138 力、手懐けました
20人ほど残っている守備隊さんの部隊にあたしは突っ込む。
「ぐ、化け物か!」
「ひるむな、行くぞ!」
あたしの突然の出現にかなり動揺したっぽい守備隊さん達だけど、立ち直りがそこそこ早い。
けど、乗ってるお馬さんはパニックで言うことをきかないみたいだね。
その間にあたしは守備隊さんを〈捕食〉させてもらうよ。
――ロゼール地方にてジェヴォーダンの獣が確認されました。
あ、ワールドアナウンスが流れた。
やっぱり、NPCか冒険者か、狩る側に存在がハッキリ認識された時にワールドアナウンスされるんだね。
んまぁ、この情報はすでに流されてるから、あたしにはノーダメージ。
次の敵が来る前に、この人達を全員取り込んでどこかに逃げてやるもん。
ガウガウガウガウ、ぱっくんちょ。
守備隊さん全員をおいしくいただいてあたしはその場を離脱した。
とりあえず、安心して休憩できる隠れ場所を見つけないとだよね。
ベタに洞窟を探すべき?
なんて感じで森を走っている間にあたしはふと気付いた。
この姿になりたての時より、微妙に目線の位置が上がってる気がする。
(気付いたか。力を取り込んだことで体が少しだけ大きくなったぞ。力が強くなるほど体は大きくなる)
そうなんだ?
それって、〈捕食〉を続けて大きくなりすぎたら、森から頭が飛び出たりとかまでなるの?
(そこまでなった個体を我は見たことはないが。理論的には可能だな)
へぇ。
夢があるね。
でも、寝床とかで困りそうだね。体を隠せる場所がなくなるから。
(それは問題ない。体の大きさ、大きくなる方に関しては力を取り込むしかないが、小さくなる方に関しては、子狼の大きさにであればいつでもなれる)
は? そうなの? 今でも?
(無論だ。スキル欄にあるであろう。〈最小化〉と。ヌシ、スキルの確認をもうちょっとした方がいいんではないか?)
ほんとにあるし、〈最小化〉。
てか、こんな便利スキルあるなら先に教えておいてよ!
牛より大きな体をうまく隠せる場所が無かったから、隠れ場所を探すのに苦労してたのに!
ぽむっ!
〈最小化〉したあたしは無事子狼大に変化。
トトトと、茂みの下に入り込む。
これなら人からはそうそう見つからないよね。
動物型モンスターに見つかったら〈捕食〉しよう。
ねぇジェヴォさん。
体をおっきく育てられるんなら、あたし、夢があるんだけど。
(ほう?)
20mくらいの大型獣になってさ、頭に仲間を乗せてどしーんどしーん、みたいな。
本当は戦隊としては巨大ロボが欲しいんだけど、妥協して巨大怪獣でもいっかな、みたいな。
(ならばひたすらに食らえばよかろう。強き者を食らえば、それだけ大きくなりやすいぞ)
え? そうなの?
強い人やモンスターを食べれば早く大きくなれるの?
(〈最大化〉できる大きさが強さのバロメーターのようなものだからな。強き者を食らえばそれだけ強い力を取り込める。強い力を得た分だけ大きくなれる。それだけのことだ)
ふむふむ。
ある意味とってもシンプルだね。
強いモンスターに強い人ねぇ――。
あたしの頭にぼんやりとした考えが浮かぶ。
あー。
これは、いけそうな、いけなさそうな。
倫理的にやっぱ駄目かな?
いやいや、でも、いけそうな気もするんだよね~。
(ヌシ、何を考えている?)
ん~?
手っ取り早く大きくなる方法を考え中だよ。
(ほう。その感じだと、何か案を思いついているな。とりあえず聞かせてみろ)
うんそうだね。
ちょっと相談にのってよ。ごにょごにょ。
(ほう。それは中々に賢い気がするが。しかしヌシ、それでいいのか?)
うん。
(では、ここをこうするのはどうであろうか? ごにょがごにょでごにょごにょ)
うわー!
それ頭いいね。うんうん。それ採用。
そんなこんなで意気投合したあたしとジェヴォーダンの意思さん(通称ジェヴォさん)。
作戦の第一段階として、あたしは人型に戻ることになりました。
ジェヴォさんのお力添えがあるからね。
そりゃもう簡単に戻れるわけですよ。
【ジェヴォーダンの獣】クリア
変身スキル〈ジェヴォーダン〉を入手。
おぉ、クエストクリアになった。
というか、クエスト中だったこと忘れてたよ。
今のあたしにとって、クエストは結構どうでもいいっていうか。
あ、そういえば、人型でもジェヴォさんとのお話はできるのかな?
ジェヴォさーん。
ツンデレジェヴォさんおりませんか~!
呼んでしばらく待ってみたけれど、返事がない。
やっぱりジェヴォーダンの形態に変身してる時限定のお話相手なのかな。
ちょっと寂しい。
まぁいいや。
やることは2人(?)でしっかり話し合ったから、あとは実行に移すだけ。
とりあえずは強い人と強いモンスターがいっぱいいる場所に移動しなきゃね。
目指すはギルドハウス。
大丈夫。
世界は繋がってる。
『ねぇ、ロゼール地方っていう所に急に飛ばされたんだけど、始まりの街に帰るにはどうしたらいいの~?』
ギルチャも繋がってる。
『なんだいこはるちゃん。まさか、ワールドクエストに参加してたとか?』
『こはるちゃん~、抜け駆けぇ。行くなら私も誘ってよぉ』
『ありゃりゃ。ごめんね。クエのこと何も考えてなかったんだけど、トラップ踏んだみたいで飛ばされちゃって。ねぇそれより、ギルドハウスへの帰り方』
『ああ、そうね。帰ってきて俺の顔を見れないと寂しいよね。あのね、マップの右下の方に――』
空さん腐ちゃんあんがと!
ハウスへの帰り方はわかったよ。
持つべきものは友達だよね。