26 本日の天気:放置プレイのち脅迫
回復を失った工場長があまりに弱くて、あたし達4人、ポカンとなった。
巨大化してゴリマッチョショッ○ーぽくなっていた工場長が元の姿に戻って、メソメソと泣いている。
「あなた達、私が弱すぎると思っているんでしょう? 仕方ないじゃないですか。私は本当はただの詐欺師。見た目だけ強そうに装って、案内員の回復だよりだったんですから」
案内員の姿に戻ったピンクショッ○ーさんが工場長によりそう。
工場長が案内員さんを申し訳なさそうに見た。
「案内員、君もこんな私に付き合うのはコリゴリだろう?」
「いいえ工場長。コリゴリだなんて思っていたら、こんなに長くあなたと共に闘ってなどおりません。私は何があってもあなたのお傍に」
ちょっと待って。
なんかおかしな空気が流れてきたんだけど。
ほのかに薔薇色の空気って、どんな時に遭遇するものだっけ?
「本当かい案内員! 私も君とは末長く共にありたいと思っていた。良ければ結婚してくれないか?」
「ああ工場長! その言葉を待っていました!」
見つめ合う2人。
なにこの空気。てかなにこの急展開。
明らかにおかしな空気の発生源の2人はしっかと抱きあって、あたし達に笑顔を向けてくる。
「ありがとう見学者達。君たちと戦えたおかげで、私たちは絆を深めあい、真実の愛に目覚めることができた。よければ式にも参列して欲しい」
「お待ちしておりますね」
あははは。うふふふ。
頭から花を撒き散らしている2人は腕を組み合って、いつの間にやら現れていたワープポイントに消えていった。
あれが第3フィールドへのワープポイントなんだろうね。
「なんだあれ」
「安い寸劇を見せられた気分ですわ」
「同性カップルでやって欲しいのぉ」
「アオーン」(見てるだけでお腹いっぱいだよ~)
溜息しか出ない。
愚痴がグチグチだよ。
しばらくして、みんなの視線があたしに集まった。
「こはるちゃんさぁ、ヒトの姿に戻らないのぉ?」
え?
あれ?
そういえば、あたし、狼の格好のまんまだね。
えとー。
「ア、アオーン?」(どうすれば戻れるの?)
流れる沈黙。
ヒト型に戻れる方法を知る人物は……いない!?
ドンドンドンドン!
沈黙を破ったのは出入り口のドアを叩く音だった。
『お前たち、攻略終わったなら早く俺とPT組みなおして、その部屋出て、ここまで戻ってきてボス攻略手伝ってくれよ~。そろそろ待ちくたびれてきたぞー』
待ちくたびれる原因を自分で作った男が何か言っている。
「わたくし提案があるのですけれど」
ドアへと姫様が冷めた視線を送った。
「このままワープポイントから外に出て、それで今日は解散。空は放置でいいと思いませんこと?」
「賛成だ」
「異議なしだよぉ~」
オネーサマ方3人がうなずいた。
「でもさぁ、空のことだからぁ、途中で放置されてることに気付いてぇ、放置プレイもたまらん! って喜びそうだよねぇ」
「それは仕方ない。勝手に飴と受け取ってくれるならそれでいいだろ。win-winっていうやつだ。私はもう疲れた。こはるの変身のこともあるしな」
「同じくですわ。とりあえず帰還して、わんこの変身解除の方法を探しましょ」
「アオーン」(はぁ~い)
気持ち小声で会話して、みんなでワープポイントに入る。
無事ギルドハウスに戻りついた。
もうさ、肉体的にも精神的にも疲れちゃって、みんなしてリビングのソファにダイブ。
「メイド、茶」
お姉ちゃんはその前にサン=ジェルマンさんの部屋に首を突っ込んで、メイドさんにお願いをしていた。
ささっとメイドさんがリビングに移動してくる。
「ご要望はおありですか?」
「コーラくれ。冷えたやつな。ポテトもついているとなおいい」
「わたくしはアールグレイのミルクティを。スコーン、つけていただけます?」
「栄養ドリンクぅ。カロリーメイドブロックのチョコ味がついてくると嬉しいぃ」
あんたら何の遠慮もなく注文してるね!
「アオーン」(いろはずピーチ味……)
「こはる様には犬用ミルクと犬まっしぐらをご用意いたしますね」
あたしだけ希望通らず! ガーン!!
そんな残念なことはあったけれど、とりあえずあたし達は休憩を手に入れた。
落ち着く空間でのお茶って素敵。
だったんだけど。
『ははっ。お前たちそろそろ休憩も十分な頃だろう? 俺のところに戻ってきてくれていいのよ?』
空さんからギルチャが飛んできた。
普通にみんな無視なんだけど、空さんがギャーギャーうるさい。
『デキる男な俺は気付いているぞ! お前たちの居場所、ギルドハウスって表示されてるからな! そうやって俺を放置プレイして楽しませてくれているんだろ!? ああ、俺は今、嬉しさのあまり昇天してしまいそうだ! だがしかし、1人だけ仲間はずれというのは寂しいんです。お願いします戻ってきて助けてください』
「……」
『手伝ってくれないと、全員のリアルを暴いて、リアルアドレスに毎日100通以上メール送りつけてストーキングしてやるぞ! ちなみに楽しそうで俺得企画だから、積極的に無視してもらってもいいかなと思っている!』
ダンッ!
お姉ちゃん、姫様、腐ちゃんが飲み物を机に叩きつけた。
「あの変態。どうやっても迷惑しか持ち込んでこんぞ!」
「もうさっさと終わらせてしまいましょう。空のクエが終わるまでこんなに騒がれては、うるさくてかないませんわ」
「こはるちゃん~、人型に戻るの後回しになっちゃうけどぉ、ごめんねぇ」
「アオーン」
ブツブツ言いながら空さんをPTに回収して、全員でクエスト第2フィールドに戻る。
空さんのクエストクリアをすぐに手伝ってあげたあたし達、優しすぎる。