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48 鳥さんさようなら

 蹴りの姿勢のあたしの前で、巨大蛇さんが大口をあんぐり開けた。

 蛇って、関節外してでも獲物を丸のみするんだよね。

 体の中にさえ入れちゃえば、窒息や骨折させたりで殺せるから。


 つまり、飲み込まれた日には。

 あたし死亡。ヒロイン死亡につき物語終了……にはならないか。すぐに姫様が蘇生させてくれるだろうし。

 あ、でも、蛇のお腹の中で蘇生されたらまたすぐに死んで、生き返らせられて、死んで、そのうち放置されるようになって泡になって死に戻り……。


「うひゃぁあああ! それは嫌ぁあああ!」


 巨大蛇さんの口の中に自分から飛び込んでいきながらあたしは叫んだ。


 でも、叫んだからって事態は好転しないのです。

 あたしをぱっくんちょした途端、蛇さんのお口が閉じそうになる。


「閉じさせてたまるかぁああっ!」


 あたしは必至で蛇さんの口の中で立って、足をふんばって、蛇さんの口が閉じないように自分をつっかえ棒にする。

 漫画でよく出てくる、食べられそうになったけどギリギリで粘ってるあの状態!


「おぉ~。こはるちゃん頑張るねぇ」


 腐ちゃんが目を丸くした。


「これってチャンスなんじゃね?」


 お姉ちゃんは悪い笑いをする。


「空、蛇が暴れないように抑えとけ。顔の向きも固定してくれているとなお良い」

「あいよ。戦闘終わったあとにチッス3回で手を打つぜ」


 絶対に叶えてもらえなさそうな希望を言いながら、空さんが巨大蛇さんの真正面にきた。

 そこで、蛇さんの鼻っつらに盾を押しあてている。

 力比べしてるのかな。

 あ、そっか。

 その状態ならお互いに前方向にしか力が加わらないから、空さんが折れなければ蛇さん動かないんだね。


 そんな空さんの陰からお姉ちゃんと腐ちゃんが顔を出す。

 2人してにこりと笑ったかと思ったら、あたしの脇を銃弾と魔法が通り抜けていった。


 蛇さんのお口の中に銃撃と攻撃魔法が着弾。

 蛇さんが暴れようとしたのか、口を閉じようとする力が強くなった。

 横とか上方向の力も微妙に感じたけど、それもほんの一瞬。空さんが頑張ってるみたい。


「おー。やっぱ口腔内が一番のウィークポイントか。ダメージがよく通るな」

「鱗の防御力が高すぎるのではなくて? はぎ取って素材として防具を作れば、良い性能のものができそうな可能性ありますわね」

「! その方向は気付かなかった。そうか。はぎ取りか」


 お姉ちゃんの目が口腔からそれた。

 あれぜったい鱗を手に入れる方法考えてるよ。惰性で攻撃は続けてるみたいだけど。


「駄目だな。今の状況だと手が空いてる奴がいない。ドロップで落ちてくれることに期待だ」


 お姉ちゃんの視線がまた口腔内に戻る。

 今度はひたすらに真面目顔だ。というか、「ドロップ出ろドロップ出ろドロップ出ろ」そんな呪いを視線に込めて蛇さんにかけている気がする。


 あたしの横をすり抜けていった銃弾と魔法が、背後でさく裂しまくっている気配はある。

 けど、あたしに見る余裕なんてない。

 あたしから比較的楽に見える空さんだって、顔はかなり真剣。

 蛇さん大きいもんね。初撃、もろに受けると危険だと判断して避けた程度に、蛇さんの攻撃重そうだもんね。

 回復で空さんを支えてる姫様も大変なのかも。


「マジで頼むぞドロップの神様!」


 叫んだお姉ちゃんの攻撃がトドメになったのか、蛇さんが突然消えた。

 力の行き場を失ったあたしは、その場で大きく背伸び状態。

 全力で前傾姿勢だった空さんは、あたしの方にタックルしてきた。

 体が伸びきっていたあたしに、空さんを回避も受けとめもできるはずがなく。


 空さんに押し倒される悲劇。そして色々な危機。

 目の前の変態の顔が明らかにエロ親父の顔になっている。鼻の下伸びすぎ。


「うへぇ。ごめんねこはるちゃん。でもこれ事故だから。このまま愛をはぐくんでも事故だから」

「そんな事故ないよー!」


 あたしは全力で空さんの急所を蹴りあげてやった。

 空さんが目を白黒させて悶絶している間に危機から脱出。


「ドロップ。あったけど、血かよ」


 目の前では、血の入った瓶を眺めながらお姉ちゃんがさめざめと泣いていた。

 前でも後ろでも(リアル)男どもがメソメソしててうっとおしい。


 あたしが血の入った瓶を回収する。

 それで、綺麗なお姉さんが連れてくれていた鳥さんの所に行った。

 これから何をするべきか判っているのか、鳥さんが口を開けてくれる。

 そこにあたしは瓶の口をあてがった。


 しばらくしたら、瓶の中身は綺麗に鳥さんの胃袋に移動。


「飲ませましたね。では、この鳥の首を落としてください。その後焼いて、灰をこの箱に」


 綺麗なお姉さんが酷いことを言った。

 いやさ。

 このクエがグロくてエグくて血も涙もない感じなのは感じてたけど。

 微妙になついてしまった鳥さんを手にかけるのは、心理的にダメージが入ると申しますか。


 手が動かなくて、見つめ合うしかできないあたしと鳥さん。

 そんなあたし達の間で銀線が走った。


 数秒後にはポトリと落ちる鳥さんの首。

 すぐそこには剣を抜いた空さんが立っていた。


「ったくさ。こはるちゃんは優しいんだから、そんなことしろなんて言っちゃ駄目よ」

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