134 新しい力が貰えるらしいです
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ギルドクエストクリアおめでとう会を開いた次の日。
あたしは始まりの街をぶらぶらしていた。
特にもう用はないんだけど、ここ最近の日課っていうか。そんな感じ。
ぷらぷら歩く。
そうして広場にさしかかった時、鳩さんがぽっぽーっと飛んできた。
「君、なんか見たことがある感じの鳩さんだね?」
あたしの言葉がわかるのか、鳩さんは首を前後に動かして肯定っぽい動きをする。
前にも鳩さんが不自然に飛んできたことあったんだよね。
あの時は足に手紙をつけていたような気がするけど。
今回はどうかな? って、あったし、手紙。
手紙を鳩さんから外してあげたら、鳩さんはどこかに飛んでいった。
あたしは手紙の中身を見る。
――レベル150到達おめでとう。
お祝いをしたいから、近くの森の小屋まで来ておくれ。
森の魔女
レベルカンストのお祝いくれるんだ!
わーい。
くれるというものは貰いたいので、あたしはまっすぐ森の魔女さんの家に行く。
魔女さん、たのもー!
ドンドンドンドン
魔女さんの小屋のドアを豪快に叩く。
「うちのドアを壊す気かい!?」
「あいたっ!?」
予想に反して、後方から魔女さんの声がして頭を叩かれた。
振り返ってみると、そこにはローブをまとったお婆さん……森の魔女さんが立っている。
あ、忘れている人がいるかもしれないから説明すると、この人、あたしの親設定らしいんだ。
詳しくは『あたしとござると怪人と。頭は狼です』の章、58~63話を読んでね。
「まぁいい。よく来たね。とりあえず部屋に入りな。茶でも出そう」
「わ~い」
魔女さんに続いてあたしも小屋に入る。
椅子に座ってお茶が出てくるのを待つことにした。
魔女さんはかまどに薬缶をかけて、その間にお茶菓子の籠を用意してくれている。
お茶の前にお菓子が出てきた!
いっただきま~す!
がぶがぶがぶがぶ。
「よく食べる子だねぇ」
「このお菓子おいしいね。手が止まらないよ」
「そうかいそうかい。喜んで貰えたなら何よりだ。たっぷりお食べ」
目を細めた魔女さんがニコニコ勧めてくれるから、あたしはますますお菓子に夢中になる。
食べまくっても太らないデータの世界って素敵。
「そういえば。魔女さん、レベルカンストのお祝いって何くれるの?」
「変身能力だよ」
「前にもらったよ?」
「前のより強いやつさね。強力な狼に変身できるスキルを教えてやろう。強すぎる力だから扱いが難しいんだが、今のおんしなら従えられるだろうからね」
ほえ~。
変身スキル2つ目なんてあるんだ。
どんなのになれるんだろ?
あ、お茶も出てきた。
こりゃどーも。ずずずっ。
「そろそろ小腹は満たされたかい?」
「うん、かなり~」
あたしはお腹をぽんと叩いた。
小腹どころか、普通に腹八分くらいまで食べちゃった。
「そうかいそうかい。新しい力を得るにはエネルギーがいるからね。それだけ食べたのなら十分だろう」
にこにこ顔のまま魔女さんが席を立つ。
あたしも動いた方がいいのかな?
とりあえず席を立った。
そんなあたしの胸に魔女さんが手を置く。
「今からおんしの中に眠る古き血の力を叩き起こす。凶暴で我儘な力だ。おんしを振り回すだろう。それでも力を呼び覚ます覚悟はあるかい?」
「あるある。ぜんぜんおっけー」
あたしは軽い調子で腕で○を作った。
新しい力ってどんなのなのかな?
あたしを振り回すっていうくらいだから、強い代わりにバーサク状態になる系のとかなのかな?
「いい覚悟だ。それじゃいくよ。ふんっ!」
魔女さんの表情が真剣になった。
あたしにはあんまり変化はないけど……、って、うほおおおお?
なんか体が熱いよ!
あ、あ。
2本足で立ってるの辛い。
こういう時は安定の床にぺたん。
体の感覚がおかしい。
って、あたしの手、めっちゃたくましい硬そうな毛がもっさーって生えてきてるんだけど。
爪もにょにょっと伸びて、ひっかいたら痛そうな感じになってる。
こころなし、視線の高さも上がってるよーな?
てかあたし赤毛だったっけ? 全体的に茶色っぽい色してたと思うんだけど。
なんか、寝ぼけてるみたいに頭がうまく回らないなぁ。
「ふむ。問題無く力を引き出せたようだね。今のところ暴走もしていない、か。それで、どうだいわが子や? そこから元の姿に戻れるかい? 自力で人型に戻れれば、おんしはその力を完全に手懐けたことになる。新たなスキル〈ジェヴォーダン〉を得られるだろう」
「ガオーン?」(戻れなかったら?)
「そのままさ。そのうち今ある理性も力に飲み込まれて、ただの化け物になり果てるかもね。しまいにゃ国から討伐隊を出されて、狩られておしまい」
「ガ、ガオ!?」
と、討伐隊!?
ちょっとそれ聞いてないんだけど!
そのさ、大きすぎるリスクは力を引きずりだす前に教えておいて欲しかったよね!?
ああ、でも、とりあえず人型に戻れればいいんだっけ?
えとー。
あー。
どうやるんだっけ?
システムの力で戻ろうにも、普段のスキルがほとんど封じられてる。
既に持っている〈変身・狼〉スキルを使って人型に戻るっていうのはナシみたい。
ちょっとずるいけど、ギルメンの誰かに連絡して、変身ぴこぴこハンマーでピコってもらおうかな。
って、ギルチャ禁止、フレンド機能による連絡禁止。
会話系で解放されてるの通常会話だけって、遠くに救援を求めるのは駄目ってことですか!
厳しいー!
あ。
でも、目の前に魔女さんがいるじゃん。
魔女さんにピコってもらえば万事解決なんじゃない?
「ガオーン」(魔女さん。アイテムであたしを叩いて欲しいんだけど)
「すまないね。わたしは、決められた手助け以外はしてはならない決まりになっている」
なんですと。
あたしのズルは事前に封じられてしまいました。
あたし、今、自力で人型に戻れる気配がないんだけど。
どうしよー。