28 第3フィールドは水ぼちゃから
あたしの変身問題はとりあえず解決。
しばらく大きなクエストをしなかったことで、元気も回復。
というわけで、あたし、お姉ちゃん、姫様、腐ちゃん、空さんが揃った日に、サン=ジェルマンさんのクエスト第3フィールドにきたよ。
「およ? 質素だけど、お祭りな感じのフィールド?」
あたしは周囲をきょろきょろ見回す。
フィールドは夜。
場所は小規模な町の路地、でいいのかなぁ。
路地沿いの建物が、ささやかだけどランタンみたいなので飾られてるんだ。そのどれもが卵形をしてて、ちょっとかわいい。
そんな卵ランタンのいくつかがミニ天使に変身。あたし達の方に飛んできた。
「お探ししておりましたこはる様。『王の結婚式』への招待状をお届けにまいりました。お受け取りください」
お受け取りくださいと言いながら、天使さんはあたしの手に強引に手紙を押しつけて消える。
なんですかこれ、新手の押し売りですか。
あたしだけじゃなくて、お姉ちゃん他全員、手紙を天使さんから押しつけられていた。
――王の結婚式への招待状を入手しました。
アイテム入手ログが流れる。
そうしたらなんか、陸地が揺れ始めたような。
「なんか揺れてない? ってか、どんどん激しくなってきてるんだけど!?」
またたく間に揺れは大きくなる。
冗談のように、あたし達の立っている周辺に大穴があいた。
もちろんあたし達は落下。
「展開強引すぎるよねー!」
「まー、ネトゲなんてこんなものだよな~」
あたしの叫びとお姉ちゃんの突っ込みは、深い穴の中に吸い込まれていった。
ばしゃーん!
大きな音とともに盛大に水しぶきが上がる。
落ちた先はそこそこ深さのある水たまりだったみたい。硬い陸地じゃなくて助かったっていうのかな。
とりあえず陸地にあがらなきゃ。
視界の端に見えた陸地に向かってあたしは泳ぎだした。体が自然に犬かきしてるのは、狼獣人という種族設定のせい、うん。
陸地に上がったらぶるぶるって体を震わせて水弾きも終了! 獣人って便利!
って、ここにいるのあたし1人?
みんな一緒に落ちたのまでは確認したんだけど、見える範囲にはいない感じ。
『なんか暗い所に水ぽちゃしたんだけど、みんなどこー?』
だから、ギルチャで声をかけてみたよ。
『私も水に落ちた』
『わたくしもですわよ。泳げて良かったですわ』
『私もなんとか泳ぎきれたけどぉ、空大丈夫だったかなぁ?』
お姉ちゃん、姫様、腐ちゃんからはすぐに返事がきたけど、空さんからがこない。
腐ちゃんの心配が的中して、空さん死んだ? てか彼って泳げない人?
『なんだこのトラップ! 鎧が重しになって溺れ死ぬかと思ったわ! ゼーゼー』
少し遅れて空さんからも返事がきた。呼吸が荒いけど生きてはいるみたい。
そっかー。鎧かー。それは重いよね!
てか、全員水ぽちゃしたんだ?
それなら近くにいてよさそうだけど、違う方向に泳いじゃってバラバラなのかな?
『思うに、バラバラの場所に落とされてるんじゃないか? 私たち』
お姉ちゃんがぽつりと言った。
『確かにわたくしのそばには誰もおりませんけど。そう考える理由は?』
『あぁ! はぁい! はぁい! 私わかったよぉ。音だねぇ』
腐ちゃんが元気よく話に割り込む。
『そそ。私が水面に叩きつけられた時、盛大に音がしたんだが、自分の音以外聞かなかったんだ。自分以外が水ぽちゃする時の音聞いた奴いる?』
沈黙が流れた。つまり、いないってことだね。
『で、どうすんのよこれ。とりあえず合流めざす?』
『あー。どうすっかな。集合できた方がよくはあるんだろうけど。全員、自分の居場所説明できるか?』
お姉ちゃんの質問にあたしは首をかしげる。
この場所の説明ってどうやるんだろうね?
暗い場所の水辺。終わり。
マップを開いてみても、真っ暗な画面に自分の居場所のマークがついてるだけ。
それって他のみんなも同じ条件だよね。ただ、どの水たまりの水辺かが違うっていうだけで。
『あたしどこにいるの?』
『俺も自分の居場所がわからない組だよ! 一緒だねこはるちゅぁん!』
『私もわかんないぃ』
『わかりませんわ』
『もちろん私もわからない。よって、意識的に集合する案はこのさい捨てよう』
はーい。
『ここってなんだろうな? 地下ダンジョンなのか、地割れで生じた空間なのか――。わからんが、どこかに出口があるはずだ。そこで合流しよう』
『妥当ですわね。了解しましたわ』
お姉ちゃんが行動指針をさくっと決めてくれたから、それに従ってあたしも動き出す。
本当はランタンとか持ってないと足元も見えないくらいの暗さなんだろうけど、ぼんやりとだけど、あたし見えてるんだよね。
狼獣人だからかな。
獣人って恩恵多い気がする。犬の習性に体が反応しちゃうデメリットにさえ目をつぶれば。
そういえば、犬って鼻もいいんだよね? 狼も鼻いいとかないのかな?
とりあえずヒクヒクしてみよっかな。
っていうか、微妙に質の違う空気の流れがあるような。
は!
これって漫画なんかで見たことあるよ!
出口から新鮮な空気が入ってきてるから、それをたどれば出られるってやつでしょ!?