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23 さらなる高み、目指しちゃう?

「ィー!」


 空さん含め、怪人達が甲高い声をあげる。

 一際大きな声を出していた空さんの背中のしょぼい羽がキラキラ光りだした。

 あ、これ面倒なやつだ。あたしのしょぼい記憶力でも覚えてる。


「ィーっ!」


 空さんの雄叫びと同時にスキル発動。

 敵さんみんなに防御力アップの強化魔法バフがかかった。


「……」


 ボス攻略の面倒くささが増して、あたし達のテンションが一気に下がる。センパイ方からは不穏な空気まで漏れ出てきた。


「空、お座りだ」


 ドスの効いたお姉ちゃんの言葉に従って空さんがその場に正座する。


「待てだよぉ。それ以上何かしたらぁ、空のフレンドの女の子達にあることないこと吹き込むよぉ」


 腐ちゃんの恐喝に空さんがビクっとした。それだけは勘弁してくださいというかのように、猛烈な勢いで首をぶんぶんと横に振る。


「ィー!」(それだけは勘弁して欲しいだっぺ。だがしかし、上官は絶対!)


 ぷるぷると震えながら空さんは手を動かす。どこかで見たようなL字を作って叫んだ。


「ィー!」(が、しかし、上官は絶対! 上官は絶対! 上官は絶対っっ!! 食らうだっぺ、スッパシウム光線!!)

「うきゃー!!」


 まばゆい光がクロスされた腕から放たれる。

 その光線はみごとにあたしに当たって、あたしの叫びと、ぼふんという気の抜ける音と、もくもくと立ちのぼる煙を生み出した。


 煙の晴れたそこに現れたのは、お久しぶり、狼姿のあたし!

 この姿を初めて見た腐ちゃんと姫様が目を丸くしていたから、悪い狼じゃないよと示すために、猫なで声を出しながらゴロゴロ懐いておいた。

 2人があごの下を撫でてくれて気持ちいい。

 ボス戦中なのはわかっているんだけど、もっと撫でてって腐ちゃんと姫様にすり寄ってしまうのは仕方ない。ほ、本能に勝てないだけだから。


「お前達、動物愛護するのは、あの馬鹿をシバいてからにしてくれないか?」


 この姿のあたしを以前に見てるお姉ちゃんは無反応。

 あたしのもふもふに夢中になっている女子2人に呆れた目線を向けつつも、空さんに毒をはじめとした弱体化デバフ弾を撃ち込んでいた。


「仕方ありませんわね。ですけど、あの空、非常に癇に障りますから、さっさと潰すのには賛成でしてよ」

「ナナが攻撃始めたせいでぇ、敵さんも動き出しちゃったしねぇ。殺られる前に殺るのが基本~」


 あたしを放した腐ちゃんと姫様も戦闘姿勢をとる。

 あご下なでなでが無くなって、あたしの耳と尻尾がへにょんとなった。

 そんなあたしをお姉ちゃんが睨んでる。

 すいません! こはる、即刻戦線復帰するであります!


 耳と尻尾をぴんと立てたあたしは空さんに頭からかじりついた。

 本当は工場長とか案内嬢のタゲをとりたいんだけど、〈タウント〉のせいで空さんからターゲット(タゲ)が移せないんだよね。


 横から後衛に飛んでくる攻撃は、なるべく避けてもらうか、姫様に回復丸投げするしかないっていう。


「ナナオ、わんこ、腐。空の抹殺に10分以上かかったら、後ほどMの世界に引きずり込んでさしあげてよ」


 姫様が怖いことをシレッと言ってくる。

 このギルドって女王様気質2人もいるの!?

 腐ちゃんはM化拒否の奇声をあげながら全体魔法を撒き散らしている。彼女が呼び出した真っ黒な雲から細い雨が降ってきて、敵さんみんなに継続ダメージを入れていっている。

 秒あたり、1匹あたりのダメージは小さいけど、広間全体での総ダメージ量は凄い数値になってそう。


「こはるぅぅうう! もっと本気で空をかじれええ!」

「アオーン!」(かじってるよ! むしろあご痛い)

「多少のあご痛がなんだ! 姫のお仕置きはヤバいんだぞ!? 開けちゃいけない世界の扉を開けちゃいそうになるんだぞ!!」

「ア、アオーン」


 開けちゃいけない扉を開けそうになる危険性の高いギルドですね。

 というか、そっちの世界、ちょっと見てみたいような見たくないような。


「邪念を抱くなぁあああっ!!」


 叫んだお姉ちゃんが攻撃特化状態アサルトモードになる。銃が猛烈な勢いで痛そうな弾を吐き出しはじめた。

 受けている空さんは防御ダウンとかの弱化デバフが既に鈴なりで、ダメージがいい感じに入るようになっている。


 あ、そういえば、お姉ちゃん、色んな弾使えるけど、攻撃特化状態アサルトモードになると攻撃スキルしか使えなくなるんだったっけ?

 前にチラッと言われたような。


 デバフの効果が切れる前に空さんとの決着をつけるつもりなのか、効果時間が切れる直前でモードを切り替えてデバフ上書きするのか。

 あたしより戦闘忙しそう。


 そんなことを考えている間にも空さんのHPは減っていく。

 あと3割。

 2割。

 3割。


 あれ? 残りHP増えましたよね、今。


「見た目同じなくせに、ヒーラーまで混ざってるのかよ、ショッ○ー」


 低い低い声でお姉ちゃんがぼやく。これは怒っている。とても。近寄らない方がいいレベルで。


「腐ぅ! 後ろのヒーラーどもまとめてどうにかしろ!! 私じゃどいつがヒーラーだかわからん!」

「無ぅ理ぃ。絶妙に範囲魔法の射程外から回復飛ばされてるみたいでぇ、空からタゲ外せないと強い魔法は打込めないぃ」

「クソハゲがぁああ!」


 ガガガガガ!

 お怒りのせいかお姉ちゃんの攻撃スピードが上がる。

 それに伴って空さんのHPは減るんだけど、たまにドカンと回復が入ってHP残量が増える。その繰り返しになり始めた。


 それでもあたしは空さんにかじりついてるだけなんだけど。


 ガジガジガジガジ。


「ィー」(この痛さ。癖になりそうだっぺ)

「空は元からドMぅ」

「ィー」(さらなる高みに昇れる日も近いだっぺ!)

「キモ」

「ィー! ィー! ィー!」


 空さんの嬌声が上がる。

 と、それが突然消えた。


 口は開いてる。でも声が出なくなったみたい。

 よくよく見てみたら、空さんに〈沈黙〉のバッドステータスが付いていた。


 それはつまり、今発動している〈タウント〉の効果が切れれば、あたし達のターゲッティングが自由になるというわけで。

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