135 あたし、狩られるみたいです
「ガオーン」(魔女さん、人型に戻るコツってないの?)
「普通の狼から人に戻る時と同じさね。意識がしっかりしている状態ならできるはずなんだ。そう言うってことは、感覚がわからないんだね?」
「ガオ」
あたしはこくりとうなずいた。
「それが、力に振り回されてる症状の1つさね。力を手懐ければ変身は簡単にできるハズだよ。まぁ頑張りな。ただし、その姿を人に見つかるまでに力を手懐けるんだよ」
「ガオ?」(ほえ? なんで人に見つかるまでになの?)
「これがおんしの今の姿だ」
魔女さんが、全身を映せる姿見をあたしの前に置いた。
そこに映っているのは、全身を赤めの剛毛に覆われた牛くらいの大きさの狼。
ただし尻尾がなんか変。
これ狼のじゃないよね? ライオンとかこんな尻尾じゃないっけ?
それでもって爪が伸びまくり。ひっかいたら痛そう。
牙も鋭くなってる気がする。お肉簡単に引きちぎれそう。ていうか、口からはみ出てる牙があるんだけど。がおー。
「ちなみにわたしもこの力で変身すると同じ姿になる。それで、力を解放したばかりの時にうっかり暴走してしまってね、女子供を100人ほど食い散らかしてしまった」
ちょ。
それってうっかりって言っていい被害なの?
「ガオ」(ぶっちゃけ犯罪だよね)
「正解さね。国から討伐依頼が出てしまってね。猟師やら軍やら冒険者やら、いろんな戦力をけしかけられて死ぬかと思ったよ。それ以来、この姿の獣が見つかったら、即討伐令が出されるようになった」
「……」
それって魔女さんの悪事がもとで、一族の他のみんなも大迷惑ってやつなんじゃ。
「だからおんしは、わたしの愚を犯さないためにも、人に見つかる前にケリをつけないといけないんだよ!」
「ガウ!」
わかった、わかったよ魔女さん!
だから、昔追われてた頃の武勇伝をそんなに熱く語らないで!
あたしにはフラグにしか感じられないの!
ていっても、あたし、もとに戻れそうな感じ、今のところゼロなんですけどね。
そんなこんなしていたら、
「魔女さ~ん。いつものお薬貰いにきました」
小屋のドアを叩く音がした。
え? 待って。
このタイミングで人来ちゃうの?
それって、お客人をさばくために魔女さんがドアを開けて、あたしの姿がNPCに認識されるっていうパターンなんじゃないの?
「はいよ。薬だね。今ちょっと散らかってるんだ。少し待っておくれ」
心配してたんだけど、魔女さんはすぐに対応には行かなかった。
「おんしそこにいたらドアから丸見えだよ。ちょっと何かの影に隠れてな」
それどころか、あたしが見つからないように気を使ってくれてる。さすがママン設定。
なのに。
「お兄ちゃん、魔女さんのおうちの中におっきな何かがいるよ」
外から小さな女の子っぽい声がした。
あたしと魔女さんの動きが止まる。
おっきな何かって、それ、あたしのことですよね?
ドアは開いてないはずなのに、なんでバレてんの?
ドアの方に顔を向けてみれば、ドアは開いていないけれど、その横の窓に張り付いてる女の子らしきお顔とこんにちは。
【Lv150】ジェヴォーダンの獣
狼獣人の変身能力の1つ、ジェヴォーダン。
それは、暴走を伴う危険な力だった。
過去に力を暴走させ人々を襲った個体もいたため、国は、ジェヴォーダンの獣が現れたら即時に処刑の令を発する体制になっている。
そんな中、新たにジェヴォーダンの力を解放させようとする狼獣人が1人。
しかし、不幸なことに、力を手懐ける前に変身姿を市民に見られてしまった。
危険な獣を狩りに様々な戦力が投入される。
狼獣人よ、狩られる前に人の姿に戻れ!
※クエストクリア以外で人型に戻りたい時は、クエストを破棄してください。
※クエストクリアするまで、何度でも受注し直せます。
クエスト受注したー!
でもなんかこれ、難易度高そうなんですけどー!
まぁ、注釈がいろいろついてる分だけ親切かも。
クリアするまで何度でも受注できるあたり、かなり親切な気すらする。
でも、その分手加減がなさそうだね。
「なんてこったい、人に見つかっちまうなんて。いいかい、今からおんしをわたしの力で人の少ない地域に飛ばす。そこで、狩られる前になんとしても人型に戻るんだよ。おんしはわたしの子だ、信じてるよ!」
魔女さんがあたしの前に杖を掲げて何やらつぶやきだした。
あたしを逃がしてくれるんだね。ありがとう。
でもさ、魔女さんが女子供を殺すって暴走をしなければ、あたしがこんな目にあわなくてもすんだんじゃなかろうかという気持ちも少々。
ゲームだからね。
どうやっても似たような試練が待ち受けてたんだろうけどね!
しかし子供ちゃんたち。
ドアさえ開けなければ大丈夫だろうと思っていたのに、まさかの窓から覗いてくるだなんて。
人さまの家の中を窓から覗くのは、ダメ、絶対!