145 いきんで生まれたのは
お姉ちゃんから言われたこと。
”お姉ちゃん達のクエクリアのために、あたしが倒されろ”
あたしがお願いしたいこと。
”あたしがもっと強い狼になるために、みんなあたしに食べられよう?”
両陣営、お互いに言いたいことを言って睨み合う。
といっても、現状、冒険者さんグループの方から遠距離攻撃が飛んできて、あたしは回復してるだけだから、一方的に攻撃されてるだけとも言うね。
「ガオーン」(ちなみに。あたし、その、あたしを倒せクエの中身知らないんだけど、クリア報酬どんな感じ?)
「金だけだね。しょぼいよね。俺に愛するこはるちゃんを倒させるってのにさ」
「いや。あんな危険生物放置できねーし。報酬無しでも討伐してただろ。報酬出てくるだけマシ。シンゴ○ラだって無報酬だろあれ」
空さんに突っ込むかのように誰かが言葉を被せた。
「んだ」
周囲のみなさんが同意といった感じでうなずく。
人間、自分の生存を脅かされる事態になると、報酬度外視で頑張るみたいです。
けど、うちのギルメンのみんなにとって、今の状況は、生存を脅かされる状況にまではなってないと思うんだよね。
「ガオーン」(あのさぁ。お金だったらいつでも稼げるじゃん? それよりさ、戦隊に新しく強くてかわいい巨大ペットを迎え入れられる方が貴重なイベントじゃない? その巨大ペット、強くなれるなら強い方が良くない?)
とりあえず、うちのギルメンのみんなをあたし陣営に寝返らせる説得交渉だ!
え?
なんでギルチャでやらないんだって?
ジェヴォーダンに変身してる時って、ギルチャが使用不可みたいなんだよね。
みんなが喋ってるのもあたしには流れてこないの。
だから、他のギルドの人達に何を喋ってるのかバレるの覚悟で、オープンで交渉していくしかない。
「こはるちゃんは今のままでも十分強くてかわいいと思うよ!」
「どうかなぁ。あの姿はかわいいと逆ベクトル向いてると思うけどぉ」
「こはるが強くなるのには賛成だ! だが、私たちのクエクリアとは別問題。うちのギルメン以外を食って強くなれ。そして、最後は私たちに殺されろ」
「そうですわね。それなら両者願いが叶って良いですわね」
「おいいいいい!? 食べられる周囲はたまったものじゃないんですけど!?」
「諦めるでござる。他のギルドの者たちの犠牲、忘れないでござるよ」
「自分達以外は犠牲になるものって感覚で話進めないで!!」
おぉー。
人間さん陣営がなにやらもめてる。
(別に交渉などせずとも良いではないか。というか、我が見たところ、ヌシのギルメンが突出して強い。あれを食わぬなどもったいないぞ)
ええ?
でも~。
まぁいいや、あちらさんがもめてる間に、うちのギルメン以外は適当に食べよう。
人間陣営のみなさんの前線にあたしはジャンプ。
地響きで動けないでいる人達をぱっくんちょ。
(ヌシのギルメンだがな、彼らもしょせんデータだ。死んだら復活するだけのな。ギルメンであるヌシが強くなるための餌になれるのであれば、それは嬉しいのではないか?)
そんなものかなぁ?
(そんなものだ)
ん~。
まぁいいや。
ギルメンだけ選別して食べるって結構面倒だし、あとから怒られるの覚悟でみんな食べちゃおっか。
「おいあいつ、ダメージほとんど通らないくせに自己回復までしてるんだが!? 弱点とかないのかよ!?」
「ジャスティスゼロ、お前たちのギルメンだろ! どうにかしろ!!」
「いや~。ギルメンって言われても、あの姿のこはるちゃんは俺らも今日初めて見たっていうか」
「完全に隠れてトレーニングされていたでござるね。努力の姿を見せぬ姿勢、武士としては素晴らしい美徳でござる」
「美徳とかいいから弱点!!」
「というわけで、知らぬ」
「役立たず!!!」
前衛のみなさーん、喧嘩してる場合じゃないですよ~。
数人を除いて、ほとんどの人はHP満タンでも〈捕食〉可能対象ですからね~。
とりあえず、適当に〈捕食〉!
空さんとタマさんを巻き込んで〈捕食〉!
「こは――」
タマさんは無事〈捕食〉されました。
空さんは無理なんだよね~。
さすがうちのギルドの盾様。
頼りになる~。
「こはるちゃん! タマ男を食べるのはいいけど、俺も食べようとしたね!? 食べるならリアルで食べて!!」
「いいからあなたもお逃げなさい! 空でも盾としては不十分なほどのダメージでしたわよ!!」
姫様からお怒りの声が飛ぶ。
って、あ。
後衛の人達が一目散に逃げ出した。
前衛さん達も蜘蛛の子を散らすように逃げてるし!
(餌が逃げるな)
むむむ。
あ、そうだ。
こういう時こそあれだよ。
サン=ジェルマンさんを食べた時に獲得したあのスキル。
んぐぐぐぐ。
あたしはいきんでプルプルした。
生まれろ、生まれろ、生まれろ~~~!
念じていきむ。
お尻のあたりから、牛くらいの大きさの毛玉が4つ転がり出てきた。
転がり出てきた毛玉がもそもそと動き出して狼の姿になる。
ぷるるっと頭を振ったあとは、指示を待つようにつぶらな瞳をあたしに向けてきた。
あたしには、サン=ジェルマンさんみたいに大天使さんを使役できなかったけど、代わりに、自分の分身になる子狼を生み出す能力を貰えたよ!