53 vsラファエルさん
姫様がキレる前に勝負を付けるべく、あたしはラファエルさんに突進した。
けれど残念!
あたしのパンチは空を切った。
いつもはほぼ百発百中なお姉ちゃんの弾もいくつかミスってる。
あのあの。これって。
「くそが。回避率アップが掛かってるせいで攻撃避けてきやがる」
お姉ちゃんが忌々しそうに舌打ちした。やっぱりそういうことなんですねー。
「わんこ!」
姫様からお呼びがかかった。
「はい、なんでしょうか!」
なぜか敬礼してしまうあたし。
そんなあたしに姫様が長い鞭を放り投げてきた。
「あなた、それで、あの天使と空を密着させた状態で縛りつけなさい。そうすれば、空が動かなければ、縛りつけられている天使も動けませんわ。そこに攻撃を叩きこみなさい」
「縛れって言われても、あたし鞭使えな――」
「返事は」
「イエス、マム!」
尻尾と耳をぴんとたてて、あたしは鞭を拾った。
姫様の言いつけを守らなかったら、ラファエルさんに負ける前に、姫様に視線で殺される。
本当に怖いのは敵じゃなくて味方でござった!
さて、鞭を拾ったはいいけれど、どうやって使えばいいんだろう?
インディージョー○ズさんの魂、今だけあたしに憑いてくれないかな。
とりあえずラファエルさんの方にびゅんってやってみる? 運が良ければ巻きついてくれるかもしれないし。
いくよ、そ~れ。
……。
当然のようにミスる鞭。
ですよねー。
何度かそれを繰り返していたら、空さんがあたしの鞭の先を握った。
「こはるちゃん、俺が手伝うから、こいつくくりつけるのよろしく頼むよ」
そう言って猛ダッシュした空さんは、自分ごとラファエルさんと鞭に巻き込まれていく。
ありがとう空さん。あなたの優しさは忘れない。このバトルの間は。
あたしは空さんとラファエルさんの塊の周りをさらに1周回って、2人の束縛をきつくした。
ラファエルさんは暴れて束縛から逃げようとしているみたいだけど、そうはいかないんだから。
このまま暴れられると鞭の結び目がほどけそうだから、ほどけないようにあたしがしっかり掴む。
鞭を掴みながらでも軽い蹴りくらいならできるし。
ラファエルさんの捕縛が安定したら、お姉ちゃんと腐ちゃんの攻撃が本格化した。
ラファエルさんの攻撃は相変わらず。
たくさんの剣が周辺で乱舞してて、動けないあたしと空さんは切られ放題。
姫様が回復してくれるから心配はしてないんだけどさ。
それにほら。
ラファエルさん、実はHPそんなに高くないのかな?
本気で攻撃できてるの実質2人なのに、ウリエルさんの時よりHPゴリゴリ減っていってるし。
回避と器用さ、火力にステータスが多く振られてて、HPと防御力は低めなのかなぁ。
あ。
考えてる間にラファエルさんを撃破。
サン=ジェルマンさんが今度は黄色い結晶を砕いた。
黄色い光が溢れて今度も天使さん登場。
緑の肌に黒髪、黄色い服の人キタコレ。
「私はガブリエル。神の力と英雄の名を冠する者。神からの重要な予言をあなた方に伝えましょう。異教徒は滅びる、だそうですよ」
またまた自己紹介ありがとうございます。
そんな自己紹介をしたガブリエルさんは、サン=ジェルマンさんから2つの薬品をかけられた後、ぱたぱたと空へと昇っていく。
あれ? 攻撃してこないの?
ラファエルさんを撃破したことであたし達のバフがまた有効になるだろうからって、姫様がバフ配りに忙しそうだから、攻撃してくれない方が助かりはするんだけど。
なんて思っていられたのも最初だけ。
「さぁでは参りましょう。神の予言通り、異教徒よ凍え死になさい。〈マッハブフダイン〉」
小さな声が聞こえたかと思ったら、あたし達のいる周辺がみるみる凍りだした。
っていうか、冷気が集まってきて、おっきな氷柱立ったんですけど!
寒いんですけど冷たいんですけど痛いんですけどぉ!
「ガブリエルは魔法攻撃が得意だから、魔法攻撃力強化しといたわ♡」
最後に♡マークつけないでよサン=ジェルマンさん!
攻撃魔法の威力、えげつないんですけど!
ほらまた回復大忙しで、姫様のオーラが怖いじゃん。
それにさ、ガブリエルさんってお空の上にいるから、あたしと空さんが何もできないっていうか。
さらにさらに、腐ちゃんの攻撃魔法のダメージの入りが悪いような?
「あ。ガブリエル、もともとの魔法防御も高いんだけど、さらに強化しといたから。魔法使い系の火力さんはご愁傷さま」
「魔法使い潰しとか職差別が酷いと思うのぉ」
腐ちゃんが悲鳴をあげた。
なんていうか、サン=ジェルマンさんの召喚してくれる天使さん達、嫌らしい特性持ち多すぎないですか?
ていうか。
飛んでる敵さん相手って、近接火力だと攻撃が届かなくて、あたし涙目すぎるんですけど。