30 道は4つ
上にあがるための手段、ロープ。
いやね。
あたしの次に腐ちゃんがロープに掴まった時点で、微妙に危険な音はしてた。
してたんだけど。
女子陣のスカートの中が見たいという空さんの煩悩のせいでとどめをさされたという事実が、怒りの度合いを深めてくれる。
さっきからみんなで空さんをどついてるんだけどさ、同じPTだからダメージ入んないの。
その上ね、空さんてば幸せそうな顔してるの。
たまに嬌声まであげるものだからキモイ。
教育的指導をするのも馬鹿馬鹿しくなって、なによりあたし達が疲れちゃって、空さんはそこいらに転がして放置する方向で決定。
「なんだよ今度は放置プレイ始めちゃうの? お前らどれだけ俺を喜ばせてくれるんだよ~」
相変わらずの勘違いっぷりで喜ばれているけど、あたし達が疲れないですむ分だけ被害はない。煩悩魔人は無視無視っ!
「で、どうするよ。ロープ切れちまったけど」
切れたロープをインベントリにしまいながらお姉ちゃんが意見を求めてきた。珍しいものは何でも回収しておくんだね。なんていうか錬金術師の鏡。
「どうするっていうか、やっぱりロープで登るべきなんじゃない?」
あたしはお姉ちゃんの頭の上をさした。
「登れりゃいいけど、切れちまっただろロープ」
「新しいロープ垂れてきてるぅ」
腐ちゃんもお姉ちゃんの頭の上を指す。
お姉ちゃんが上を向いた。
視線の先には、さっき切れたロープと寸分違わぬロープがぷら~ん。
「ロープ、復活するんだな」
「みたいだね」
「何度まで再生してくれるのか謎ですから、同じ間違いは繰り返さない方がよさそうではありますけど」
「だねぇ」
空さん以外の4人で見つめ合ってうなずいた。
「はい」
あたしは手をあげた。
話せというようにお姉ちゃんがあごをしゃくる。
「あのね。さっきロープに掴まった時、腐ちゃんが増えた時にもロープが切れる前兆みたいな音がしたんだ。あのロープ、定員1人なのかも」
「採用。1人ずつ登ろう。さっきの順番な」
「はぁ~い」
返事してあたしはロープに掴まる。
今度は誰も一緒に登ろうとしない。
あたしは1人で綱登りを始めた。
でもね、登ったのはほんの少しの時間で、すぐに自動でロープが引き上げられ始めたんだ。
で、井戸みたいな出口に着いた。
あたしがしっかり地面に足をつけている間に、ロープは勝手に井戸の中に戻ってる。
1人ずつロープに掴まる作戦は成功だったみたいで、ほどなくして空さん含めて全員外に出れたんだ。
「ワープポイントがありますわね。クエ進行、セーブしていきましょう」
井戸のそばにワープポイントがあったから、みんなでクエストの進行状況をセーブ。
第3フィールドクリアかと思いきや、どうも違うみたい。
フィールドクリアって言葉は出ずに、第3フィールドの進行状況をセーブできるって表示されてきたんだよね。
途中セーブできる場所を置くって、第3フィールドって長いのかな。
「後ろには入口の無い僧院。前には深い森。道は森の中へと続いている。素直に森に行くのが順路だろうな」
周辺を調べていたお姉ちゃんが結論付けた。
空さんを先頭にあたし達は森に入る。
深くて豊かな森っぽくて、獣や鳥が木々の間に見えてる。
「って、あれモンスターじゃん!」
あたしの声に反応したかのように、獣型モンスターと鳥型モンスターが寄ってきた。
それはもれなく空さんに集められて、腐ちゃんに焼かれて、生き残りはあたしとお姉ちゃんに潰される。
「こはる、だんだん戦い慣れてきたな」
「ほんと? スパルタで戦いに放り込まれてきた甲斐があったね!」
お荷物にしかなっていなかったあたしだけど、最近はレベルも上がってきたし、少しは火力としてカウントしてもらえているなら嬉しい。
この森、それなりにモンスターは出てくるんだけど、今までの特殊クエストに比べたらモンスターの密集具合が薄くて楽なんだ。
むしろ、代わり映えのない森を進むのが退屈にならないように、ほどよく敵さんが絡んできてくれてるって感じ。
あたしの戦闘練習にもってこい!
そうやって進んで行ったら急に森が開けたよ。
森を抜けた先にあったのは、森っていうほどじゃない緑の荒野。
その緑の荒野フィールドの入口に3本のスギが立っていて、うち1つには円盤が掛かっていて、さらに奥に4本の道が延びてる。
「あの円盤、何か書いてあるな」
見てこいとでも言いたげにお姉ちゃんが空さんの腰をつつく。空さんが円盤の前に行った。
「なになに? この先の道、次の4つである」
――短いが非常に危険な道。
――安全だが長い道。
――1000人に1人も行くことのできない幸運者のための王道。
――人間には不可能な道。
なんか、どの道も一長一短な感じなんだけど。
てか、最後の『人間には不可能な道』って何? 獣化した獣人専用の道とか?