんしかいないわけで。
だけど、腐ちゃんの攻撃はほとんど効かなくされちゃってて。
実質、まともなダメージを与えられているのはお姉ちゃんだけ。
「暇だなー」
「だねー」
手も足も届かないあたしと空さんは空を眺めた。
なんて抜けるような青空。
バトルを始める前は清浄な空気が流れていたし、ここって癒しの空間だよね。バトルさえしていなければ。
「空さんはさ、タゲ維持っていう仕事があるからまだいいじゃん。〈タウント〉は射程長いじゃん」
「いや。とっくにヘイト1位の座はナナに取られてると思うぜ。なんせ俺攻撃できてないから。ていうか、ヒールヘイト稼ぎまくってる姫がヘイト1位の可能性もあるんじゃないかね? 今の状況」
虚空を見つめる空さんの微妙な笑顔がむなしい。
たしかに、敵のタゲを維持できない盾職っていうのはやるせないものがあるかも。
「まぁでも、あちらさん、全体魔法でしか攻撃してこないから、PTの誰がタゲ持ってても一緒っていうか。そうなると、多少なりダメージを与えられている腐が俺はうらやましい」
「あんな微々たるダメージしか与えられないなんてぇ、火力役として辛すぎるぅ」
「いやでも、火力役なくせにダメージ0なあたしに比べればかなりマシ」
「こはるちゃん~……」
腐ちゃんが攻撃の手を休めて、あたしの肩をぽんと叩いた。
やめて、そんな哀れみを含みまくった目で見ないで。
「にしてもあれよな。俺とこはるちゃんが何もできないっていうのは、やっぱ問題よな」
「だよね~」
「実は、俺に1つ起死回生の策がある」
空さんが少しかがんで小声で言った。
「聞くよ」
あたしは空さんにちょっと寄る。近付き過ぎると危険な気がするから、ある程度の距離の維持は大切。
空さんがゴソゴソして、丈夫そうな長~いロープを出した。
「これは、俺が姫にいつでも縛ってもらえるように常備しているロープなんだが」
そんなもの常備してるんかい。
「これをこはるちゃんの腰にでもくくりつけて、そのこはるちゃんを俺がガブリエルに投げつけて、こはるちゃんがガブリエルにひっつく、俺はロープを引く。ガブリエルが地上に墜落っていう案はどうだろうか」
空さんの趣味に使われているロープっていうのがたまらなく嫌だけれど、作戦は悪くない気がする。
「でも、ガブリエルさんが飛んでる所高いよ? 届く?」
「信じればきっとできる」
「わかんないんだね」
それでも、このまま何もしないでぼーっとしているよりはマシ、かな?
あたしは腕を上げた。
「空さんを信じるよ。ロープ、結んでくれる?」
「いいよいいよ。それで、こはるちゃんはどんな結び方がいい? SMプレイの縛り方ならほぼマスターしてるつもりだけど」
「こはるに貴様の趣味を感染させようとするな」
静かな一声と共に、空さんの後頭部をお姉ちゃんの銃弾が襲った。
無防備に衝撃を受けた空さんは顔から地面に倒れる。
「うるさい奴がいるから、腰に軽く巻くだけにするね」
起き上った空さんが鼻血を垂らしながら言う。
言葉の通り、ロープを普通に腰に二重に回してくくるだけにしてくれた。
「縛り方、知りたかったらいつでも教えるから」
こそっと言わんでいいから。
ほら、地獄耳のお姉ちゃんが聞きつけて、また後頭部にお仕置きもらってるし。
ロープをくくりつけてもらったあたしは体育座りの要領で丸くなった。この体勢が、投げられる時にかかるいろんな抵抗が少なそうだし、姿勢も安定しそうなんだよね。
そんなあたしを空さんがひょいと抱える。
「それじゃいくよ、こはるちゃん」
「いっちゃってー」
これが成功すれば、あたしと空さんだってお荷物状態から脱却できるんだから!
「うぉおおおりゃぁあああああ!!」
気合いの入った声をあげながら空さんがあたしを投げた。
あたしは一直線にガブリエルさんに向かって飛んでいく。
しかーし。
いいラインまでいったけど減速してきた。これ、微妙に届かないかもしれない。
と思っていたら、下方から衝撃が。
って、お姉ちゃんがあたしに攻撃をして、その衝撃で上方向の力を補ってくれてるのか!
複雑な気持ちだけど、これならイケるかもしれない! んあー。やっぱりあとちょっと足りないかな。
って思っていたら、腐ちゃんの魔法もあたしの下でさく裂。
爆風で体が浮く! ひゃっほー!!
みんなの協力もあって、あたしは無事ガブリエルさんの左足にしがみつけた。
「キャッチー。空さんいいよー」
「おうよ!」
今度は腰に、下に引っ張る力が加わる。
ガブリエルさんの羽ばたき力強いな。空さんの引っ張りにめっちゃ抗ってくれてる。
そんなこんなで上に下に一進一退していたんだけど、急に下方向に引く力が強くなった。
ガブリエルさんに掴まってるあたしの腕の方がほどけそうだったから、あわてて強くしがみつく。
頭だけ動かして下を覗いてみたら、ロープを引く人員に腐ちゃんが加わっていた。
威力を削がれまくってる魔法で攻撃するより、ガブリエルさんを引きずり落として物理的に攻撃した方が効率的って判断したのかも。
おぉ、ついにあたし達の方が優勢になった。
地面が近付いてくる。
その途中であたしは気付いた。
「ねぇ。今ってさ、ガブリエルさんが飛ぼうとするのを引きずり下ろすのに3人がかりなわけじゃん。地面に縛り付けるのにも同じ人数必要なんじゃない? 誰が攻撃に回るの?」
順調に下方向に動いていたあたしだけど、その移動がぱたりと止まる。
これ、ガブリエルさんを落とした後の維持までは誰も考えてなかったっていうパターンか!