146 自分から食べられたい人が出てきました
修行の結果(サン=ジェルマンさんを〈捕食〉しただけ)、あたしは自分の分身体を作れる能力を手に入れたのです!
といっても、このスキルって使うための消費が大きいんだよね。
分身体1匹につきHP1割持っていかれるし、MPの消費も大きいしで。
そのくせ、性能は、一切捕食していない状態のジェヴォーダンくらい。
行動を細かく操作はできない。けど、大まかな指示をしたら、それぞれで考えて動いてくれるって感じ。
「ガオーン」(それじゃミニあたし達、プレイヤーのみんなを極力逃がさないように囲い込みお願いね~)
「ギャオーン」
あたしより幾分高い鳴き声を返して、あたしの分身体ちゃん達は四方に散っていった。
街の外に外に逃げようとしていた人達が、あたしのいる方へと追い立てられてくる。
分身体ちゃん達、〈捕食〉はできないから。
それに気付いて、純粋に戦闘力が上回れば倒せる――んだけど、プレイヤーのみんな、そこまで頭が回らない感じだね。
分身体ちゃん達の働き、まずまずな感じかな。
雑魚プレイヤーさん達は分身体ちゃん達に任せてよさそう。
あたしは、空さんとかうちのギルメンのみんなを食べたいわけなのよ。
ジェヴォさんが、うちのギルメンがぶち抜けて強いって言ってるから!
あたしが分身体を生んでいる間に空さん全快しちゃってるね。
でも関係ないかな。
さっきの感じだと、一緒にゴロゴロちょっと遊べばすぐに〈捕食〉できそうな感じだったし。
姫様の全力ヒールが入っても、そんなに長持ちはしないと思う。
他のヒーラーさんまで空さんの回復に回られると面倒だけど。
「ガオーン」(空さん、次、あたしに食べられよっか?)
「ああこはるちゃん。俺、リアルのこはるちゃんにはすっごい食べられたいし食べたいんだけど、ゲームの中で食われるのはごめんこうむりたいというか」
「ガオーン」(遠慮しないでいいよ。ほら、いつもの調子で、あたしのお口の中に飛び込んできてよ)
あたしは大口をかぱっと開いた。
そこに空さんは飛び込んでこないで、遠距離攻撃ばっかりが飛んでくる。
むー。
口の中って微妙に弱点扱いなんだよね。
ダメージ受けやすくなるだけだから、大口開けるのはやめやめ。
ボールを追いかける犬のように、あたしは空さんに飛びかかった。
犬パンチ、犬パンチ、前足でていっ、てぃっ。
で、空さんと戯れるのに夢中とみせかけて、後衛さんのかたまっている地点まで一気にダッシュ。
間をおかず、ぽかんとして固まった後衛さんを片っ端から〈捕食〉した。
後衛さんって、攻撃力や回復力は高くても、防御力紙だからね。
普通にみんな〈捕食〉可能範疇です。
片っ端から〈捕食〉っていってもね、あたしだって多少は考えてる。
まずは、悪知恵が働いてやっかいなお姉ちゃんを食べた。
次に姫様。
最後に腐ちゃん。
一番の目的のこの3人を食べてから、他の方々をばくばくばくばくっ。
(良い。良いぞ。やはりヌシのギルメンは質が良い。くふふ。人でありながらスキルを獲得できる奴がいるとはな)
ほへ~?
スキルとれたんだ?
(あの、眼鏡の女がいただろう? あいつから〈爆弾乱舞〉というスキルがとれている。使ってみるか?)
そうだね~。
新しく手に入れたスキルは使ってみたいよね~。
あ、スキルスロットに〈爆弾乱舞〉持ってきてくれたんだ。ありがと。
それじゃ、いってみよっか、〈爆弾乱舞〉~~~。
あたしの体から毛が抜けた。
たぶん、何百本か。
1本1本が爆弾に変化して空中に浮かびあがる。
あたしの周りにいる人達に恐怖の表情が浮かんだ。
そこに、あたしは笑顔で爆弾ぽーい。
ていうか、発射って合図しただけなんだけど、それだけで、何百個もの爆弾があっちこっちに勝手に飛んでいった。
昔の戦争であった空襲とか、こんな感じだったのではないでしょうか。
建物にも爆弾が当たって、そこいら一帯が火事になってる。
NPCさんが建物から出てきてきゃーきゃー叫んでる。
お亡くなりしたプレイヤーさんもそれなりの数いたみたいで、大火事になってる街の中からふわふわ泡が空へと昇っていく光景、なんか綺麗~。
「こ、こはるちゃん。タマ男を食ったのはともかくとして、容赦なくみんないったね」
気付いたら空さんがあたしの近くに来ていた。
今の攻撃で空さんのHPも削れてるんだけど、死んでないあたりはさすが空さんかな。
でも空さん元気ないね。
こんなに近くにいるのに、あたしに攻撃してこないの?
ていうか、空さんあたしに1度も攻撃してきてないよね?
だって、あたしのタゲ、空さんに固定されてないもん。
「こはるちゃん。俺も食ってくれねーかな? 俺って兎さんだから、1人だけ残されるのって寂しいの」
そんな言われると、逆に食べたくない天邪鬼病が発症しそうなんですが。
とりあえず空さんは放置しとこう。
現在進行形で逃げようとしている人を〈捕食〉しにレッツゴー。
がぶがぶがぶがぶっ。
「酷いこはるちゃん! いや、放置プレイされてる感があるからちょっと嬉しいような気がしないでもないけど!?」
空さんがあたしの足にまとわりついてくる。
うわ、とっとっ、っと。
空さん蹴飛ばしちゃった。
危ない、危うく殺しそうだったよ。
空さんのHPもうミリじゃん。
「こはるちゃん、お願い。俺も仲間に入れて」
空さんが男泣きしだした。
(このまま放置すると知らぬ間に殺すぞ。奴を〈捕食〉できぬのは惜しいと思うがな)
あたしもそんな気がするよ。
仕方ないから、あたしは空さんを〈捕食〉した。
なんか、食べられる前の空さんが、めっちゃキモイ幸せそうな顔してたんだけど。