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49 ホムンクルス

 鳥さんの首を落とした空さんが、ひょいっと鳥さんの体と頭を回収する。

 それを、お姉ちゃんが用意していた火にくべた。

 火の鳥みたいなシルエットの光が火の上に浮かんで、鳥さんの遺体は一瞬で灰になる。

 そうしたらお姉ちゃんは火を消して、その場に残っていた灰を、綺麗なお姉さんから渡された小箱に収めていた。


「こはるちゃん~。クエストの出来事はあくまでゲームだからぁ。NPCは物と同じ扱いしないとキツイ時あるよぉ」


 あたしの服の裾を引いて腐ちゃんが囁いた。

 慰めてくれてる、っていうか、これからのためのアドバイスだろうね。

 レベルがカンストしているくらいゲームをやりこんでる先輩達が全く動じていないのは、今までもこんなクエストがあって慣れてるからなのかなぁ。

 割り切りを覚えただけかもしれないけど。


「この階での作業はこれで終了です。お疲れ様でした」


 灰の詰まった小箱を受け取りながら綺麗なお姉さんが微笑む。

 それからあらぬ方を向いて、視線が彼方に固定された。


 綺麗なお姉さんが次の仕事をすぐに指示してこないのって珍しいね。

 なんか固まってる感じだし。

 データの読み込み中か何か?

 その間に、勝手に動きすぎたら怒られそうだよね。


 みんなで集まって指をだして、「いっせーの」と数当てゲームで時間をつぶす。


「他の6つの塔でも作業は終了しているようです。この塔が最後だったようですね」


 再起動した綺麗なお姉さんがぽそりと言った。

 あたし達の「いっせーの」ゲームは終了。一番負けた姫様が、1週間、ギルドハウス内ではメイド服で過ごすんだって。


「くそー。俺もメイド服着てみたかった」


 なぜ空さんが残念がっているのか。

 しかも、メイド服の空さんって、ぜったいキモいし。空さん4位でいてくれてよかった。

 そんな騒ぎをしている間にも綺麗なお姉さんの話は続く。


「あなた方にはこのままこの塔を登ってもらいます。時間がかかっても問題ない仕事が、作業が遅いあなた方にはお似合いでしょう」


 毎度のとおり、ワープポイントが出現して綺麗なお姉さんは上の階へ動き出す。

 あたし達はセーブしていったん解散して再集合からの再開。


「にしてもさ~、あたし達の作業が遅いってどういう基準なんだろうね?」

「クエスト進行上の設定ってやつだろ。ぶっつづけでクエクリアしていっても、トロイ奴判定されてたと思うぞ」


 と、お姉ちゃん。

 なるほど。めっちゃ納得。

 それはそれとして。


「ねぇねお姉さん。他の塔の人達はどうしてるの?」


 階段を登りながら、あたしはなんとなく綺麗なお姉さんに訊いてみた。


「他の塔の方々には黄金作りに従事していただきます。黄金は国力の源。あればあるほど良いものですから」


 あ、そうですか。

 お金が大事って、どの時代のどこの国でも同じなんだね。

 でも、自分たちで金を作っちゃおうっていう発想は無かった。


「それであたし達は何をするの?」

「あなた方には王の再生をしていただきます」


 7階についた。

 綺麗なお姉さんが杖で床を叩くと、目の前にあった重々しい扉が開く。

 扉の先にあったのはまた工房だった。


「この階で復活の儀式は終了します。時間はかかってもかまいません。確実に作業をこなしてください」


 綺麗なお姉さんが、空さんに灰の入った小箱を渡した。


「まずは灰を水に溶かして粥状にします。それを鋳型(いがた)に流し込んでください」


 はーい。

 お姉ちゃんが空さんから灰箱を受け取って、水の入った釜の中に投入。混ぜる係。

 あたし達は火の管理をしつつ、鋳型を出してきたりっていう雑用。

 水がどろどろになったら、それを2つの鋳型に移したよ。


「鋳型を冷やしてください」


 腐ちゃんが冷気魔法で鋳型を氷漬けにする。

 冷却終了。

 熱いものを急激に冷やしたせいか、鋳型が「ぴきっ」と嫌な音をたてた気がするけど、氷漬けのおかげか壊れはしない。


 腐ちゃんが氷を消したら鋳型がガラガラ壊れて、中から透明な子供が2人出てきたよ。

 なにこれどういう原理?


「なるほど。ホムンクルスの製造か」


 お姉ちゃんが訳知り顔でうなずく。

 いや、ぜんぜんわかんないんですけど。

 その、ホムなんとかって何?


 それにさ、ぺろっと出てきた透明な男の子と女の子、ガンガン成長していってるような気がするんですけど。

 っていうか成長してるよね!?

 あたし達が見ている前で、2人の少年少女は、麗しい青年と女性にまでなった。

 2人とも真っ裸なせいか空さんの鼻の下が伸びてきたから、姫様が女の人の上に布をかぶせる。

 青年の方は、お姉ちゃんが申し訳程度に布をかぶせていた。


「人形はほどよく成長したようですね。では、それを机の上に」


 綺麗なお姉さんが部屋の中心を指す。

 そこには、魔法陣の描かれた大きな机がしつらえられていた。


「運ぶなら小さい状態の時に運びたかったんだけど」

「方陣の中じゃ成長しないのかもなぁ」


 不満をこぼしつつ青年と女性の人形を移動させる。

 運び終わったら、不思議な歌を綺麗なお姉さんが歌いだした。


 天井に穴が開いた。

 そこから一条の光が差し込んで、魔法陣の中の2体を照らす。

 光、お人形さんに吸い込まれてるように見えるんだけど。お人形さん達、だんだんと色づいてきてるし。


「ね、お姉ちゃん。さっき言ってたホムなんとかって何?」

「ホムンクルスか? 一言でいえば人造生命だな」


 不思議で綺麗な光景をあたし達は見ているだけ。

 そうしたら、お人形さん達の目がぱちっと開いて、ゆっくりと起き上ってきた。


「我々は王族たちから作られたホムンクルス。そして、次代を担う新しい王と王妃」


 身目麗しい元お人形の2人が厳かに言う。

 っていうか、自分で自分の出生わかってるんだ?

 それに、国の王様と王妃様が作りものの人形でもいいんだ?

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