39 王様さようなら
「戦闘、こんな唐突な巻き込み方かよ」
お姉ちゃんが銃を構える。
「ま、至れり尽くせりなバフ貰ってたしな」
空さんは盾と剣を構えた。
「準備ばんたん~」
腐ちゃんは薄い本を出す。
姫様が各種ステータスアップ補助魔法を全員にばら撒いた。
「見苦しい戦いはごめんですわよ。さっさと倒しておしまいなさい」
「ふぁああい」
あたしは耳と尻尾をしゃきんとさせる。
「そんじゃ行くぜ! 〈タウント〉ぉぉお!!」
敵さんのヘイトを高める空さんのスキルが発動。
あたし達の方へ爆走してくる敵さん達。
戦いの火ぶたが切られた。
な~んてちょっと格好よく始めてみたけれど、終わり方はサックリです。
敵さんとの戦い、終わりました。
普通のバトル書いても同じことの繰り返しだから、つまらないから端折ったって、どこからか天の声が聞こえるよ。
つまりそういうことらしいよ。
敵さんのレベルが145だったおかげで、あたしは経験値が美味しかった。
新しい敵ってことで今まで見たことないアイテムがドロップしてきてて、お姉ちゃんはうっはうは。
でも、
「戦闘終わっても迎えが来ないのな。とりあえず、さっきの王の間に戻るのが筋なのかねぇ」
長い長い螺旋階段を思い出したのか、お姉ちゃんのテンションは少し下がった。
あの螺旋階段面倒くさいから、何度も行き来したくないよね。その気持ちよくわかる。
それでも、とりあえず、戦闘終わったよって報告も兼ねて王様の部屋にもどったよ。
そうしたらね、部屋の中の様子が変なの。
まずは、部屋全体が黒く模様替えされてる。
それで、あわあわした様子の衛兵さんが同じ場所をぐるぐるしてて、女性キャラの人達はめそめそしている。
部屋の中には何ゆえか血だまりができていて、そこに転がっているのは6人の人達。それも、元工場長と元受付嬢含むメンツ。王族だよって説明された人達。
け、結婚式の主役になるはずの人達が死んでるーーーー!
ちゃんちゃんちゃーん。
脳内でサスペンスの音楽が流れた。
「まさかの展開だな」
「これから犯人探しのミステリィでも始まるのですかしら」
顔を寄せたあたし達はヒソヒソと話す。
女中さん達と泣いていた綺麗なお姉さんがあたし達の方を見た。そうして、涙を流しながら語る。
「ああ、お客人。あなた方が敵の大軍は食い止めてくださったというのに、その間に王様方が敵の密偵に殺されてしまいました」
「ええええ!?」
「そこは頑張ろうぜ衛兵」
空さんが突っ込んでいたけれど、衛兵さんは無反応。
あたし達がどういう反応をしても彼らには届かない。っていうか、反応するようにはプログラミングされてないのかもね。
「ですが、私たちは幸運でした。あなた方という才能ある方々を招いていたのですから」
綺麗なお姉さんがふらふらと動く。
近くにいた衛兵さんの剣を手に取ると、それで、亡くなっている王族さん達の首を切り落としていく。
「えええええっ!?」
いやもう、あたし達一同驚きの声しかでないんだけど。
対照的に、全く反応を示さない周囲のNPCのみなさん。
いやこれ、めっちゃ犯罪じゃないの?
遺体損壊罪とか、不敬罪とかになるんじゃないですか!?
誰にも止められることなく、綺麗なお姉さんは6人の王族さんの首を切り落とす。
そこに魔法使いのお爺さんが箱を持ってきて、その箱に、6個の首は全て収められた。
えと、ひょっとして、これ、このゲーム式のお葬式とか?
血に汚れて壮絶な美しさになった綺麗なお姉さんが、今度はあたし達の方を向く。
そうして1冊の本を懐からとりだした。
「この国には命を蘇らせる方法が伝わっております。ただ、儀式を行うのは神に認められた者でなければならぬという制限があるのです。ですが、先日の審査であなた方はその資格を示された」
ほほぉ? まさかそういう展開なんですか?
「ねぇね。ヒーラーのスキルに蘇生ってあるじゃない? それで蘇生とかってできないのかな?」
あたしは姫様にこっそり耳打ちした。
「わたくし達プレイヤーはそれで復活できますけど。そもそもが、死んでもすぐに復活しますから、死という概念はありませんけれど、NPCにそれは当てはまらないみたいですわよ。イベント中にお亡くなりになったキャラは、もう出てきませんわ」
「そうなんだ」
プレイヤーとNPCの間には純然たる格差があるんだね。厳しい世界!
「本日は敵の撃退でお疲れでしょう。今晩はゆるりと休んで英気を養ってください。儀式についての話はまた明日いたしましょう」
綺麗なお姉さんが手をかざすとワープポイントが出てきた。
それを残して綺麗なお姉さんは退場。
他のNPCさん達は王族さんの体の部分を棺におさめたりと、お部屋の片づけが始まったよ。
「今日はここまでってことだな」
あたし達はセーブして撤収。
第3フィールド、ストーリーがあるのはいいんだけど、どう着地するんだろう。