表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/149

36 『節制』の心

 だめだ。

 頭がオーバーヒートしたのも手伝って、ますます『節制』の心がどこにあるのかわからない。

 こういうときってあれだよね。

 流れに身を任せてなんとやら。


 とりあえずは頭を冷まさないと。

 通常でもオバカなあたしだけど、大バカになると困るの。

 だから――休憩だ!


 あたしは大広間の隅っこにある長ソファにごろりんと横になった。

 あ、こんな場所で転がってたら体裁が悪いか。

 しかたないから、姿勢を崩して座っている程度にとどめとこ。


「お客様、頭から湯気が出ているようですが大丈夫ですか? よろしければ冷たいものをご用意いたしますが」


 あたしの前を通りかかったメイドさんが話しかけてきてくれる。


「あー。あるなら欲しいかも」

「バケツとグラス、どちらのサイズでご用意いたしましょう?」


 え、バケツ?

 お水をバケツで用意してもらって、頭からかぶれば気持ちよさそうだなぁ。


 浮かぶ妄想。

 いやいや。

 ゲームの中とはいえ、ここは社会的地位の高そうな人ばっかり集まっている場所。

 そんな所で水浴びとかダメ過ぎ行為でしょ。普通に一発退場くらいそう。


「グラスでお願いします」


 にこっと笑顔でお願いしました。

 うぅ。こんな堅苦しい場所嫌い。


「かしこまりました。グラスで冷たいものですね」


 メイドさんもにこりと笑う。彼女の手には、氷のゆれる飲み物の入ったグラスが現れていた。


「どうぞ。また何かご入り用になったらお申し付けくださいませ」


 あたしに飲み物をくれてメイドさんは退場。

 メイドさんのくれた飲み物、スッキリさわやかな上によく冷えてて生き返る~。


 そんなあたしの横の椅子に、恰幅のいいおじさんが座る。


「審査の順番待ちも疲れますなぁ」


 おじさんが話しかけてきた。

 これ、とりあえずでも会話をつないだ方がいいパターン? とりあえず相槌うっとこ。


「ほんとですね~」

「こちらで休まれだしたあなたを見て、私も我先にと先を急がずに、人がはけるのを待とうと思ったわけですよ。挙式日が決まっている以上、審査前の待ち時間が長くなるか、審査後の待ち時間が長くなるかの違いくらいしかないでしょうから」


 ははっとおじさんが笑う。

 そんなしっかりした理由、あたしにはなかった。


 そんなおじさんが、胸元から葉巻を出してすぱーすぱーとやりだした。

 うえぇ。

 狼の獣人だからか、人間の時より臭いを強く感じるよ。ただでさえタバコ嫌いなのに、これは拷問。


 てか、普通はお隣さんに「タバコ吸ってもいい?」くらい聞くよね? ゲームの中ではマナーが違うってやつなのかな。


 そのおじさんがあたしの方に葉巻ケースをさしだしてくる。


「あなたも1本どうです?」

「ありがとうございます。でも遠慮しときます。まだまだかかりそうな待ち時間。その間にあなたが吸えるタバコの本数を減らしてしまっては、申し訳ありませんから」


 強引に作り笑いをしてお断りするあたし。

 本音と建前って日本語、こういう時べんりだね!


「気を使わせてしまいましたかな。しかし、たしかにタバコだけで時間をつぶすのは辛そうだ。少しブラブラしてきますよ」


 タバコのおじさん退場。清浄な空気が返ってきた。助かった。

 なんかまだ鼻に臭いの粒子が残ってる感じがして嫌な感じ~。


「お客様、軽食はいかがですか?」


 そんなあたしに、メイドさんがまた話しかけてきた。

 この会場、1人になるとやたら絡まれるね!

 で、そのメイドさんはワゴンを押していて、載っているお皿には色んな料理が盛られている。今度は原始人肉はないみたい。


 はぁ~。

 さっきのタバコおじさんのせいでテンション下がったし、やけ食いでもすべきか。

 精神疲労回復促進のために栄養をとるのは悪くないだろうし。


「こはる、節制」


 そんなあたしの耳に、小さくお姉ちゃんの声が滑りこんできた。

 きょろきょろ周囲を見回してみたんだけど、お姉ちゃんはいない。


「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ。なんにも」


 空耳かなー。それとも錬金アイテムであたしに釘刺してきたのか。

 節制の意味って”つつしめ”だよって言ってたっけ。

 つまり、量をつつしんで食べろということですか、女王様。

 何が『節制』の心の対象かわからないから、行動全てにおいて節制をこころがけろと。


 ご馳走を前にしてなんたる地獄!


「それじゃ、少しだけもらえますか?」

「何をお取りしましょう」

「お任せで」


 メイドさんがお野菜を中心に小皿に取りわけてくれる。

 ああ、もっとガッツリと、お肉が大皿で欲しかった。


「ありがとうございます」


 笑顔で小皿を受け取るあたし。

 うぁあああああん!

 なんであたしジャンケンに負けたよ!?

 『節制』担当じゃなければ心ゆくまでお肉食べられたんじゃないの!?

 肉ぅううううう!


 心で泣いて、小皿に取りわけられた物を笑顔でいただく。

 完食したら、透き通った珠が小皿に現れた。


 ぴろりろりん

 『節制』の心を入手しました。


 あ。そうですか。

 嬉しいハズなんだけど、地味に心理的ダメージが。


 って。

 あ!


『節制』の心取れたんだから、もう慎まなくていいじゃん! お肉食べよ!

 特別席に用意されているお肉さんたち、待っててね~~~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i396991
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ