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20 鞭と肉

 無事、あたし達は全員揃ってギルドハウスに帰還。

 そこにサン=ジェルマンさんが寄ってきた。


「どうやら第1フィールドクリア出来たみたいじゃない。まぁ、これくらい軽く通り過ぎてもらわないと困るんだけど」


 そうして、口元に小指を添え馬鹿笑いする。

 そんな彼の胸ぐらをお姉ちゃんが掴んだ。


「おいサン=ジェルマン。お前あといくつか鍵持ってるだろ? 今すぐ全部出せ。問答無用で出せ。タダで出せ」

「は? ちょっと何言ってくれてるわけ? そんなこと聞けるわけないでしょ? NPCに暴力振るうプレイヤーがいるって運営に訴えるわよ」

「暴力じゃない。お願いと調教だ」


 お姉ちゃんがサン=ジェルマンさんを押しやる。その先には空さんがいて、押しやられてきたNPC氏を捕まえていた。

 お姉ちゃんの手には教鞭が、姫様の手には長い鞭が、腐ちゃんの手には薄い本が握られる。

 ペチペチと、お姉ちゃんが手の平を教鞭で軽く叩いた。


「知ってるかサン=ジェルマン? 人様の家に間借りすると家賃というものが発生する。ちなみにうちのギルドでは、1日に100t(テラ)金請求している」

「1日100t金ですって!?」


 サン=ジェルマンさんの目が飛び出た。いや、ほんとに。

 ゲームの中では、数字を表すのに独特な表記をしたりするの。

 1,000ごとに数字を切って、省略した桁に対応する単位に置き換えるっていえばいいのかな。


 1,000だったら1k(キロ)

 1,000,000だったら1g(ギガ)

 1,000,000,000だったら1m(メガ)

 1,000,000,000,000だったら1t(テラ)


 って感じ。

 その法則に従って100tを普通の単位にすると、えーと、100兆だね。

 いくらゲーム中でもべらぼうな値段な気がする。そりゃあサン=ジェルマンさんの目も飛び出るよ。


「お前がうちに居座りだして何日だっけ? まだ1日も払ってないよな。家賃」


 お姉ちゃんの教鞭がサン=ジェルマンさんの頬をペチペチと叩く。


「そんなお金出せるはずがないでしょう!? ほいほいとそんだけ流通額を増やしたら、ゲーム内でインフレ起こすし!」

「そうですわね。ですから優しいわたくし達は、お金以外での家賃の支払いも認めておりますわよ」

「あのダンジョンの攻略情報と進むための鍵を全部出せばぁ、チャラにしてあげるよぉ」


 ひええ。姫様と腐ちゃんまで加わって恐喝が始まっちゃった。

 これって、良い子は真似しないでネ☆ってやつだよね。


 えーと。

 えーと。


 しばらくお待ちください。

 挿絵(By みてみん)





 ◉◉◉



 どうも、あたしです。元気に錬金中です!

 え? なんでクエスト攻略じゃなくて錬金してんだって?


 それはあれだよ。サン=ジェルマンさんから鍵を貰うため。


 鍵よこせよ〜ってお願いしてたら運営から警告が入っちゃって。正攻法と思われる方法できちんと攻略中なんだよね。


 鍵を貰える条件があたしの錬金レベルなんじゃないかと予想したあたし達。

 ひとまず、あたしの錬金レベルを上げてみた。

 そしたらレベル15になった時貰えたし、〈第二の鍵〉。

 その次に貰えたのはレベル35の時の〈第三の鍵〉。

 今52まではなってるんだけど、まだあるのかな、鍵。


「飽きた」


 調合ほやほやの上級ポーションをギルド倉庫に放り込みながら、あたしはぼやいた。


 だってさ。

 鍵のためと言ってさ。

 毎日毎日毎日毎日、ログインしている間中錬金なんだもん!


 そりゃあさ、このゲームを始めた理由は錬金の真似事をしたいからだったよ!?

 でも、材料を全部提供されて、ひたすらに釜を混ぜてるだけって違うよね!?

 大好きなチ○ンラーメンも3食続くと飽きるのと同じだよ!


「あたしだけ留守番ってもう嫌だよ! みんなだけレアモンスに遭遇したりで楽しそうでズルい! あたしも冒険したい! モンスターがじがじしたい! あぉーん!」


 床に転がって手足をばたばた、ついでに尻尾もばたばたさせる。

 そんなあたしの横を素通りして、お姉ちゃんが調合釜の前に立った。素材をいくつか釜に投げ込んで混ぜ始める。

 しばらくしたら金の煙が釜から上がりだして、ぽんっと音がした後は、釜から光が溢れていた。


 釜に手を突っ込んだお姉ちゃんがまばゆい骨つき肉をとりだす。

 ま、まぶしい!

 しかも猛烈に食欲を刺激してくれて、食べたい欲求が止まらない! 尻尾ぶんぶんが止まらない!


 そんなあたしの方にお姉ちゃんは来て、手にしたそれを差しだしてきた。


「ずっと錬金のレベル上げ頑張ってたからな。ご褒美だ」


 おぉぉおおお。あなたは女神か。中身男だけど。

 差しだされた肉をあたしは恭しく受けとる。


「ナナオの鞭と飴の犠牲者がまた出てしまったようですわね」

「空なんてぇ、もはや飴無しでも奴隷ぃ」

「俺にとっては、もはや鞭すら飴に感じられるからな」

「安上がりぃ」


 周囲のギルメンのみんなのお喋りをあたしは右から左。

 今はともかくお肉だよ! さっそくかぶりつこうとした。

 けれど、目に飛び込んできてしまったアイテム説明の文字。


 ――。

 これ、ドーピングアイテムなんだけど。

 短時間だけど、全ステータスがおかしなレベルで引き上げられるみたいなんだけど。


 いますぐ食べたい気持ちをぐっとこらえて、あたしはお肉をインベントリにしまいこんだ。


「待ても出来るわんこだなんて、芸達者ですわね」


 いや、あたし中身人間だからね?

 そういえば、姫様、あたしのことずっとわんこって呼んでるよね? 中身人間以前に、あたし狼の獣人だからね? そりゃ自分でも犬みたいだなって思ってるケド。


「まぁいい。こはるにずっと調合させるのもそろそろ限界だろうし。気分転換にクエを進めに行くか」


 お姉ちゃんの提案に、興奮したあたしの尻尾がピンと立った。

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