147 みんなは1匹のために1匹はみんなのために
「マジか。あいつ、ギルメン全員食いやがったぞ」
「ジャスティスゼロがおかしいのはいつものことだけど、あれはないわー」
「あの狼っ子、ギルドの空気にまだ毒されてないだろうと思ってたけど。最後に入ったあいつが一番やばかったオチ」
あたしの周囲がざわついている。
(気にするな。雑魚の遠吠えだ)
いやジェヴォさん。
フォローされると、言われてる事が事実だって肯定されてるような気分になるんだけど。
まぁいいや。
雑音をかき消すようにあたしはひと吠え。
ガオーンと吠えれば、これまで以上に空気がビリビリと震えた。
あたしの足元で下々の人達が震えているのがよく見える。
空さんを食べたら、体がさらにガツンと大きくなったんだ~。
さすが体力おばけの空さんだよね。
「ガオーン」(どうせなら、みんな1度はあたしの餌になるのが平等だと思うんです!)
「そんな平等などいらん!!」
「やめろーーー」
まぁまぁ、そんなこと言わずに。
ああ。
そんなに逃げられると、ボールを追いかけるように追いたくなってしまうのが悲しい狼の習性。
あたしは逃げ回る人達を追いかけて片っ端から食べる。食べる。食べる。
そんなこんなで街中を駆けまわって遊んでいたあたしの前に、5つの影が立ちふさがった。
「ィー!」(止まれこはる!)
黄色いマントの全身黒タイツの怪人さんが大声を張り上げた。
なんとなくあたしは止まる。
「ィー」(良い子ですわね。そのままですわよ。わたくし達、今からあなたに登りますわ。あなたの希望していた、戦隊の隊員が乗れる巨大怪獣を完成させるために)
ほへ?
なんとなくお座りの姿勢になったあたしの足元に、怪人姿のお姉ちゃん達がへばりつく。
あ、登り始めた。
って。
わ、わ、わ。
あたしがおとなしくなった今がチャンスとばかりに周囲から攻撃が飛んできだしたし。
あたしに攻撃が当たってる間はいいけど、狼登りに必死で無防備なみんなに当たると危ないよね。
みんな、あたしに攻撃してきてよー。
そぉれ~、〈タウント〉~~~。
「ィー」(こはるちゃん、俺のスキルもモノにしちゃったんだっぺね。これで俺とこはるちゃんは一体だっぺね)
「ィー」(その繋がり意味がわからないのぉ)
「ィー」(スカイ以外誰もわからぬと思うでござるよ)
あたしの毛を掴みながらみんなはあたしを登る。
その間に、あたしは、腐ちゃんを〈捕食〉したことで使えるようになったスキルを使ってみよっと。
あたしを中心に、始まりの街上空に黒くて重い雲が湧き出てくる。
そこから雨が降ってきた。
てかこれ雨かな?
色が紫なんだけど。なんていうか、ドドメ色?
その液体に濡れた人達が、HPをゴリゴリ削られながら頭を抱えてのたうち始める。
「ぐぉおおお!!! 頭の中に望んでない卑猥映像がぁああ! いや、やめ。男同士はやめ……おえぇええええええ」
「ィー」(あの液体に濡れた人、地獄みたいですわね)
「ィー」(ドドメ殿の脳内ワールドに感染してるみたいなことを喚いているでござるな。拙者はくらいたくない技でござる)
「ィー」(同じくだっぺ)
「ィー」(ぇえぇ? 最高じゃん~? みんなで腐った世界を楽しもうぅ?)
みんながあたしの背中らへんまで到着。
そこで終わりじゃなくて、頭の上まで登るみたい。
おうけいおうけい、あたし、とっても巨大に育ったから!
怪人が5人くらい平気で頭の上に乗れちゃうよ!
さて、みんなが登り終わるまでに、あたしは他のスキルも試してみよっかな。
姫様からいただいたスキルはっと――。
試し使いしてみたら、真っ黒な雲を切り裂きながら何条もの光が空から降り注いできた。
「ぎゃーっす!!」
地上でのたうちまわっていた人達、その光に貫かれたら即お陀仏したし。
地面に貯まっていたドドメ色の液体も、光に貫かれると消えていく。
消えるというか、浄化?
「ィー」(光に当たって亡くなった方々、救われたみたいな顔で死んでいきましたわね)
「ィー」(ドドメワールドから解放されたんだから、そりゃ救いだろ)
「ィー」(拙者思うに、ドドメ殿もあの光に当たってくるのが良いでござるよ)
「ィー!」(やだぁ! 腐った世界とお別れするくらいならぁ、この世界を消すよぉ)
みんながあたしの頭の上、耳と耳の間に到着した。
えとー。
落ちないように気を付けてね?
って言う前から、あたしの頭の上でゴソゴソ何かしてるねあんたら。
たぶん、落ちないように体を固定してるとかなんだろうけど。
まぁいいや。
みんなのこざこざが終わるまで、あたしは自由気ままに周囲をせん滅してるね。
爆弾ぽーい、ドドメ色な液ぼたぼたー、光線ばしーん。
あ、頭上のみんなにタゲがいかないように、定期的に〈タウント〉も忘れない。
凄いねみんなの力!
とっても強いよ!
「ィー」(拙者に関するスキルが出てきてない気がするのでござるが)
「ィー」(ぁー。あるっぺよね~。委員長だけナチュラルに忘れられることって。みんなに配られてるはずのプリント1人だけ貰ってない的な)