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3 はじめてのクエスト

「にしても、こはるよくこんな場所に来れたな。私、解放されてるフィールドは全部行ったつもりだったけど、ここに来たのは初めてだわ」


 周囲を見回しながらお姉ちゃんが言った。


「アオーン」(寝てる間に連れて来られただけなんだよね)

「誰に?」

「アオーン」(そのショッ○ー)


 伸びている覆面黒タイツの方にあたしは顔を向ける。お姉ちゃんは神妙な顔になった。


「おかしいな。これまで遭遇してきた連中は1発で消し飛んだんだけど」


 とか言って、いきなり発砲する。

 転がっていた覆面黒タイツがひと跳ねして、


「ィー!」(いきなり発砲しちゃいけませんって教育受けてないんだっぺか!?)


 怒鳴ってきた。うん、すごく元気だ。

 お姉ちゃんは片手で銃を撃ち続けながら、もう片手は眼鏡に添えている。


「カムバックGTR。職業:悪の戦闘員。レベル150……」


 分析した覆面黒タイツの情報を読みあげているんだろうけど、お姉ちゃんの表情がどんどんゲンナリしたものになっていく。


「あぁん? しかも特殊クエストだと? こんなのwikiにも載ってないぞ」

「ィー」(この際ついでだ! ナナもうちの組織で働きませんか!? だっぺ)

「誰が働くかボケッ! ちょっと寝てろや」


 お姉ちゃんの銃がそれまでと違うエフェクトの弾を撃ちだした。覆面黒タイツの周囲に白い煙が立ちこめたと思ったら、彼はぱたりと倒れる。

 倒れた覆面黒タイツの片手にお姉ちゃんは手錠をはめ、近くの柱に連結した。


「よし。これでしばらくこいつは放置できるな。この馬鹿を倒すかの選択は保留と」


 作業しているお姉ちゃんの背中をあたしは叩いた。


「アオーン」(あたしもクエスト出てるけど、その人を倒すなんて選択肢出てないよ?)

「そうなのか? これまでの選択が違うとかでルートが分かれてるのかね?」

「アオーン」(選択肢出たのこれが初めてだけど)

「マジか。ってなると、出てるクエスト自体が違うのかね? 私の方は【裏切りの親友】ていう特殊クエが出てるんだけど、こはるは?」

「アオーン」(【稀有けうなる狼人】って特殊クエが出てる。で、この契約書にサインするかって選択肢が出てるよ)


 あたしはベッドの上にぴょんと飛び乗って、そこに置かれたままの契約書を前脚で押さえた。紙に目を通すお姉ちゃんが難しい顔をする。


「マジで全く知らないクエストだな。期間限定で、選べる種族が拡張されただけかと思ってたけど、フィールドとクエストも実装されてるのか。にしても、それなら、掲示板あたりに情報が上がっててよさそうだけど」


 言いながら、彼女は契約書を手にとって勝手に破いた。

 ちょっと、それってイベントアイテムじゃないの!? 契約書が無くなったからか、サインするかの選択肢も自動で「いいえ」が選ばれてるし。


「契約書破いていいのかって顔してるな? いいんだよ。たぶん、これにサインした成れの果てはコレだろうし」


 お姉ちゃんが覆面黒タイツの方に顎をしゃくる。


「こいつさー。カムバックGTRなんてキャラ名してるじゃん。たぶん私のフレンドのカムバックGTRなんだよな〜。悪の組織の一員になったフレンドと敵対するっていうのが【裏切りの親友】開始フラグだって考えれば、まぁ、わからんでもない」

「アオーン」(そうなんだ?)

「こはるの方のクエのクリア条件何になってる?」

「アオーン」(んとー、悪の組織の制圧だって)

「OK。私の方は敵対した友を倒して目を醒まさせろだから、とりあえずこいつをぶっとばし――」

「アオーン」(待って〜)


 銃を構えたお姉ちゃんの腕にあたしはかじりついた。


「なに?」

「アオーン」(イベントクリアしたら、強制的にフィールドを追い出されるイベントもあるじゃん?)

「そうだな」

「アオーン」(だからさ、先にこの施設の探索してからこの人倒そうよ)


 そう。悪の組織なら、善良な市民から略奪した金銀財宝を溜め込んでいるはず。

 それをみすみす見逃すだなんてもったいない。

 根こそぎかっさらって、その資金力でこの組織を乗っ取って、世界政府に脅しをかけて金を出させれば、生涯遊んで暮らせ――。


「おい。その顔ヤバいからヤメロ」


 お姉ちゃんが目を据わらせてあたしの頭にチョップを落としてきた。


「けどまぁ、この組織を乗っ取るって案は悪くない。クリア条件は制圧だから、乗っ取りでも達成できるだろうし」


 あ、お姉ちゃんの笑いが凄く悪い。発してるオーラはどす黒いし!


「ショッ◯ーどもをパシリにできるとかいいじゃん! 採取面倒な素材をこいつらに集めさせれば楽できるし! その素材で作ったアイテム売りまくって、ゲーム内マネーウハウハ!!」

「アオーン」(そのお金であたし愛ランド建設! あたしに限りスイーツ食べ放題! 従業員はイケメン限定!!)


 ふははは、アオーンアオーンと、2つの高笑いが部屋に響き渡る。


「ィー」(そんなブラックバイトみたいな扱いご免だっぺ!!)


 おや、カムバックGTRさん目が覚めたのかな? と思って見てみたら、寝たままの姿勢で叫びだけ上げていた。

 そんな彼にお姉ちゃんがさるぐつわをかます。

 おかげで静かになった。


 ところでさ。

 お姉ちゃんが作業している途中から、気持ち、カムバックGTRさんの周囲に不思議なオーラが漂いだしたような。

 なんだけど、


「では行こうかこはる」


 お姉ちゃんは身を翻した。カムバックGTRさんの事は全く気にしてないみたい。

 それなら問題ないんだろうね。あたしも続く。


 待っててね、悪の組織。

 君達の溜め込んだ金品は根こそぎ回収してあげるから。

 途中で遭遇するであろう戦闘員のみなさんも、経験値として美味しくいただくから。

 あたしは雑魚だけど、レベルカンストしてるお姉ちゃんがいればどうにかなる、はず!


「アオーン」(ここの制圧を足掛かりに、ゆくゆくは世界大統領に!)

「ゲーム目的変わってね?」


 あれ? そうだっけ?

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i396991
― 新着の感想 ―
[良い点] ナナさん……持ってたライフルはリピーターだったはずだが、あれを片手で連射ってことは……ぐるんぐるんスピンさせながらブッ放してたわけか……! そうそう、やっぱしそれが一番かっけーし映えます…
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