19 開いたゴマ
説明しよう!
一般的なクエストアイテムは、そのクエストに関連するサブクエスト、もしくは、そのアイテムが必要な同一フィールドで入手できるものである!
たまに例外もあるけど。
「この建物に入るには鍵が必要なんだろう。私もそう思う。だが動くには早い。鍵が入手できそうな条件を全部洗い出してみて、一番可能性が高そうなものから潰していくのがいいと思う」
周囲のモンスターを処理しながらお姉ちゃんが言った。
「ちなみに私は、この大量の雑魚から確率でドロップも有り得ると思っている」
「こっそりボスがいて、そいつが持ってたりしてな〜」
「その可能性もありますわね」
「盗賊の鍵開けで簡単に開いたりぃ? てかぁ、魔法の〈開錠〉で開かないかなぁ?」
思い付いた案を試してみたいのか、腐ちゃんが門の方に薄い本を向ける。
「開け〜ゴマぁ! 〈開錠〉ぅ!」
腐ちゃんは魔法を唱えた!
しかし何も起こらなかった!
腐ちゃんは泣きながら戦闘に戻って攻撃魔法を炸裂させる。魔法不発の鬱憤を晴らしているかのように、魔法の炎がモンスターを襲った。
「鍵を得るための別クエストがある可能性もありますわね。もしくは、あの、サン=ジェルマンとかいう怪しい彼が持っているとか」
「どれも可能性がありそうで切り捨てられんな」
お姉ちゃんが渋い顔になる。それは彼女に限った話ではなくて、全員、う〜んという空気になった。
そこで空気を読まないのがあたしといいますか。
「そういえば、ちょっと前に、サン=ジェルマンさんからよくわからない鍵貰ったよ」
ぽんと思い出して、インベントリから〈第1の鍵〉とかいう謎アイテムを取り出した。
全員が鍵を凝視する。
「こはる、いつの間に」
「んとね〜。錬金レベルが5になった時にお祝いにくれた〜。まぁ違うだろうけど」
ものは試しとあたしは鍵穴に鍵を突っ込む。
むむ?
なんかジャストで入ったような気が。
ちょっと回してみたら、すんなり回ってガチャンって音が。
開きましたけど、扉。
「うそぉお、当たりぃ!?」
「なんだそのビギナーズラック!?」
「いいから早く中に動こうよぉ」
開いた門からあたし達は塀の内側の庭になだれ込む。塀が境界になっているようで、モンスター達は追いかけてこない。
「ナイスこはる。万歳ビギナーズラック」
疲れたようにお姉ちゃんがつぶやいた。
ここなら安全ぽいから、各々座り込んで休憩をとる。
「つかその鍵、こはるちゃんの錬金レベルが5になった時に貰えたんだっけ? 貰える条件に錬金レベルが関係してそうだけど、他の条件なんだろうね?」
「錬金レベルだけならナナオでも良さそうですものね。カンストですし」
「金の亡者にはくれないとかぁ?」
「金の亡者言うな。金銭感覚がしっかりしてると言え」
わいのわいのとお喋りが始まる。あたしは〈第1の鍵〉を眺めてみた。
〈第1の鍵〉
【特殊クエスト(ギルド)】背徳の薔薇が絡みしは栄光の十字 を発生させている狼獣人の錬金レベルが5になった時にサン=ジェルマンから贈られる鍵。
そんなアイテム説明がついている。
んん?
この鍵入手できるのって、狼獣人だけなんじゃないの?
「ねぇねぇ、みんなこの鍵見てよ」
あたしは鍵をみんなの前に掲げた。
みんなの視線が鍵に集まる。一瞬後にはげんなりとした表情になった。
「どこまでもこはる専用アイテムだな」
「これあれじゃね? 狼獣人実装に付随する専用クエ」
「っぽいねぇ。狼獣人になれたのこはるちゃん1人で締め切っちゃったみたいだしぃ、不具合がないか私達でテストしてたりしてねぇ」
「それでしたら見事な限定クエストですわね。クリアできた暁には、掲示板ででも下々の者達に自慢しませんと」
「嫉妬の炎が凄そうだね」
「オホホ。人からの嫉妬は心地よいですわ。女として磨きがかかりましてよ」
いずこかの悪女のように姫様が高飛車に笑う。口元を扇で隠す程度はしていたけど。
「にしてもこれ、たまたまこはるちゃんが錬金に興味持ってたから良かったけど、興味0だったら詰みだったんじゃね?」
「だねぇ。サン=ジェルマンだけじゃなくてクエまでトリッキー過ぎぃ」
「あいつ、これくれた時に何か言ってなかったか?」
「何か?」
んとーと、あたしは考える。
「錬金レベルが上がったらまた何かくれるとか言ってたよーな?」
「この鍵、第1ってなってるし、まだありそうだよな」
「だなぁ。しかも鍵の入手に関しては、こはるの錬金レベル依存説が濃厚か」
みんなの視線があたしに集まる。
「ここから出たら、わんこはひたすらに錬金レベル上げですわね。途中で詰まらないように、わたくし達も材料調達に励みませんと」
「つーか、あいつなんで錬金なんて絡めてきやがったし」
「サン=ジェルマン~、世紀の錬金術師だったっていう説もあるよぉ。そのせいだと思うぅ」
「そんな隠し設定、普通は気付かんつーの」
面倒臭い攻略設定にあたし達の愚痴は尽きない。
本当は、クエスト設計した運営に不満申し上げるべきなんだろうけど。
不満の先がサン=ジェルマンさんになっちゃうのは、あのキャラが悪い。
「まー。不満は帰ってからあの変態にぶつけよう。そろそろ行くか」
お姉ちゃんが立ち上がった。あたし達も立ち上がる。
工場の外観をしている建物への入り口を探して玄関を開けてみた。幸いこっちに鍵はかかっていない。
で、その玄関扉の向こうにはワープポイントが見える。
「つまるところ、違うフィールドに飛ばされるのか」
言いながら空さんが片手だけワープポイントに突っ込んだ。で、後ろを振り返る。
「進行状況記録できるみたいよ。それに、ギルドハウスにも戻れるってよ」
「え? そうなの?」
みんなわらわらと集まってきて、空さんを押し退けて片手をワープポイントに突っ込む。
第1フィールドクリアポイントへの到達を記録しました。次回からこの地点から開始できます。
ダンジョンから脱出もできます。
どうしますか?
▶第2フィールドへ進む。
脱出する。
こんな選択が上がってきた。
なんとなくみんなで顔を見合わせて脱出を選択する。
いや、帰るでしょ。
だって、この先のフィールドでも絶対鍵を要求されるし。
サン=ジェルマンさんからきちんと貰っておく方が、無駄がなくていいよね。