41 キューピッドの呪い
豪華なベッドに横たわる全裸の美人さんに空さんの魔の手が迫る。
そんな彼を、横から飛んできた何かがぶっとばした。
「わしのヴィーナス様に、なに汚い手で触ろうとしてくれてるんじゃわれ」
空さんをぶっ飛ばしたソレがぷんすかしている。
えと。
空さんをぶっ飛ばしたあなた、某マヨネーズ会社のイメージキャラの背格好で、背中には小さな羽がはえてて、お手手に弓って。
「ひょっとしてキューピッド?」
「はぁい。僕がみんなのアイドルキューピッドですよ~」
あたしの声に反応したソレは、満面の笑みとお花畑な空気を振りまきながら振り返った。
態度が180度ひっくり返ってて笑えない。
けど、指摘したら刺されそうな気配もあるから指摘できない。
ここは、最初の黒いキャラは見なかったということで……。
「みんなのアイドルのキューピッドさんは、ここで何をしているの?」
「僕はヴィーナス様の墓守ですよ~。墓って言っても、神様は消滅しないかぎり死なないですから、ちょっと昼寝中みたいなものなんですけど」
へー。そうなんだ。
ベッドに寝てる人めっちゃ美人だなって思ってたら、ヴィーナス様なんだ。
たしか、美の女神さまじゃなかったっけ?
そりゃ綺麗なはずだよね。
裸なのは、美しすぎて隠さないと困る場所すらないからかな。
生まれつきの格差が悲しい。
あ。
ぶっ飛ばされた空さんが復活して、ほふく前進でベッドに近付いていってる。
ヴィーナス様諦めてないんだね。
懲りないなこの人。
「こんな場所にひとりで墓守って、暇だし寂しくない?」
「特には。人の時間で100年200年程度なら、僕らにとっては瞬きするようなものですし。それなのに、年に数回はこういう不届き者が現れるので、その相手が逆に忙しいくらいですよ」
キューピッドくんの笑顔が修羅の顔に変わる。
一瞬で空さんとの距離を縮めたキューピッドくんは空さんの背後に回って、矢を手に持って突き刺しにかかった。
「われのような不届きもんには天罰や!」
鎧に守られていない空さんのお尻に矢が突き刺さる。
「ぎゃぴぃいいい! 後ろを掘るのは止めて!!」
お尻の穴を押さえながら空さんが飛びあがった。あの矢で浣腸でもされたのかな。なんてお約束な展開。
「われのような奴は、生涯モンスターに追いかけ回されればええんや。せいぜい早死にせんよう足掻くんやな」
キューピッドくんの声や姿がぼやける。
辺り一帯が急速に靄に閉ざされて、晴れたと思ったら、あたし達PTぜんいん船着き場らしき場所に飛ばされていた。
「さっきのイベントなんだったんだろうね?」
あたりを見回してみたけれど、周囲にキューピッドくんがいそうな雰囲気は無い。
「正解な行動をとれば恩恵を受けられるイベントだったのかもしれませんわね。わたくし達の場合は、空がおバカな行動をとったせいで、天罰を受けるはめになったようですけれど」
姫様が空さんを冷めた目で見る。
突き出したお尻を手で押さえる形で転がっている空さん。ステータスに、《墓守キューピッドの呪い》なんてものが増えてる。
なになに?
《墓守キューピッドの呪い》
常時モンスターからのヘイトが上がる。HPがゼロになるまでこの効果は継続する。
……。
「これ、盾職からしてみたらありがたい恩恵じゃない?」
「むしろ、死んでも切れない永続型になって欲しいくらいだな」
プレイヤー側に不利なステータスをつけるつもりが、喜ばれるステータスになってしまった不具合。
キューピッドくんとゲームデザインした運営さんが泣いてそう。
そうこう騒いでいたら、進行役っぽいいつもの綺麗なお姉さんがあたし達のそばに来た。
「あなた方が最後です。あちらの船にお乗りください。復活の秘儀を行う島へ参りますから」
「ここら辺の探索とかしてからじゃ駄目なわけ?」
「お乗りください。あなた方が最後です」
綺麗なお姉さんが圧をかけてくる。
船着き場まで来ちゃったら、脱線は許されないみたい。
あたし達はおとなしく指示された船に乗った。
船はすぐに船着き場を離れる。
びっくりなことにね、審査に合格した人達、7つの船に分かれて乗船してるんだって。
「1隻に全員乗っていて、何かあった時に全滅しては困りますから」
っていうのが理由らしいの。
「嵐とかぁ、モンスターの襲来とかってイベントありそうだねぇ」
「あれだな。空のやつ、さっき状態異常貰ったじゃん。それで、他の船にいくはずだったモンスターまでうちの船に集まってきたりしてな」
はっはーとお姉ちゃんが笑う。
「ナナオ。その発言フラグだと思いますわ。ぜったいこの船モンスターに囲まれますわよ」
「経験値とドロップ総取りで美味いじゃないか。モンスターの大軍歓迎だ」
「まぁ確かに」
目的地に着くまで波に揺られてるだけっていうのも暇だしね。
適度に時間潰せて得るものがあるのなら、そっちの方が嬉しいし。
よーし、いつでも来い海洋モンスター!
あたし達はすっかり狩人な気分で準備万端だよ!