5 飼って狩られて刈りとられて
「何を遊んでいるのです、グレースカムバックGTR。その者達はこの地に混沌をもたらす者。あなたや仲間に不幸を運んでくるのです。護りたくば戦いなさい。力は授けまし――」
梁の上の天使さんの1体が言う。言ってたんだけど、言い終わる前に銃弾が体を貫いた。
悪の戦闘員を倒した時と同じように体が虹の泡になって消える。途中で真っ白な羽根が舞っていたのだけが違いかな。なんか綺麗〜。
「失礼な馬鹿鳥1羽処理っと」
「馬鹿鳥とは我らのことですか!? というか、話している途中で撃つってなんです!? 普通、セリフがひと段落するまでは待つものではないのですか!? あなたこそ失礼でしょう!」
お姉ちゃんと天使さん達の舌戦が始まる。
あたしはそれに加わらずに、お亡くなりした天使さんが遺した羽根を拾いに行った。ぴょーいぴょーいと、座っている戦闘員さん達の頭の上をジャンプしていけば楽々っと。
「失礼だぁ? 人様のものに手を出してるやつの方が失礼だろうがよ。いいか? 空は私の僕なの。そいつに命令していいのは私だけだ」
「何をふざけたことを。人は皆我らの僕。あなた方の主従関係より優先すべき関係です」
いや〜。頭の上では過激な話が繰り広げられてますねぇ。
ゲームを始める前に、お姉ちゃんに、なんでネカマ(ネットおかま)してるのって聞いたんだけどね。その時に、
「馬鹿な男を落として財布に使うんだよ。それだけで快適ゲーム生活になるからな。プロネカマって楽しいぞ」
という鬼畜な言葉を吐いてた。
ってことはアレだよねー。空さんって、お姉ちゃんに落とされた哀れな人(色んな意味で)だよね。
なんていうかドンマイ。
舌戦が激化していく間にあたしは羽根の落ちている場所に到着。ほのかに光っている羽根はつやつやしてて、凄く綺麗。くわえてお姉ちゃんの元に戻った。
「アオーン」
戦利品を見せたくて、お姉ちゃんの足に頭を擦り付ける。
「ぉ。あの馬鹿鳥のドロップ品だな。よしよしいい子だ」
お姉ちゃんはあたしの頭を撫でてくれて、それから羽根を取った。少し手を掲げて羽根を光に透かしたりしてた顔が、最後には黒い笑みに変わる。
「レア素材だな。いい獲物じゃないか」
そうして銃を天使さん達に向けた。
「こはる、あの天使ども1匹も逃すな! 全部倒してドロップ素材いただくぞ!」
「アオーン!」
「ちょっとあなた方本気ですか!? 人は神の御使を敬うも――うぎゃっ」
お姉ちゃんの銃が天使さん達を襲う。梁の上の天使さん達は一斉に飛び立った。部屋の中が一気に騒がしくなって、猫がうっかり入っちゃった鳥かごの中って感じに。
「何をぼーっとしているのですグレースカムバックGTR! 我らを守りなさい! 早くあの混沌をもたらす者を退治するのです!!」
「ィー!」
空さんが敬礼する。
「空、お座りっっっ!!」
そこに響くお姉ちゃんの大声。空さんが正座した。
「な、何を座っているのです!? グレースカムバックGTR! 早くあの者達を」
「あっはっはー。残念だったな。そいつの躾は完璧だからな」
「躾って、あなたは犬ですかっ!?」
大恐慌な天使さん達に楽しそうなお姉ちゃん。
舞台の上の空さんは震えていた。
「ィー」(呪いで俺は動けないけれど。同志達よ、俺の代わりに御使様達を守るだっぺ!)
空さんが叫ぶと同時に背中のしょぼい羽が広がる。そこから眩しい光があふれてきた。
光に照らされた戦闘員さん達が立ち上がってこちらを向く。えと。凄い人数だけど、これみんな相手しないといけないのかな?
しかも防御力アップの強化まで掛かってるしぃいい。
「アオーン!」(お姉ちゃん、一気に駆逐とか出来ないの!?)
「あっはっは。機工師は単体物理火力職だ。範囲火力スキルなどない!」
「アオーン」(うへぇ)
「けどまぁ、幸い私達には錬金という逃げ道がある」
走り回りながら何やら操作していたお姉ちゃんの手に握られているのは大きめの爆弾。
「この広さの部屋ならこれが適当かね。こはる、爆発に巻き込まれるなよ!」
そう言ってお姉ちゃんは爆弾を投げた。
次の瞬間には、爆発で吹き飛ばされる戦闘員さんを見て笑いつつ天使さんを撃ち落とす作業を再開している。
戦い慣れてるな〜。
「こはる。お前見た目は変わってるけど、装備はそのままだろ? 〈簡易爆弾製造手袋〉装備したままになってるなら、近くの森で拾った石ころやら投げろ。あれ、一応範囲攻撃爆弾にできるから。狭いけど」
あ、そうなんだ?
でもさ、本物の狼の手っぽくなってるあたしの手じゃアイテム収納画面を上手く操作できないから、取り出せないよ?
う〜。出ろ〜、出てこい〜。出る出る〜!
念じたら、口に咥えられた状態で石ころが出てきた。そのまま戦闘員さんに向けて石ころ飛ばし。固まってた戦闘員さんが3人くらい消えてった。
ちょっと離れてた1人が残ってたから、その人にはタックル、からの、ガジガジかじってあげたよ。
(敵さんからしてみたら)阿鼻叫喚地獄がしばらく続く。
攻略法を見つけたあたし達からしてみれば、ちょっとしたボーナスフィールド。立場違えばなんとやらだねっ。
「ああ。こんなふざけた者達に討たれるだなんて」
最後の天使さんが泡になって消えていった。落ちてきた羽根はあたしが即回収。残っていた戦闘員さんも程なく全滅させた。
残っているのは、舞台の上で正座させられている空さんだけ。っていっても、どさくさに紛れてお姉ちゃんが重ね掛けした毒でHPのほとんどを削られてて、虫の息なんだけどさ。
「ィー」(たとえ俺が倒れようとも、悪はいつか潰えるのが世の摂理。だっぺ)
「いやお前、そろそろそのキャラから解放されてこいよ」
空さんの残りHPをお姉ちゃんが無情に削り取る。
例外なく彼も光の泡になって消えていった。撃たれた時の顔が幸せそうに見えたのは気のせい……だよね?
チャラーンってBGMが鳴り響いてくす玉が割れる。頭上から紙吹雪が舞い落ちてきた。目の前に表示される【稀有なる狼人】クリアの文字。
ぽんって音がして、あたしの視線の高さが上がった。
「ぉ、変身が解けたな。クエのクリア表示も出たし、これで終わりだな」
笑ったお姉ちゃんの姿が消えた。同じくらいのタイミングであたしの視界が暗転する。
次の瞬間には始まりの街の広場に立っていた。
◉ ◉ ◉ ◉
ゲームレポート
こはる:Lv1→100
クリアクエスト:【稀有なる狼人】
クリア報酬:
種族・獣人(狼)を解放。
獣人(狼)の特殊スキルを解放。
ナナオ:
クリアクエスト:【裏切りの親友】
クリア報酬:
カムバックGTRと同じPTにいる場合、全ステータスアップ効果(大)を得る。
同じPTにいる限り効果は永続する。
他のステータス強化系効果と重複する。