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44 ホラーは続くよ怪奇現象へと

「あのー。釜の中、水以外に異物が入っているみたいなんですけど」


 綺麗なお姉さんにあたしは訴えてみた。

 いやだって生首だよ? それも人間のもので、複数。


「異物? ああ、首のことですね。異物ではありませんよ」


 何事もなさそうに綺麗なお姉さんが言った。

 2階工房の入口くらいにいた彼女が大釜の隣に来る。


「失われた命を再び創り出そうというのです。それなりの代償と、生命の元が必要になるのは当然の理です」


 えぇえ、代償なんだ。


「ですがご安心ください。この首は、先日我が国に攻め込んできた敵国の兵のもの。あなた方が倒してくださったでしょう? それを利用させていただいているのです。彼らが攻めてきたせいで王を復活させねばならなくなったのですから、当然の報いでしょう」


 ああ、そうなんだ。

 すでに死んでた人から頂いたんだね。うん。

 ……おえ。


「細かいことは気にするなこはる。あんな見た目してるだけで、あれはただのオブジェクトだ。演出用の小物の1つだな。なんならリンゴとでも思っておけ」


 お姉ちゃんがあたしの目の前を手のひらで覆って視界をふさぐ。

 耳元で優しくそんなことを言ってくれたから、ちょっとだけ落ち着いた感じ。


「釜の中身を混ぜたりといった作業は私がやろう。空は火の管理。他は、用ができるまで休んでればいいんじゃね?」


 仕事の分担をテキパキと決めたお姉ちゃんは、あたしを優しく姫様と腐ちゃんの方に押しやった。

 自分は大釜にかけられている梯子を上って釜上部の作業場に行く。

 そこに置かれていた棒を手にとって、釜の中身を混ぜ始めた。


 空さんは薪運び。あたしと姫様と腐ちゃんも薪を運んで、腐ちゃんの魔法で着火。


 お姉ちゃんは、1階の工房で作ったエキスを大釜に加えながら、中身を混ぜ混ぜ。

 他のメンバで火の管理がしばらく続く。


「次の手順は……、敵兵の頭が溶け切ったら王族の遺体を投入っと。そろそろ頃合いかね。おーい空、そこの、部屋の隅に王族の首やら体やら保管してる箱あるだろ。それ持ってきてくれ。というか、中身この中にぶち込んでくれ」


 混ぜる作業を止めたお姉ちゃんから指示が飛んできた。


 リアルで発言したら、確実にお巡りさんのお世話になりそうなセリフだよね。

 その作業を空さんにだけ手伝えって言ったのは、お姉ちゃんの優しさでしょうか。


「遺体の投入でしたらこちらから手を貸しましょう。今でも彼らは我々の王ですから、最後はせめて我々の手で」


 黙って工房の片隅の椅子に座っていた綺麗なお姉さんが杖で床を突く。

 黒子さんがにょきっと出てきて、王族さん達の遺体が入っている箱を運びだした。


 大釜の横に手際よく足場を作って、そこに遺体を運んで釜の中に投入。お姉ちゃんも遺体に一切触れずにすんでいた。

 ここら辺はクエストデザイナの配慮かもしれない。

 遺体を触れって言われたら、無理っていう人続出だろうし。


 仕事を終えた黒子さん達は黙って消えた。

 お姉ちゃんは混ぜる作業に戻る。


「お、色が変わった。おーい、案内役の姉さん。王族が溶けたら液が赤くなったけど、これで合ってるわけ?」

「はい。伝承でもそのように伝えられております。では、その液をこちらの器に移しましょう」


 綺麗なお姉さんが再び杖で床を突く。

 黒子さんが再登場して、工房の隅に置かれていた金色の巨大な球体の器を大釜の横に持ってきた。


 引き続き動く綺麗なお姉さんの杖。

 大釜が浮き上がって、斜めになって、ドロドロの赤い液体が球体の器に注ぎこまれる。


「なんつーか。凄いねあのお姉さん。王族蘇らせないで、あのお姉さんが王様なればいいんじゃないかな」


 空さんのつぶやきにあたしもうなずいちゃう。

 面倒くさい作業なんかはクリエイターの都合で不思議パワーで解決できるって、ゲームの良いところだよね。


 液体を移し終えた球体に、上から降ってきた紐が巻きついて支えになる。

 それでもって、今まであったはずの天井がなくなって、球体は上の階に引き上げられていった。

 何これ凄いんだけど。ご都合が。


「ここでの作業は終了です。では上の階に参りましょうか」


 笑顔で綺麗なお姉さんが動き出す。

 いつものようにワープポイントが出たから、あたし達は中間セーブ&離脱。そんで再開。




 3階の天井に金色の球体はぶら下げられていたよ。


「てか、暑い、まぶしい。地獄か」


 お姉ちゃんがうへぇとなる。

 あたし達もげんなりとなった。


 だってね、この部屋、ともかく日当たりが良すぎるの。

 部屋の周囲は窓ばっかりで、そのうえ鏡が絶妙に配置されてて、太陽光を真ん中の球体に集めてる。


 その熱で、球体の温度はどんどん上がってるんだろうね。

 球体の色さ、2階の時はくすんだ金だったと思うんだけど、どんどん白くなってきてる。


 そしてついに真っ白になったら、綺麗なお姉さんが杖をついた。


「頃合いですね」


 一斉に雨戸が降りて、周囲の窓から光が一切入ってこなくなる。

 白くなった球体は、熱せられている間に復活した床の上に設えられた巨大水槽の中にどぼん。

 水蒸気がじゅうじゅうあがる。


「冷めたら、球体の中身を取り出してください」


 綺麗なお姉さんから次の指示が飛ぶ。

 ええ? 中身ってあの赤いドロドロ液体じゃないの?


 球体から湯気が出なくなってから、あたし達は球体の上に登った。

 蓋をぱかっと開けて中をのぞきこむ。

 あれれ?

 赤い液が大量に入ってたはずだけど無くなってるよ?


「底に何かあるな。腐、採ってこれるか?」

「らーじゃぁー」


 体にロープをくくりつけた腐ちゃんが、空さんによって球体の中に降ろされていく。


「きゃっちぃ」


 引き上げられた彼女が持っていたのは、ダチョウの卵くらいの大きさの1つの真っ白な卵だった。

 これ、どういう原理ですか。

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