50 放置プレイは許しません
「我々の創造に成功した偉大なそなたらに、まずは祝福を」
王様がパチンと指を鳴らす。
そうしたら、あたし達ひとりひとりに空からキラキラ光が降り注いで、胸のあたりでひときわ強く輝いた。
光が消えた後には軍の勲章みたいなものがついている。
――〈黄金の石の騎士〉に任命されました。
そんなアナウンスが流れる。
それで、あたし達のステータス欄に見なれない勲章マークが増えてる。
なんだろこれ?
〈黄金の石の騎士〉
知識と器用さと武勇を兼ね備えた者である印。
INT+2%、DEX+2%、STR+2%、DEF+2%
おぉ、ステータスアップ系のバフきたこれ。
しかも、増加する数値が%って、めっちゃ大盤振る舞いな予感。
「これでこの島ですべきことは終わった。帰ろう我が城へ。結婚式を挙げねばならぬからな」
王様が王妃様の肩を抱いて自分の方へ引き寄せる。
うっとりとしなだれかかる王妃様。
いやね。
美しい愛の光景でいいんですが。
君ら、いつまでも一糸まとわぬ姿なのはどうなの?
気持ち程度でかぶせてた布も見事に落ちて、あっちこっちモロ見えですよ。
船に大量の黄金と新しい王様と王妃様を乗せてあたし達は帰路につく。
お城についたら既に婚礼の準備は終わっていて、そのまま結婚式に参列って流れになった。
結婚式の様子は、まぁ、テレビでよく見るような普通の感じだったから、説明は省略。
いや~。
第3フィールド開始時に結婚式の招待状を貰ってから、実際挙式できるまで、トラブルが多すぎて大変だった。
けども、途中で貰えたバフは大収穫だった。
「ところで、新たに〈黄金の石の騎士〉に任命した者たちよ。そなたら、〈墓守キューピッドの呪い〉を受けておるな。もしや、ヴィーナス神の眠る部屋へ行ったのか?」
婚礼を終えたばかりの王様が訊ねてくる。
「あー。行きましたね」
「ヴィーナス神の御肌を見てしまったのか?」
「実に綺麗な裸でした」
思い出したのか、空さんが鼻の下を伸ばす。
王様は表情を曇らせた。
「そうか、見てしまったのか。残念だよ」
あれあれ?
会場にわらわらと鎧の兵士さん達が集まってきたような?
「ヴィーナス神の裸を見る行為は大罪だ。我はそなたらのことを気にいったのだがな。法に従い罰せねばならぬ」
兵士さん達があたし達への囲いを狭める。
え? え? え?
――兵の包囲を突破して城から逃げろ!
そんなアナウンスが流れてきた。
「者ども、罪人を捕えよ!」
王様の号令と同時に兵士さんが飛びかかってきた。
その兵士さん達をあたし達は反射的に倒して、開いた突破口を駆ける。
城の外に向かって全員でダッシュした。
城門を抜けた先にあるワープポイントがひときわ強く光っている。
ひょっとしなくてもこれに飛び込めってことですよね!?
ワープポイントに飛び込んだあたしは、進行状況セーブをしてIDから離脱。
ギルドハウスに戻ったらみんな脱力して、誰からともなく息を吐いた。
「疲れた。ひたすらに疲れたぞ第3フィールド」
「でも、貰えたバフは強いよね~」
「それを考えれば、正当な難易度と言えるのかもしれませんわね」
「ていうかぁ。クエストクリアの判定出てないからぁ、まだ続きがあるんだよねぇ、このクエストぉ。次もっと長かったりしてぇ」
「ありそう」
はぁあんと、脱力するしかない。
「アナタ達、第3フィールドまでクリアしたのねぇ」
そんなあたし達のもとにサン=ジェルマンさんがやってきた。
あたし達の顔を見回してうふふと笑っている。
「何の用だよサン=ジェルマン?」
「アナタ達に用はないわよ。ただ、次の第4フィールドのボスはアタシだから、そろそろ戻らないとと思って」
「は?」
サン=ジェルマンさんの告白にあたし達はぽかん。
インスタントダンジョンのボスって、ほいほいノーマルフィールドに出歩いてるものだっけ?
「待っていてあげるけど、いつまでも待つのは嫌だから、さっさと攻略にきなさいよ。第4フィールドでこのクエおしまいなんだから」
言い残してサン=ジェルマンさんはワープポイントに消える。
メイドさんは連れて行かなかったみたいだから、彼女に頼んで一服用のお茶を用意してもらった。
「思ったのですけれど、サン=ジェルマンいない方が静かでよろしくなくって?」
「メイド嬢は残ってくれてるから、俺達のお茶は優雅なままだしな~」
「憩いのギルドタイムを求めるならぁ、それ正解ぃ」
「ちょっとアンタ達、今、アタシを放置するとか言ってなかった? なめたことしないように、クエストクリアまでの期限追加しとくわ!」
ワープポイントからひょっこり戻ってきたサン=ジェルマンさんが早口で言って、またワープポイントに消えた。
クエストを確認してみたら、クエスト失敗までの時間カウントって項目が増えてる。
寂しがりやさんめっ。