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18 ただの門のようだ

「聖天使ぬぇっ!」


 金髪縦ロールお嬢様の名を呼ぼうとして、あたしは噛んだ。


「姫でよろしくてよ。皆もそう呼びますし」


 姫様は私にちらっとだけ視線を向けて、すぐに手元をいじる作業に戻る。お姉ちゃんが行くよって勝手に宣言したクエストを確認しているみたい。


「この、背徳の薔薇が絡みしは栄光の十字ってクエ、誰かもう行ってみましたの?」

「私と空とこはるで覗いてきた。クエエリアに入ってすぐそこからモンスの巣窟だな」


 インベントリや装備を整えながらお姉ちゃんがクエストの説明をしていく。


「敵のLvは?」

「80~120くらいだったと思う」

「そのレベルのモンスターを大量に空に集めるとなると、被ダメも大きそうですわね。MP回復薬(エーテル)を多目に用意しておくのが安全ですかしら」

「姫様神官(クレリック)なんだ? 空さんが愛してやまない回復職ヒーラーさんだね」

「そうですわよ。わたくしはPTの生命線。難しいクエストでは特にですわね。ですから、普段からわたくしを敬い奉っておくとよろしくてよ」


 いと高貴な人っぽい物言いが返ってくる。

 ただの偉そうな人じゃなくてレベルもきっちり150だから、あたしから見れば十分エライ人だ。

 てか、このギルドカンストしかいないの?


 なんて話をしていたら、空さんと腐ちゃんがハウスに帰ってきた。

 この2人、確か、あたしの錬金に使う材料集めに行ってくれてたんだよね。

 採ってきた物をギルド倉庫に放り込んで、今度はクエスト攻略の準備を始める。


 で、その場にいた5人、あたし、お姉ちゃん、姫様、腐ちゃん、空さんでPTを組んで、因縁のワープポイントにダイブ!


 前に来た時と同じで、あたし達は空中に投げ出された。

 前と違うのは、今回は覚悟と攻略準備があるってこと。あたしのレベルだって上がってるんだから。


「リベンジと行きますかね、うぉりゃあタウントォオオ」


 落下しつつ、ヘイトを高めるスキルを空さんが発動させる。

 足元にいるモンスター達の視線が空さんに集中した。ついでにわらわらと群れてくる。


 そんな、団子のようになった敵集団に腐ちゃんの範囲魔法が炸裂。一帯が炎の海になって敵のHPを削っていく。

 で、倒し切らなかった奴をあたしとお姉ちゃんで処理。

 姫様が回復し続けてくれているから、今回は空さんも元気。


「この構成なら余裕っぽいな」

「そりゃいいんだけどよ。これどっちに進めばいいわけ? 一面だだっ広い空間にしか見えないんだが」

「あー。確かにそうだな。腐、サン=ジェルマンに関する歴史とかで、このフィールドの攻略ヒントになりそうなもんとかないのか?」

「無いぃ。というかぁ、ここが意味のある空間なのかがまだ不明ぃ」

「んまぁ確かに」

「そこのわんこ。あなた、野生の勘で正解ルートとか嗅ぎつけられませんの?」


 姫様の一言で全員の視線があたしに向く。

 え? いや、待って。あたしこんな見た目だけどさ、中身人間だからね? 君ら忘れてるよね?


 と、主張してみたけれど、ビギナーズラック狙いであたしに決定権が押し付けられた。

 ぬ〜ん。

 困る。

 けど、動かないことにはどうしようもないから、とりあえず一方を指した。

 ワープポイントから0時の方向。(多分)北にゴーって奴だね!


 さぁ、進行方向が決まったら元気に前進あるのみ!

 立ちはだかる奴も、ちょっとそっぽ向いてる奴も、空さんのスキルで集めてまとめて抹殺していく。馬鹿みたいに効率良く狩るものだから、流入してくる経験値もお金も凄い!

 と、そこであたしは気付いた。


「ねぇ。ドロップアイテム1つも拾ってないんだけど、いいのかな?」


 モンスターを倒すのに夢中で、すっかり忘れていたと申しますか。

 レベル上がってからの錬金の材料に使えるやつとかあったら、もったいないよね。


「今頃気付いたのか? だが、心配することはないぞ」


 お姉ちゃんがにやりと笑った。そうして、腰のベルトに吊るしている拳大の水晶みたいな球を弾く。


「この〈全自動アイテム回収&分配くん〉が、ドロップアイテムは全て回収して、PTメンバーに均等分配していってくれている。だから、私達は、ひたすらに敵を倒して進めばokだ」

「ぉー、凄い! 便利!」


 あたしは拍手した。

 あれ? でも、そんな便利なもの持ってたなら、悪の組織で戦闘してた時もドロップアイテム拾う必要なかったんじゃないの?


「あの時は付けてなかった。これは、錬金レベルカンストで作れる一種のチート装備だからな。最初から楽を覚えるのはよくないし」


 なるほど〜。教育の一環っていうやつだね!

 うん、基礎は大事。


 そうこう喋りながらモンスターの海を切り崩していたら、視界の端っこくらいに建物の屋根らしきものが見えた。

 何なのか確認するためにあたしはモンスターの頭の上に乗って、さらにジャンプしてそれを凝視する。


「進行方向に何かあるよー。建物っぽいけど〜」

「その建物の周囲に敵は?」

「周囲はいない感じだけど、かなり近くまでモンスターだらけな感じ」

「休憩用の安全地帯かもしれませんわね。さすがにこれだけの雑魚を捌き続けるのは消耗が大きいですし」

「エーテル垂れ流しもいいところだよぅ。ドロップしょぼかったら運営に出来の悪いBL本送りつけてやるんだからぁ」

「それはなんだか精神的にダメージがきそうだな」


 相変わらず緩い空気のまま、見つけた建物の方に爆進する。

 けど、あたし達の移動が途中で止まった。


 建物の周囲は確かにモンスターがいない。

 けどそれは、塀があって、飛べないモンスターにはそこが飛び越えられないだけだった。

 おかげさまで、あたし達も入れないっていうか。

 身軽なあたしだけぴょーんと飛び越えてみようとしたら、見えない壁に阻まれたし。


「報告します! 上から飛び越えられません!」


 べちゃりと地面に落ちたあたしはとりあえず報告。

 みんなからは見てたらわかるみたいな視線が向けられてきたけど、誰もわざわざ言わなかったのは優しさかもしれない。


「つーか、入れない安地になんの意味があるんだ!? 探せ! 入り口があるはずだ!」


 お姉ちゃんの一声であたし達の進行ルートが変わる。塀をぐるっと回っていくみたいな感じに。

 そしたらね、おっきな門があったんだ。

 でも、開かないんだけど。

 空さん以外の全員で押しても引いてもスライドさせようとしても動かないんだけど。


「ひょっとして、わたくし達が進んできた方向とは別の方向に、ここの鍵があったりとかしませんわよね」


 ありそうすぎる姫様の指摘に、あたし達の間に沈黙が落ちた。

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