40 徘徊、城
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クエスト再開!
したはずなんだけど、今回は何も起こらないの。
いつもはワープポイントから出たとたんに次のイベントが始まるんだけど、なんでだろ?
「次のイベントの開始場所が違うのかもな。ちょうどいい機会だし、城の中見て回ろうぜ」
空さんがルンルンと歩き出した。
「見て回るって言うか家探しっていうか窃盗も有りっていうか」
「ゲームしてるとさぁ、人さまの家のタンスから色々アイテム持ち出したりするじゃん~。あれ軽く窃盗だよねぇ」
「壺割ったりもするしな」
「ゲームデザイナーが合法って言ってるからいいんだよ。さて、この城にはどんなお宝が待っているのか楽しみだな」
お姉ちゃんの目がらんらんと輝いた。
この人、このゲームしてる時、お金が絡んでくると目の輝きがヤバすぎる気がする。
リアルじゃ見せない顔なんだけど、これが素の性格なんだろうか。
それはそれとして。
あたし達が出てきたワープポイントは、昨日惨殺事件の起こった王の間。高い高い塔の上。
まずはそこから降りなきゃね。
「王家が管理する塔への船が、船着き場から出ているらしいですよ」
部屋を出ようとしていたあたし達に、出口に立っていた衛兵さんが大声で言った。
びっくりしたあたし達は立ち止まる。
「王家が管理する塔への船が、船着き場から出ているらしいですよ!!」
さらに大音量になるセリフ。
大事なことなので2度言いましたパターンですか。それとも大事なことなので3度目があるんですか。さらに大音量で。
「船着き場に行けってことだな。それはそれとして、こいつうるさいからさっさとここ離れようぜ」
「王家が管理する――」
すでに3度目のセリフは始まっている。
もちろん2度目より大音量で。
耳を押さえながらあたし達は階段を駆け降りた。
で、お城の探索を始めたあたし達なんだけど、ちょっとテンションは下がりぎみ。
だってね、行ける場所が凄く狭いの。
好き勝手行こうと思ってもNPCさんが邪魔してきたり、見えない壁に阻まれて侵入できなかったりでさ。
どうにかこうにか入れた場所は地下。
「建物の地下には秘密が眠ってるってぇ、定番だよねぇ」
腐ちゃんがダウジングロッドを取り出して両手に持つ。
ピピーンとロッドに反応があったらしくて、あたし達は腐ちゃんについていった。
そうしたら、見つけてしまったよ、大変なものを!
「このガーネット、1つくらい回収していいやつあるんじゃねーの?」
目の前に設置された複数の照明に、お姉ちゃんの目が釘付けになった。
この部屋、アーチ型の天井をした……ヨーロッパの教会みたいな部屋なんだけどさ。照明が、部屋のあちこちに設置された巨大なガーネットから発せられる光で賄われてるみたいなの。
どういう仕組みなんだろうね。
ていうか、採れるのかな?
「お、採れるな!」
ガーネット照明の1つをお姉ちゃんが手にとってインベントリに収納する。1つ採れれば、もちろん他の照明にも手を出すわけで。
「回収するのはいいけど、俺らの視界が悪くなりすぎない程度にしてくれよ~」
お姉ちゃんの回収作業を手伝うつもりはないのか、暇そうに空さんがあくびした。時間つぶしの間体を休める場所を求めてか、三角形の祭壇みたいな場所に背を預ける。
「って、どわぁーーーー!!」
とたんに、空さんが寄りかかっていた祭壇が倒れて、石壇の下から下り階段が出てきた。
ひょっとしなくても、これ、隠し通路っていうやつだよね。
「ダウジングロッドぉ、この祭壇の方指してるよぉ」
腐ちゃんの手のロッドは、空さんの方にがっちり固定されていて動かない。
これは、この先にお宝があるということでしょうか。
「で、行くの? この先」
頭を掻きながら空さんが起き上った。
「もちろんですわ。楽しそうじゃありませんこと?」
「じゃぁ、ガーネット回収は後でいいな。ほれ、ナナ、もうそこそこ回収したろ? この先どれだけ時間かかるかわかんねーんだから、とっとと行くぞ」
空さんが、ガーネット採取に夢中のお姉ちゃんの首に腕を回して、強引にお姉ちゃんの作業を中断。
階段の方に引きずっていった。
「うぉぉ、あとちょっとは回収できそうだったのに! 帰りに残り回収させろよ!」
「はいはい。帰りな」
へぇ。暴走気味のお姉ちゃんを空さんなら止められるんだ。
これは新しい発見。
階段を下り始めた最初こそ騒がしかったあたし達だけど、だんだんと無言になる。
暗かったから、前の部屋でお姉ちゃんが回収していたガーネット照明を1つずつ手に持って足元を照らした。
静寂が広がる空間に、あたし達の足音だけが響く。
そうして下った先にあったのは狭い部屋なんだけど。
豪華なベッドがあってね、そこにね、すんごい綺麗な女の人が寝てたの。
全裸で。
「ぐふ。ぐふふふ」
うちの変態女好き様が嫌らしい声を漏らす。
「眠れる姫を起こすのはいつだって騎士の口付だ! これこそ俺のためのイベント!! 待っててね、姫ぇええええ」
変態騎士が眠れる姫のベッドへとダイブした。
ちょっと待って変態騎士! お姫様を起こすのは騎士じゃなくて王子様がほとんどだよ!