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37 計量審査終わり

「そこのわんこ。仮にもレディを名乗るのであれば、このような場で大食い姿をどうどうと晒すのは看過できませんわね」


 いつの間にやらあたしの近くにきていた姫様が、あたしの首根っこをつかんだ。

 ぁーん。

 お肉までもうちょっとだったのに、手がとどかないよ~。


 はっ!

 そうだ!

 姫様に心探しにお戻りいただけば、あたしは自由! 天才か!


「姫様、心とれたの?」

「もちろんですわよ。というか、他のみなも確保済みですわ。わんこの『節制』が最後でしたわね」


 姫様が透き通った珠を見せてくれる。

 あ、そうですか。あたしが最後。

 みんなが心を入手するまでお肉を堪能しようというあたしの夢は、早くも崩れ去っちゃった。


 あたしは姫様に引きずられてみんなと合流。


「全部で7つの心だっけか? 取り逃しがないか、一応確認しておこう。全員珠出せ」


 お姉ちゃんの指示で、みんな珠を手に持つ。

 空さんの手には『忍耐』。姫様の手には『信仰』と『慈愛』。腐ちゃんの手には『純潔』。お姉ちゃんの手には『融和』。そしてあたしの持っている『謙虚』と『節制』。

 うん、7つある。

 これであたし達も審査に回されても大丈夫。


「揃ってるな。んじゃ、他の連中の審査の様子を見学に戻るか」


 安心してあたし達は特別席に戻った。


 心探しで時間消費したのもあって、大広間に残っている審査希望した人はほんのちょっと。


「そろそろ審査が終わりますね。最後に、一応ですが、皆様にも審査を受けていただこうと思います」


 椅子に座っていた綺麗なお姉さんが立ちあがった。

 あたし達の間に緊張した空気が流れる。


「その審査、俺達が受けたとして、不合格だったらやっぱり罪人にされちゃうわけ?」

「いいえ。皆様は、事前に自信がないと申告いただいておりますので。不合格でも、普通にお帰りいただくだけです」

「合格だったら?」

「結婚式への参加資格をさしあげます。もともと、そのためにいらしたのでしょう?」


 綺麗なお姉さんが優雅に微笑んで、どうぞと、計量天秤の方へ腕をかざした。


「わたくし達5人同じPTなのですけれど、天秤にはどのように乗りますの? まとめてですの? それとも1人ずつ?」

「全員でお乗りください」

「だそうですわよ。心を使い回ししないですんで良かったですわね。審査時間も短くてすみますし」


 ふっと微笑んだ姫様が天秤の皿に乗った。あたし達も続く。

 あたし達5人全員が乗り終わったら、天秤がゆっくりとあたし達の乗っている方に傾いた。


 もう片方の皿に1つ目の分銅が置かれる。

 姫様の持っている珠の1つが淡く輝いた。


「それ何の心だっけ?」

「『信仰』ですわね」


 分銅を置かれても天秤の傾きは変わらなくて、その分銅は静かに外された。


「分銅に対応した心を持っていたらぁ、さっきみたいに計量をクリアさせてくれるのかもねぇ」


 喋っている間にも、他の分銅が乗せられては外されていく。

 作業自体はたいしたことないから、7つの心の審査はあっという間に終わったよ。


 あたし達の他に自信ないって言ってた人たちの審査もさくさくと終わって、最終的に審査を通過した人は、最初の人数を考えればとっても少し。

 その数少ない通過者の集まりに、綺麗なお姉さんが相変わらず麗しい笑顔を投げかけてくれる。


「審査通過おめでとうございます。審査通過の証として、まずはあなた方にこの品を」


 綺麗なお姉さんが喋っている横から侍童じどうくんがやってきて、翼のあるライオンが刺繍された金色の羊毛皮をくれたよ。

 あたし達PTに1つみたいだったから、とりあえず空さんに受け取ってもらう。PTリーダーだからね。


「慣例に従い、王の結婚式には錬金術師様方に招待状を送らせていただきました。その中でも、良き魂をお持ちのあなた方は最高の錬金術師と言っても過言ではありません」


 そんな理由であの招待状が配られてたんだ?

 あたしはてっきり、第2フィールドのボスの工場長さん達の結婚式が絡んでるとか、そんな感じなのかなって思ってたんだけど。


「最高の錬金術師として我が国が認めた証として、あなた方に金羊毛皮を贈ります」


 第2フィールドと第3フィールドの繋がり、謎。

 ストーリー的に、繋がってるようで繋がってないのかも。


「この金羊毛皮は錬金術の達人の証とされている品でございます。特別な組織への入会資格にもなります。必要となることがあるかもしれませんので、大切にお持ちください」


 侍童くんが付け加えた説明を聞いて、空さんが金羊毛皮をお姉ちゃんに渡す。錬金スキルカンストしてるのお姉ちゃんだからね。

 あれ?

 でも、このクエ始めるための条件って、あたしの錬金レベルに依存してたんだよね? ってことは、あたしが持っている方がいいのかな?


「そういやそうだったな。じゃ、こはる持ちで」


 最終的にあたしが持つってことで落ち着いたよ。


「本日のイベントはこれで終了です。次のイベントは明朝。それまでは皆様ご自由にお過ごしください」


 そう言った綺麗なお姉さんは大広間から退場。

 セーブできるよとでも言いたげにワープポイントが一瞬輝いた。


「クエ進めるのに時間経過が必要みたいだし、今日はここまでだな。セーブして帰ろうぜ」


 いそいそと空さんがワープポイントに腕を突っ込む。


「そういえばさ、途中で見せられた深い谷に落とされるイベントさ。あれなんだったんだろうね?」

「審査失敗した時にさ、自信満々だった奴は罪人扱いされて、自信ないって言った奴は帰るだけですんだじゃん? どっちを選ぶかのヒントだった感じだな、終わってみれば」

「でしたらイベントのタイミングが悪いですわね。あれ見せられたの、自信ある無しの選択を終わらせた後でしたもの」

「運営に報告あげておいた方がいいかもねぇ」

「不具合報告の謝礼、何か貰えるかもしれないしな」


 にししと、お姉ちゃんが悪い笑いをする。

 そんなこんなで、今日のあたし達のクエストは終わりました。



 ◉◉◉



 で、続きです!


 あたし達は今、他の合格者さん達と一緒に奇妙な泉に連れてこられました。

 この泉ね、変なの。

 中に入ってる水が銀色で、しかもつやつやして金属っぽいの。


「この泉の中身、水銀だな」


 眼鏡に手をあてていたお姉ちゃんの目がキラリと輝いた。

 瓶を取り出すと、そこに手早く水銀を回収していっている。


「空き瓶とか持ってる奴は回収しといてくれ。水銀、ここで初めて出てきたアイテムなんだ」


 ああ、そうなんだ。錬金素材に使えそうな新しいアイテム発見ってなれば、そりゃテンションあがるよね。


「皆様にはまず泉の水で体を清めていただきます。その後は、この杯で泉の水をお飲みください」


 優しい笑顔の綺麗なお姉さんが黄金色の杯を出してくる。

 反対にあたし達は空気が固まった。


「水銀、猛毒なんだが」


 ぽつりと、お姉ちゃんのつぶやきが流れた。

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