24 砂漠の一粒
「空ってさぁ、〈沈黙無効〉じゃなかったっけぇ?」
腐ちゃんの作りだした火柱が空さんを包む。
その火柱の中で、あたしと空さんは噛んだり殴ったりの肉弾戦中。
空さんは焦げてるんだけど、腐ちゃんと同じPTのあたしはノーダメージ。空さんとの肉弾戦でもらっちゃうダメージは、姫様が回復してくれている。
「〈沈黙〉と〈麻痺〉は無効のハズですわよ。ヘイト管理スキルを使えなくなっては困りますから」
「それにだ。私以外に〈沈黙〉の状態異常付与スキル持ってる奴いたか?」
お姉ちゃんの質問に姫様と腐ちゃんが首を横にふる。
あたしは尻尾をたてた。
「ア、アオーン」(こっそりここに……)
みんなの視線があたしに集まる。
「アオーン」(レベルが上がって取れた攻撃スキルの中に、状態異常付与牙があって~。試し使いしてたと言いますか)
そうなんだよね。
レベルが上がって色んなスキルを取れたんだけど、いかんせん、普段のあたしは人型。
牙系のスキルは狼型じゃないと使えないと知ったのは、スキルポイントを割り振った後だったっていうね。
それで、牙での攻撃スキルは今の今まで眠ったままだったんだけど。
不幸中の幸い。あたし、今、狼型なんで!
これ幸いと、噛みつきで使えるスキルを使ってみてたんだ。
麻痺牙、毒牙、魅了牙、沈黙牙。普通の噛みつきと、ここら辺のスキルをぐーるぐる。
「状態異常付与スキルはわかりましたけど、耐性無視が説明できませんわよ」
「アオーン」(ぁー……)
それにもそこはかとなく心当たりが。
面白そうだからって理由だけで取った選択制種族スキルの中に、耐性無視してくるものがあった気がするんだよね。
あ、これこれ。
〈砂漠の一粒〉:
バッドステータス無効の相手にでも、超低確率でバッドステータスを付与できる。
どのスキルを取るか、wikiの職業スキルページを見ながら悩んでたんだけど、このスキル、wikiに載ってなくてさ。
狼獣人専用スキルかもと思った&専用ってステータスに釣られて取ったんだよね。
限定とか専用って言葉に弱い性格が役にたった!
「なんか、あてにするには心もとないスキルだな」
「超低確率だとぉ、確実性がないもんねぇ」
「ですけど、今だけはわんこを褒めねばなりませんわね。よくそのスキルを入手していましたわ。そして、よくその超低確率を〈沈黙〉で引き当てましたわ」
喋っている間にターゲット設定が自由にできるようになった。空さんの〈沈黙〉はまだ継続中みたい。
自由に攻撃対象を選べるようになった、お姉ちゃん、腐ちゃん、姫様が走りだした。
フィールドの端っこで大爆発が起きる。
「ようやく私たちのターンが来たわけだ」
「今のうちに、相手のヒーラーを潰しませんと」
「タゲさえ動かせればこっちのものぉ。まとめて狩りとるのは得意だからぁ」
ガガガガガガ、どかーんどかーん、ガガガガガガ、どかーんどかーん
うわぁ。なんか地獄絵図。
あたしも今のうちに元工場長とか元案内嬢さんのタゲ取りに動いた方がいいのかな?
でもでも。
空さんにカミカミを続けて、またバッドステータス付与するタイミングを引く方が、今の場合は有効な気がする。
うん。
空さんに噛みつき続けることにします!
姫様がたまに回復飛ばしてくれてるしね。あたしは同じ場所にいる方が、姫様があたしを探すのが楽そう。
「ィー!」(はっ! ようやく喋れるようになったっぺ! これでこっちのもんだっぺよ! くらえ〈タウ――)
ガブリ。
空さんの動きが止まった! あ、今度は〈麻痺〉がついてる。
超低確率でも、数打てばけっこう当たるね。
ガガガガガガ、どかーんどかーん、ガガガガガガ、どかーんどかーん
続行地獄絵図。
「ィー!」(またまた復活の俺! 今度こそ俺のターンだっぺ!! 〈タウントぉおおお〉)
空さんの声がフィールドに響く。
走りまわっていたお姉ちゃん達がピタリと止まって、空さんの方を向いた。
けど、その顔は笑顔だ。
「ははっ。お前のところのヒーラーはあらかた死んでると思うぞ。フィールド全体に攻撃をばら撒いたからな。ヒーラーは紙だから、ほとんど死んでるだろ」
「やったね空ぁ。心おきなく逝けるよぉ」
笑顔のお姉ちゃんと腐ちゃんから強烈な攻撃が飛んでくる。
あはっ。
凄く怖いんだけどさ、ちょっと前までもこの状態だったわけで、なんか慣れちゃった。
周囲に広がる攻撃エフェクトは無視して空さんをガジガジ。
空さんのHPゲージがガンガン削れていく。
たまに削れ方がゆるくなるのは、相手のヒーラーさんが残ってて回復入れてるからなんだろうね。でも、回復するには至ってないっていう。
いよいよ空さんのHPの残りもちょびっとになってきた。
「ィー」(ああ、そんなに激しく責められ続けるとイ――)
「黙って死ね」
お姉ちゃんの冷徹な一言と共に打ち込まれた弾がとどめになって、空さんが倒れた。
お亡くなりになった空さんは泡になって、第2フィールド入口の方へ流れていく。
グッバイ、グレースカムバックGTRさん。
早くまともになって戻ってきて、敵から殴られるポジションに入ってよ。
……って。あ。
「アオーン」(ねぇねぇ。思ったんだけど)
「なんだ?」
「アオーン」(空さんさ、今、PT分かれちゃってるじゃん? これ、クエスト進行同じPTだってみなされるのかな? 別PTって認識されるのかな?)
「……」
質問をしたとたんに、オネーサマ方の間に重い空気が満ちた。
「今からでもPTに回収すれば……って、駄目か。IDでのボス戦中はPT組み直し不可って出やがる」
「違うPTだと認識されていても、ボスを倒すまでに、このボスに空も1撃でも攻撃を加えていれば、戦闘参加していたとカウントされてくれませんかしら?」
「微妙ぅ」
「まぁでも、とりあえず試してみるか」
『あー。空、とっととボス部屋に戻ってこい。30秒以内な』
ギルドチャットで空さんに指示が飛ぶ。居場所が遠いからね。
『30秒!? そんなご無体な!! 間に合ったら全員にチッスしてもらう権利を要求する!』
返ってくるのはいつもの緊張感のない話題。
「だっぺ」って言葉がなくなってるから、怪人じゃなくなったんだろうね。
けど。
『あー。あれだ。工場長室、入れないみたい。先客がいるからちょっと待てって鍵かかってるわ』
ちょっとぉおおお!