35 必要な心は、残り『信仰』『慈愛』『融和』『純潔』『忍耐』『節制』です
審査に必要な心を探すっていわれても、どこにあるのかやっぱりわかんないもので。
『謙虚』が隠されてた場所を参考にするなら、あんまりひねった隠し方はしていないのかな~。ていうか、していないで欲しい。
どこまでもストレートに考えるなら、『信仰』の心がある場所は神官さんの近くとか、そんな場所なのかな。
そう考えたあたしは神官服の人の方に向かう。
なぜかPTの他のみんなも同じ方向に歩いてる。
「えと、みんなこっち?」
「とりあえず神官のトコに行ってみるかと思って」
「俺も」
「わたくしもですわ」
「私もだよぉ」
「……」
これは、全員が一番簡単そうな心に集中したというパターンではないでしょうかっ!?
「まぁいい。考え方の方向があってるか、確認にもなるだろ」
「だなー」
喋っている間に神官さんのところに到着したよ。神官さんはニコニコ笑っている。
「どうなさいましたか? 審査を受ける列はあちらですよ」
「いいえ神官さま。わたくし審査を急いではおりません。早い順番は他のお客人にお譲りして、その間わたくしは神に祈りを捧げていようかと」
姫様がすいっと進み出てそれらしいことを言った。
ヒーラーの装備って神官さんのお洋服と近いデザインだから、なんとなく本気っぽく聞こえる。
ここは姫様に丸投げが正解かもしれない。
お姉ちゃんとかに任せたら、会話の前に銃をぶっぱなして倒しちゃいそうだし。
あ、今、銃しまったよね。問答無用で倒す気まんまんだったよね?
「それは良い心がけです。では、あなたにこの場所をお譲りしましょう。心ゆくまでお祈りください」
神官さんがどいた。そこに姫様はひざまずいて、祈りのポーズっぽいのをとった。
「何もおきないね」
「数秒か数分祈るってのが条件の可能性もある」
「今のところ間違ってる感じはしないよねぇ」
手持無沙汰なのもあって、あたし達は少し離れてお喋り。
そうして過ごしていたら、姫様の頭上から淡いスポットライトがあたって、キラキラとした光の粒子まで降ってきた。
「ぉ、当たりだったんじゃね?」
ぴろりろりん
聖天使猫姫が『信仰』の心を入手しました。
そんなログが流れる。
忘れている人いるかもしれないけど、聖天使猫姫って姫様のプレイヤー名だから。
読ませ方が凄いよね。
最初漢字をそのまま読んで、せいてんしねこひめだと思ったあたし大間違い。
「取れましたわね」
あたしが取った珠と色違いの透き通った珠を手に姫様が立ちあがった。
「心の場所ぉ、安直な連想ゲームで見つかりそうだねぇ」
「これで、必要な心はあと5つか」
「私たちは5人だね」
「1人1つずつ綺麗に振り分けられるねぇ」
「問題は……」
誰が何を担当するか!
これは大切な問題だよ!
あと残ってる心って、『慈愛』『融和』『純潔』『忍耐』『節制』だっけ? 『融和』とか『節制』なんて担当になった日には困る未来しか見えない! そもそも節制ってどういう意味!?
「ジャスティスゼロ鉄の掟! もめる時の勝負はジャンケン! 文句なし!」
お姉ちゃんが高らかに宣言する。
うちのギルド、そんな鉄の掟があったのかー!!
「じゃーんけーん」
みんなで唱和する。なぜかこういう時って声も動きもシンクロするよね。
「ぽんっ!!!」
「おっしゃ勝ったぁーーーー!!!」
空さんが昇竜拳の動きをする。
「じゃあ俺『忍耐』な。どんな我慢を求められるのか、考えただけで嬉しみが急上昇だぜ」
ひゃっほーと空さんは消えていった。
「次、じゃーんけん」
ぽん。
「勝ちぃ」
薄い本を胸に抱いて腐ちゃんがくるりと一回転。
「『純潔』貰ってくねぇ。うふふぅ、同性どうしのカップルならぁ、純潔率高いよねぇ。純潔じゃなくてもぉ、それはそれで美味しいぃ」
うへへぇ。ドドメ色に濁ったオーラを発しながら腐ちゃん蒸発。大丈夫かなあれ、周囲が。
「じゃーんけーんぽん!」
「わたくしの勝ちのようですわね」
姫様が小指をそっと口元においてほくそ笑んだ。
「『慈愛』、いただきますわよ。わたくしのためような言葉ですわね」
優雅に姫様退場。姫様に慈愛? 間違っていないような気もするけど、素直に納得できないあたしがいる。
「残り『融和』と『節制』か。どっちが勝っても文句なしな。じゃーんけーん」
「ぽんっ!!」
あたし、負けました。
「じゃ、『節制』よろしく。ついでに言っておくと、節制は適度につつしめって意味だ」
負けて真っ白になったあたしの肩をぽんと一叩きしてお姉ちゃんは去っていく。
うん。ありがとう。意味、わかんなかったんだ。
けど。
けれども!
何がどうすれば節制につながるのかまったくわかんないんですけどー!
ふぉーん!
あぉーん!
ぷしゅー!
わ、わ、わ。頭から湯気が出た。これが知恵熱っていうやつ!?
うぇーん。オーバーヒートだよぉ。頭が。