149 始まりの街制圧作戦の末
現在進行形で奇抜な建築物が増えていく。
えと~。
タマさんから貰えたスキルは、芸術性不明のオブジェを作り出すってものなのかな?
芸術がなんたるかを欠片も解さないあたしには、良さが全くわからないのが悲しいところ。
いや、悲しいかな?
今のところあんまり悲しくないから、ま、いーや。
ドドメ色の雨を降らせながらあたしは街中を走りまわる。
たまに尻尾をぶんぶんすると、豪快に人と建物が飛んだ。
これはこれで楽し~。
飛び跳ねすぎると頭の上で悲鳴があがって、そのあと苦情が飛んでくるけど、まぁ我慢してよ。
「ィー」(やべ、吐きそうな気がしてきたっぺ)
「ィー」(おいやめろここで吐くな! 全員密着状態で離れられないんだぞ!)
「ィー」(吐き気なんて気のせいなのぉ。VRの中で吐き気なんておかしいのぉ)
やめてー。
あたしの頭の上でリバースとかやめてー。
本気で。
よ~し。
こうなったら、空さんがリバースする前にあたしが始まりの街を完全制圧するよ!
タウント広範囲爆弾ドドメの雨裁きの光、一気に大放出!
どかんばかんしとしときゅいーん
「ぎゃーっっす!!!」
最初だけ叫び声が聞こえたけど、しばらくしたら建物が崩壊していく音しかしなくなった。
周囲に人影や建物が無くなったのを確認してあたしは前進する。
そのまま去るのはしのびなかったから、タマさんのスキルで芸術的おぶじぇを作っておいた。
そんなこんなであたし達は始まりの街を蹂躙していく。
いや~。
けっこう簡単にできちゃうものだね、街の制圧。
なんて、気楽に悪の組織ごっこを楽しんでいたあたし達。
そこに、運営からの通知がもたらされた。
緊急メンテナンスを行います。
10分後には強制ログアウトとなりますので、それまでに正規手順によりログアウトいただきますようご協力お願いいたします。
この文章が繰り返し流される。
「ィー」(これさぁ、メンテの原因私たちかなぁ?)
「ィー」(な、気がするな。他でシステムエラーが出てるだけかもしれんけど)
「ィー」(作戦中であるがやむをえぬな。いったんギルドハウスに戻るでござるか)
「ガオーン」(は~い)
あたしは進路を変更した。
ギルドハウス目指して走る。
ギルドハウスの近くまで来たらみんなを降ろして、あたしは変身を解除した。
みんなも怪人から普通の格好に戻る。
「あの獣本当にこはるだったわ」
「こはるちゃん~、あの変身どうやってとったのぉ? メンテ終わったら教えてよぉ」
「いいよ~」
わいわい言いながらあたし達はギルドハウスに入る。
始まりの街を蹂躙していたあたしだけど、ギルドハウスが建ってる地域には攻撃してないんだ。
「じゃ、またな~」
挨拶をしてそれぞれログアウト。
現実世界に戻ってきたあたしは、緊急メンテの詳細を知るために朱石のホームページを開いた。
けど残念。
緊急メンテをするよ、ごめんねってお知らせは出てるんだけど、メンテ内容の詳細は出ていない。
メンテ時間も今のところ未定だって。
あ、でも、それとは別に、メールが着てるって通知が出てるや。
なんだろ?
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to こはる様
from 朱石運営チーム
平素よりVermillion Stone をプレイしていただきありがとうございます。
さて、数か月前に実装させていただきました狼獣人ですが、種族としての強さバランスや専用クエストでバグがないか等、こはる様にプレイしていただくことでテストさせていただいておりました。
ご存じのとおり、このことに関してこはる様には通知をしておりません。
まずは、こはる様に内緒でプレイデータをテストに使わせていただいていたことを謝罪いたします。
ですが、おかげさまをもちまして、運営でテストプレイしただけでは出てこなかった問題点が見つかりました。
このデータをもとにブラッシュアップを行い、その後、狼獣人を正式導入したいと思っております。
貴重なデータをご提供いただきありがとうございました。
しかし、今回の始まりの街制圧は、ゲームを多くの人々に楽しんでいただくというコンセプトとはかけ離れ過ぎた事態になっていると運営では判断いたしました。
よって、始まりの街が攻撃される前への巻き戻しや、いくらかの修正作業を行います。
メンテ後、こはる様のジェヴォーダンの能力もログイン前といくぶん違ったものになると予想されますが、その点、御容赦くださいますようお願い申しあげます。
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ほぇ~。
あたしに実際狼獣人としてプレイさせて、そのデータとってたとか、ちょっとズボラなんじゃないですか、運営さん。
でも、そのおかげで、あたしとうちのギルドだけ、普通じゃ遊べないクエストなんかも楽しめてたわけで。
うん。
あたしには特に害はなかったし、美味しい思いだけできてオールオッケー。
「小春~、ごはんよー」
「はーい」
晩ご飯に呼ばれたあたしは自分の部屋を出て台所に向かう。
晩ご飯食べてお風呂入り終わったら、メンテ終わってるといいなぁ。
最後までお読みいただきありがとうございました。