32 城到着
「まぁ、大量のノーマル鶏肉だろうと貴重な鶏肉だろうとなんでもいい。ともかくアイテムドロップしろ!」
気合いの声とともにお姉ちゃんの銃から弾が発射される。
それは、あたし達の前を飛ぶハトさんの残りHPを見事に削りきって、ハトさんが消滅した。
ぴろりろりん
〈道しるべのハト肉〉x30を入手しました
「見たことない素材が手に入りましたわね」
「錬金でも使えるかもだから、私にもくれ」
「そうですわね。とりあえずギルドハウスに戻って使い道は相談しましょうか」
なんて、カラスさんの上で肉の使い道を相談している間に、空さんが地上に落下した。
かなりの高度から落ちたから一発死かと思いきや、ギリギリで生きてるみたい。
『いや~。死ぬかと思ったわ。木がクッションになってくれてよかったー!』
いや。普通さ、この高さから落ちたら、木がクッションになっても、その木との衝撃が強すぎて死ねるよね。
これが盾職のたくましさというやつなのかなぁ。
なんにせよ、空さんを回収にいかないとだよね。
「カラスさん、あそこの、空さんが落ちた付近に飛んでくれる?」
あたしはカラスさんを撫でながら言ってみる。
言葉が通じたのか、一声鳴いたカラスさんは指示した通りの場所に飛んでくれた。
ほどよく高度も下げてくれたから、空さんの落下地点付近であたし達はダイブ。無事空さんと合流できたよ。
空さんのHPは姫様が回復してくれて、何事もなかったかのようにいつもの状態にもどる。
「でさー。これ、俺達どの道にいるのか誰かわかる?」
空さんが周囲をきょろきょろ見回す。
「わかりませんわ。上空から見た荒野、霧で覆われてましたし」
「でもさぁ、あそこに城見えるじゃん~。あそこがゴールならぁ、距離短いしぃ、どの道でも行けそうじゃないぃ?」
腐ちゃんが道の先を指した。
道は高い山の方に続いていて、その山の頂上付近にお城みたいなものが見える。
お城といえば王様が住んでいる場所。
王様といえば、第3フィールドが始まってすぐに貰った結婚式への招待状をくれた人。
あれが、結婚式をあげる王様の住んでいるお城なのかな?
「まぁそうだな。何かあったら空が頑張るだろ」
「え? 俺だけなの? みんなでどうにかするんだよな?」
「その時しだいですわね。さ、参りましょ」
姫様が空さんの腰あたりを杖でつつく。
空さんは「ああん」とか言って歩き出した。
空さんがキモイのは今更だからおいといて、やっぱり先頭は空さんに行ってもらわないと。何かあった時が危ないからね。
幸い、そこから先は敵さんが出てくることもなく、ただ山登りをしただけ。
夕暮れ時にお城に着いたよ。
「ここにもワープポイントがあるのな」
城門前にあるワープポイントに空さんが腕を入れる。
「ありがたいですわ。この先で何か失敗した時、もう一度鳥に乗って追いかけっこは面倒ですもの」
「鶏肉が欲しい時ぃ、鳥が巨大化した瞬間に倒すっていうの繰り返したらどうかなぁ?」
「それいいかもな。このクエクリアした後で考えよう」
「中間ポイントがあると楽だね~」
あたし達もワープポイントに腕を突っ込んで、進行具合をセーブ。
「まぁ、今日はこんなトコで帰るか。リアルがそこそこいい時間だし。中間セーブまじ便利だな」
「ここで上がる、賛成ですわ。寝不足はお肌の大敵ですもの」
「じゃ、また全員集まったときに続きってことで」
「お休み~」
「ノノ」
◉◉◉
それで、みんな集まって攻略再開の日。
やってきてみたお城のフィールドはやっぱり夕方。
この世界ってオープンフィールドだから、時間の流れはゲーム内で共通のはずなんだけど。
このクエストフィールド、インスタントダンジョン扱いっぽいから、固定なのかもね。
それはそれとしてね、警備が厳重なお城なのか、門が3つもあってびっくりしちゃった。
それにね、それぞれの門に円盤が掛かってて、「ふさわしからざる者はここを去れ」って書かれてたの。
呼んでおいて去れってどういうこと?
結婚式への招待客以外お断りってことかな?
あたし達が通してもらう時も、結婚式への招待状を見せなきゃだったしね。
門を抜けた先で、あたし達の前に男の子がやってきた。表記は侍童ってなってる。
「侍童は貴人の世話をする側使えの少年のことぉ」
腐ちゃんがこっそり教えてくれた。
「男じゃなくて少女のメイドさんよこしてくれよぉ」
男泣きしている空さんは放置でいいと思う。
そんなあたし達に侍童くんが会釈した。
「ようこそいらっしゃいましたお客人様。これより夕食会になりますので、大広間へ案内いたします。こちらへどうぞ」
侍童くんについて行くとすぐに大広間についたよ。
そこにはすでにたくさんの人(NPC)がいて、ぺちゃくちゃ喋ってる。
ご飯は残念ながらどこにも見受けられない。
ご飯は、お肉はどこですか? 今から準備されるのかなぁ。
「つか、この部屋の連中の会話、聞いてると微妙に腹立ってくるな」
機嫌悪そうにお姉ちゃんが眉根を寄せる。
腹立ってくるようなこと話してるんだ? なになに?
……。
なんかね、みんなね、尊大な態度でね、自分がどれだけ素晴らしい活躍をしてきたか、とか、そんな自慢話ばっかりがやり取りされてるよ。
やな感じ~。
「あんまり聞いてて楽しくないから、ご飯の時間になるまであたし隅っこにいるね」
「私も行こう」
「私もぉ」
ひとりで隅にいようと思っていたのにみんなついてきて、結局、あたし達一行は、隅っこで休憩から、この日のクエストが始まったわけです。