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40 徘徊、城

 ◉◉◉



 クエスト再開!

 したはずなんだけど、今回は何も起こらないの。

 いつもはワープポイントから出たとたんに次のイベントが始まるんだけど、なんでだろ?


「次のイベントの開始場所が違うのかもな。ちょうどいい機会だし、城の中見て回ろうぜ」


 空さんがルンルンと歩き出した。


「見て回るって言うか家探しっていうか窃盗も有りっていうか」

「ゲームしてるとさぁ、人さまの家のタンスから色々アイテム持ち出したりするじゃん~。あれ軽く窃盗だよねぇ」

「壺割ったりもするしな」

「ゲームデザイナーが合法って言ってるからいいんだよ。さて、この城にはどんなお宝が待っているのか楽しみだな」


 お姉ちゃんの目がらんらんと輝いた。

 この人、このゲームしてる時、お金が絡んでくると目の輝きがヤバすぎる気がする。

 リアルじゃ見せない顔なんだけど、これが素の性格なんだろうか。


 それはそれとして。 

 あたし達が出てきたワープポイントは、昨日惨殺事件の起こった王の間。高い高い塔の上。

 まずはそこから降りなきゃね。


「王家が管理する塔への船が、船着き場から出ているらしいですよ」


 部屋を出ようとしていたあたし達に、出口に立っていた衛兵さんが大声で言った。

 びっくりしたあたし達は立ち止まる。


「王家が管理する塔への船が、船着き場から出ているらしいですよ!!」


 さらに大音量になるセリフ。

 大事なことなので2度言いましたパターンですか。それとも大事なことなので3度目があるんですか。さらに大音量で。


「船着き場に行けってことだな。それはそれとして、こいつうるさいからさっさとここ離れようぜ」

「王家が管理する――」


 すでに3度目のセリフは始まっている。

 もちろん2度目より大音量で。

 耳を押さえながらあたし達は階段を駆け降りた。





 で、お城の探索を始めたあたし達なんだけど、ちょっとテンションは下がりぎみ。

 だってね、行ける場所が凄く狭いの。

 好き勝手行こうと思ってもNPCさんが邪魔してきたり、見えない壁に阻まれて侵入できなかったりでさ。


 どうにかこうにか入れた場所は地下。


「建物の地下には秘密が眠ってるってぇ、定番だよねぇ」


 腐ちゃんがダウジングロッドを取り出して両手に持つ。

 ピピーンとロッドに反応があったらしくて、あたし達は腐ちゃんについていった。

 そうしたら、見つけてしまったよ、大変なものを!


「このガーネット、1つくらい回収していいやつあるんじゃねーの?」


 目の前に設置された複数の照明に、お姉ちゃんの目が釘付けになった。

 この部屋、アーチ型の天井をした……ヨーロッパの教会みたいな部屋なんだけどさ。照明が、部屋のあちこちに設置された巨大なガーネットから発せられる光で賄われてるみたいなの。

 どういう仕組みなんだろうね。

 ていうか、採れるのかな?


「お、採れるな!」


 ガーネット照明の1つをお姉ちゃんが手にとってインベントリに収納する。1つ採れれば、もちろん他の照明にも手を出すわけで。


「回収するのはいいけど、俺らの視界が悪くなりすぎない程度にしてくれよ~」


 お姉ちゃんの回収作業を手伝うつもりはないのか、暇そうに空さんがあくびした。時間つぶしの間体を休める場所を求めてか、三角形の祭壇みたいな場所に背を預ける。


「って、どわぁーーーー!!」


 とたんに、空さんが寄りかかっていた祭壇が倒れて、石壇の下から下り階段が出てきた。

 ひょっとしなくても、これ、隠し通路っていうやつだよね。


「ダウジングロッドぉ、この祭壇の方指してるよぉ」


 腐ちゃんの手のロッドは、空さんの方にがっちり固定されていて動かない。

 これは、この先にお宝があるということでしょうか。


「で、行くの? この先」


 頭を掻きながら空さんが起き上った。


「もちろんですわ。楽しそうじゃありませんこと?」

「じゃぁ、ガーネット回収は後でいいな。ほれ、ナナ、もうそこそこ回収したろ? この先どれだけ時間かかるかわかんねーんだから、とっとと行くぞ」


 空さんが、ガーネット採取に夢中のお姉ちゃんの首に腕を回して、強引にお姉ちゃんの作業を中断。

 階段の方に引きずっていった。


「うぉぉ、あとちょっとは回収できそうだったのに! 帰りに残り回収させろよ!」

「はいはい。帰りな」


 へぇ。暴走気味のお姉ちゃんを空さんなら止められるんだ。

 これは新しい発見。


 階段を下り始めた最初こそ騒がしかったあたし達だけど、だんだんと無言になる。

 暗かったから、前の部屋でお姉ちゃんが回収していたガーネット照明を1つずつ手に持って足元を照らした。

 静寂が広がる空間に、あたし達の足音だけが響く。


 そうして下った先にあったのは狭い部屋なんだけど。

 豪華なベッドがあってね、そこにね、すんごい綺麗な女の人が寝てたの。

 全裸で。


「ぐふ。ぐふふふ」


 うちの変態女好き様が嫌らしい声を漏らす。


「眠れる姫を起こすのはいつだって騎士の口付だ! これこそ俺のためのイベント!! 待っててね、姫ぇええええ」


 変態騎士が眠れる姫のベッドへとダイブした。

 ちょっと待って変態騎士! お姫様を起こすのは騎士じゃなくて王子様がほとんどだよ!

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i396991
― 新着の感想 ―
[一言] どうやらガーネットは照明用のイベントアイテムっぽいですね。 後々売れたり素材に使えるかは分かりませんけど。 それにしてもVRゲームで全裸姫とは、某SONYのゲームハードなら規制の関係で絶対…
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