42 塔に着きました
どんぶらこー、どんぶらこ。
平和な船旅が続く。
「来ないねー、敵」
「そういうことを言っていると来るものですわよ。ほら、話をしていたら、船の上空に不自然に黒くて厚い雲が湧いてきましたわ」
姫様の指摘通り、あたし達の船団の上に雲が厚くかかってきている。
強い風も吹いてきた。
雷は落ちてこないみたいだから、そこは良かったかな。
いくらゲームでも怖いもんね、雷。
「ようやく来たな、ボーナスタイム! 今度も私を喜ばせてくれ!!」
お姉ちゃんは揚々と武器を用意。
「たまにはぁ、禁断の薄い本とかドロップしてこないかなぁ」
そんなものが落ちたら、ゲームプレイできる年齢に制限が掛かりそうなんですが。
「この《墓守キューピッドの呪い》、どの程度効果があるのかねぇ」
空さんは剣と楯を構えた。
あたしはストレッチでもして体をほぐしておこうかな。
近接攻撃しかできない身ですゆえ、船の上まで敵さんが来てくれてからじゃないと、何もできないあたしだし。
風に乗って遠くから何かが近付いてくる。
図鑑に載ってる――プテラノドン、だっけ? 翼竜の見た目してるから、敵かな。まだ遠すぎて、システムの詳細表示がされてこないんだよね。
あ、詳細表示された。
やっぱ敵区分だね。マーカーが赤いし。
ってあたしが認識したその瞬間、何度か銃撃音がしてプテラノドンもどきが消滅した。
変わりにドロップアイテムらしき物が飛んできて、お姉ちゃんのインベントリに消える。
「〈古代翼竜の翼〉か。やっぱ新しいの出たな。これまでの翼竜型モンスターみたいに、くちばしとか爪もドロップするのかね」
お姉ちゃん。
見た目といい発言といい、まるっきりどこかのハンターだよね。
そのうち「龍玉が出ねぇ、物欲センサーか!?」とか騒ぎだしそうなんだけど。
「お、海からも来るみたいだな」
空さんの発言にあたしは海面に目を移した。
大きめなピラニアみたいな魚が、たまに海面を跳ねながら向かってきてる。大きいくせに群れで移動するって、進路上の餌食べつくしそう。
「あのお魚たち、他の船をまるっきり無視してこちらへ向かってきてますわね」
姫様の指摘どおり、お魚達は一心不乱にあたし達の船の方に向かってきている。
「あたし達も無視されたり?」
「さすがにそれはないっしょ。ヘイト1位がここにいるからね。他に目が向いてないだけだと思うよ」
あたし達の船の近くまできたピラニアもどきが大きく跳ねた。
そのまま空さんに向かってダイブ。
そのお魚の横っ腹をあたしは蹴り飛ばした。
甲板の上でビチビチと暴れているお魚にトドメをさして、1匹目終了。
ドロップアイテムは〈古代魚の骨〉だって。切り身もドロップしてこないかな。
空と海の先兵を片付けたあとは、後続がわらわら向かってくる。
どの敵も空さんに群れてくるから、あたし達の船の周りは敵さんだらけ。
上空の敵さんは主にお姉ちゃん担当。
海から跳ねてくる敵はあたしと空さん担当。
腐ちゃんは、様子を見ながら塊になってる敵に範囲魔法を打ちこんでる。
姫様の回復のおかげであたし達は盤石です。
なんていうかさ。
あたし達の船以外に敵さん1匹も行ってないから、かなり笑えるんだけど。
空さんが貰った《墓守キューピッドの呪い》、かなり強力な呪いなんじゃないの?
おかげさまであたし達はモンスター狩り放題で、あたしは経験値を、お姉ちゃんや姫様はドロップアイテムを美味しくいただけました。
そんなボーナスタイム……もとい、死闘を繰り広げた航海の先に、四角っぽい形の島があったんだ。
そんなに大きくない島なのに、塔がにょきにょき生えてる。
えーと。
真ん中に大きい塔が1つと、その周囲に、真ん中の塔よりは小ぶりなのが6個かな。
大きさは違えどどの塔も7階建て。
この島、7の数字が好きなのかな?
って、結婚式に参列する資格審査で求められた心の数も7個だったような?
このゲームのデザイナーかクエストのデザイナーさんが、7の数字を愛しすぎてるような気がするよ。
そんな塔1つにつき、船が1隻ずつ割り振られていく。
あたし達は真ん中にある大きな塔を割り当てられたよ。
これが主人公補正というやつなんでしょうか。
「あなた方は鍵をお持ちですから。鍵を持つ人間だけが、この塔へ入る資格を得られます」
綺麗なお姉さんがあたしの方に腕をかざす。
彼女の手の平の上に、あたしが持っていたはずの〈第3の鍵〉が浮かび上がった。
綺麗なお姉さんが鍵を塔入口のドアの方にかざすと、ドアの鍵が開いたようなガチャリとした音が鳴る。
それで、綺麗なお姉さんの手元から〈第3の鍵〉は消えた。
あたしのインベントリを確認してみたら、鍵はきちんと戻ってきてたよ。良かった。
綺麗なお姉さんに連れられてあたし達は塔に入った。
1階は工房、なのかな?
ギルドハウスで見た錬金窯が置かれている。
「さて。あなた方に復活の儀式を執り行っていただくわけですが。そのために必要なアイテムが足りません。まずはそれを用意していただきます」
綺麗なお姉さんが杖で床をとんと叩いた。
あたし達ひとりひとりの前に小窓がポップアップして、そこにいくつかのアイテムが表示されている。
「そこに表示されているアイテムをそろえてください。材料は全てこの島にあります」
仕事を丸投げして綺麗なお姉さんは退場。
「これさー。アイテム揃えろって言われても、調合が必要なのって錬金スキル持ってる奴じゃないと作れないんじゃねーの?」
アイテム表を見ながら空さんが頭を掻く。
「調合が必要なものとそうじゃないものがある感じだな。調合は私とこはるでやるから、それ以外は他で頼むわ。とりあえず、必要素材を見つけることから始めるべきかね」
アイテム表を見ながら、お姉ちゃんがそこらへんにあった紙に色々書きつけていく。
覗き見した感じだと、錬金操作が必要なものとそうじゃないものを分けてる感じかな。
そこから更に、必要なアイテムなんかを細かく書きだして、ってしてる。
こういう作業している姿はインテリビューティー眼鏡なんだよね。