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27 変身ぴこぴこハンマー

 空さんの第2フィールドクリアを手伝った数日後。

 相変わらず人型に戻れないでいるあたしは、ギルドハウスのリビングで空さんの頭に噛みついた。


「アオーン」(空さんがあたしを狼の姿にしたんだからさ、もとの姿にも戻せるよね?)

「そんな言われてもなー。ん~」


 空さんがぼりぼりと頬をかく。


「俺にも責任あるのかしらと思って、色々考えてみたわけよ。でさ」


 空さんがショッ○ーを模ったようなバッジを取り出す。それを胸元につけたら、


「ィー」


 グレースカムバックGTRショッ○ーさんに変身していた。


「うわぁ、空ぁ。なにその変身アイテムぅ」


 腐ちゃんが目を輝かす。


「ィー」(気付いたらインベントリに変身バッジが増えてたんだっぺよ。第2フィールドで怪人変身マシーンを通った時に貰えたんじゃねーっぺかな?)

「まじでぇ? ちょっと欲しいかもそれぇ」

「ィー」(ぉ。なら今度、みんなでショッ○ーになりに行こうっぺ。全員で変身して悪の組織ごっこしようっぺ)

「コスプレ祭りだねぇ!」

「ィー」(女子の全身タイツ姿が拝める機会到来な予感がして、テンションあがるっぺな!)


 喋ってる2人の周囲の空気が濁りに濁っているような気が。

 てか、その、欲望全開の話は今はいいから、あたしが人型に戻る方法!

 尻尾で空さんの背中をバシバシ叩いた。


「ィー」(ぁー。そうだったっぺね。この姿に変身すると、こはるちゃんを狼型に変える〈スッパシウム光線〉はいつでも使えるみたいなのよ。でも、人型に変えるスキルは見当たらねーんだっぺよ。レベル不足か、もともと実装されていないのか、イベントで解放されるタイプなのか。だっぺ)

「アオーン」(そんなぁ)


 あたしの耳と尻尾がしなだれる。

 もともと低かったテンションがさらにダウンだよ。

 こういう時はあれだよね。カフェインと美味しい食べ物。


 あたしはペット用ドアを通ってサン=ジェルマンさんの部屋に侵入した。

 このペット用ドアさ、お姉ちゃんが(サン=ジェルマンさんに許可を取らずに)作って付けてくれたんだ。

 おかげで、狼姿のあたしでも彼の部屋に行き来できる。


「アオーン」(メイドさーん。お茶が欲しいんだけど)

「ちょっとアンタ達、この子うちのメイドだって忘れてない!? NPC使い荒すぎない!?」


 ささやかに抵抗するサン=ジェルマンさん。そこにやってくる、変身を解いた空さんと腐ちゃん。


「まー硬いこと言うなって。袖振り合うも多少の縁って言うだろ?」

「正しいようで、言葉の使い方間違ってると思うワ」

「メイドちゃん~、オロGちょうだいぃ」

「俺、コーヒーブラックで」

「アオーン」(いろはず――)

「こはる様は犬用ミルクでございますね」


 またかっ! ガーン!!

 サン=ジェルマンさんの部屋の机に、メイドさんがあたし達の飲み物をささっと用意していってくれる。


「ちょっとアンタ達うちでくつろぐ気!? メイドこき使うだけじゃないの!?」

「たまにはいいじゃんよ。オッサンもたまには大人数で騒ぎたいだろ?」

「アタシは乙女! ふざけてんじゃねーぞ小僧」


 あー。今日もうちのギルドは平和ですね~。何ゆえかあたしには犬用ミルクしか提供されてこないだけで。シクシク。


「ところでアナタ達。最近クエスト進めてないみたいじゃないの。せっかく鍵をあげたのに」


 優雅に紅茶をすすりながらサン=ジェルマンさんが言ってきた。


「アオーン」(そりゃあたし達だって進めたいけど。それより、あたしが人型に戻れないのが問題っていうか)

「狼獣人がこはるちゃんだけなのもあると思うんだけどぉ、戻るためのヒントすら転がってないんだよねぇ」

「そういえば、そこのおチビさん、犬っころの姿のままね」


 狼です!


「ていうか、アナタ達、クエストにイレギュラー持ち込みすぎなのよ。本当は変身スキル絡みのクエストは別に用意されているんだけど、なんだってわけのわからない絡まり方してるのかしら。上に、クエスト交差が起きないように報告あげておいた方がいいのかしらねぇ」


 そうだよねぇ。バグ案件は報告が大切だよねぇ。

 って、待ってよ。


「アオーン」(変身スキルってあるの?)

「あるわよ。他の獣人だって持ってるでしょ? 狼獣人にも専用のスキル取得クエストが用意されてるわ」

「アオーン!」(そのクエ教えてぇええ! っていうか、とりあえず元の姿に戻せるなら戻してぇええ!)

「あ、ちょっと犬っこ! ミルクまみれの舌で顔ベロベロしないで、うぇぇえっ、ぺっぺっ」


 サン=ジェルマンさんがあたしの首根っこを掴んでぺいっと投げた。

 さすがあたし、華麗に着地。

 こんな扱いにあたし負けない。

 サン=ジェルマンさんがあたしを人型に戻してくれるまで、顔を舐めまくってミルクでベタベタにしてくれる。


「やめて! ミルクパックやミルク風呂は好きだけど、唾液まみれのミルクなんて御免よ! ほら、これをあげるから! 一時しのぎにはなるでしょ」


 サン=ジェルマンさんがピコピコハンマーを取り出して、隣に座っていた空さんに押しつけた。


「なんだこれ?」

「ハンマーの太陽マークのついている方で、その犬っこを叩けば人型に戻るわよ。逆の、三日月マークの方で叩くと獣型になるから、間違わないようにするのね」

「ほほう」


 そそくさと空さんがやってきて、あたしをピコッと叩いてくれる。

 ぼふんという効果音と共に煙がもくもくして、あたし、無事に人型に戻れました!

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